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番外編 ◆ 魔道具の話 ◆


◆◇◆ 収納色々 ◆◇◆



 エルのオリジナル魔道具で、俺が使っている異空間バッグの改良品がある。

 これ、俺の工房に置いてあるでっかい棚と連動していて、この棚に置いてある物が小さな鞄を介して取り出し可能という代物。出先で魔道具の修理を頼まれた時なんかに、ものすごく重宝しているんだ。

 いつも持ち歩いている異空間バッグに全部放り込んでおけばいいんだろうけど、出先で道具を使う事なんて滅多にないんだよ、俺の場合。年に数回かな、そんな頻度なのにいちいち鞄に詰めるのは面倒だろ。入れっぱなしにしておくと、手入れ忘れそうだからしたくないし。……いくら異空間バックに入れておけば劣化の心配はないとはいえ、うっかり使ったまま手入れもしないでしまい込んだら、ちょっと嫌だしな。それに、出来れば道具類は目に見える場所にひとまとめにして置いておきたいのですよ。

 そんな悩みを何となくエルに愚痴っていたらですね、ある日エルが小さなバッグをくれたわけです。

 なんだこれって聞いたら、一緒に渡された複数の魔石が嵌め込まれた円柱形の置物みたいなものを渡されまして、それを道具を置いている棚の、正確な中心点に固定しろと言われ、棚のサイズ計って中心点に固定したら、途端に術式が発動しまして。

 何だろうかと思っていたところでタイミングよくエルから連絡があり、使い方を説明してくれました。

 以来、異空間バッグと共に持ち歩いています。

「棚と鞄を繋げるって発想はなかったわ」

 設置してしばらく経ったときに、ミサキが現物が見たいとやってきました。エルから聞いて、興味が湧いたらしい。今は真剣な顔で棚と出し入れ可能なバッグを観察中。意外だったんだけど、ミサキはまだ持ってないんだって。

「いや、俺も軽ーく愚痴ったらこんなことになって、びっくりしたんだが」

「あいつ、本当に妙なの思いつくよな」

 うん、否定はしないよ。俺的にはコレ、ものすごく有難いけど。

 エルは本当に、独特な魔道具を作り出している。大半は一般向けじゃないんで、身内だけで使ってたりしてるらしいんだが……そうだよ、大公妃殿下の護衛騎士たち。今考えてたらあいつら、変わり種の魔道具見ても反応薄いと言うか慣れてますって反応しか返ってこないなとは思ってたんだけど、当たり前だよね。あいつが作り出す魔道具を普段から使ってたらそうなるわな。

「……うん、いいな、これ。どうせならもうちょい規模でかくできねーかな」

「でかくしてどうするんだ?」

「閣下辺りが喜ぶだろ。あの人、外交担当でもあるし」

「は? ……あ、ああ、なるほど。あれ? でも、確かお前が作ったとんでもない容量の異空間バッグ持ってなかったっけ?」

「あるけど、なんかあれ、デザイン気に入ってくれたみたいで普段使いしてんだと。で、んな大容量な鞄だとバレても面倒だろ。なんで、別口でいい物ないかって相談されてたんだよ」

「なるほど」


 そんな話をして、エルの相談した結果。


『ん? だったら、一部屋単位くらいでいいなら出来なくもないよ』

 あっさりと、そう言われて思わずミサキと顔を見合わせてしまった。

「……すでにあるのか?」

『あるよ。冬用に野菜なんかを備蓄している倉庫があるんだけど、そこの一部を部屋単位で異空間収納化することには成功してるから、それと繋げる鞄つくればいいだけでしょ』

「いや、そんな簡単に言うけどさ」


 部屋単位で異空間化って、聞いたことないんだけど。


 まあ、すでに棚をある意味、異空間化してるわけだから出来なくはないんだろうけどさ。

 つーか、部屋を異空間化したら、どうやって出し入れすんの? 異空間場バッグと同じ原理なら、基本的に生き物は弾かれるんだから、部屋に入れないだろ。

 そんな疑問をぶつけたら。

『扉の開閉で、異空間化を一時的に解除するしくみになってる。部屋はまあ、こちらでは食料の備蓄が目的なんでね。元々、倉庫全体が魔道具で低温設定してある状態だったから、一時的に異空間化が解除されたとしてもそれほど問題はないんだ。保存してある食材の回転も速いし』

 という事らしい。

 どうやら、王宮で管理している強大な備蓄倉庫の一角に、実験もかねてエルの主である大公夫妻宅で使う食料を備蓄する部屋を作ったらしく、ついでにそこと大公邸のキッチンを繋げたらべんりじゃんって思って作り出したらしいよ。


 そんな簡単に作れるようなもんじゃねーだろと言いたかったが、そこはまあ、エルだしな。


 ただまあ、その前にもう一つ気になる事をさらっと言ってやがったよな、コイツ。

「倉庫全体が冷蔵庫化してるって、そんな事出来るのか?」

『材料さえあれば可能だね。ただまあ、あまり広いと術式の範囲が曖昧になる可能性もあったから、何箇所かに中継地点を設置することにはなったけど。今のところ、それで問題なく作動しているよ』

「それ、倉庫自体を冷蔵庫とか冷凍庫にしてるって事だよな?」

『うん、そんな感じ。倉庫全体を冷蔵庫化して、その中に作った小部屋の内部を冷凍庫化してみた感じだね』


 なんか、本当にあっさりととんでもないことを言ってるんだけど、マジでなんなんだろうね、コイツ。


 そもそも、この世界では冷蔵庫も冷凍庫も一般的ではない。それらを作るために必須ともいえる氷属性の魔石が稀少で手に入りにくい上に、値段もバカ高い。なんでまあ、よほどの金持ちでもない限りは、個人的に所有していることはないんじゃないかな。ウチには両方あるけど。

『でも、アシュタロト閣下が外交で使うって事は、鉱物資源が中心でしょ? だったら異空間化を解除したときの温度管理とかも特には必要ないだろうし、もっと簡単にできると思うよ』

「お前のその発想は、一体どこから湧いてくるんだ」

『ん? ああ、昔ゲーム内で当たり前に使っていたものがほとんど。こんなのあったらいいなぁって思ってたからさ、今それが自分の手で作り出せるのが面白くてねぇ』

「ああ、なるほど……」

 そうだった。コイツ、某MMOユーザーだった。

 てことは、他にも色々と便利なモノを作ってんじゃねーのかなとは思ったけど、取り敢えず今は個人的な好奇心は置いといて。

 エルが言う、異空間収納なるものをミサキでも設置できるのかを詳しく聞き出し(俺は無理!)、ミサキなら何とかなるだろうという事で後日、改めて教えてもらいに行くことにしたようだ。



 数日後、ミサキから連絡が来て、無事に設置が完了したとの事だった。なんか、アシュタロト元帥ばかりか魔王様まで大喜びしていたようで、ものすごく感謝されたらしい。






◆◇◆ ドライヤー ◆◇◆



 ザックは見た目、優し気で大人しそうに見える。明るい茶色の髪に薄い茶色の瞳だから、色合い的にも受ける印象は柔らかい。若干、垂れ目なんで余計にそう感じるんだと思う。……外見だけなら、な。

 そんな従者様は、本日も俺を煽りまくっております。次から次へと仕事持ってきやがって少し休ませろよお前。その優しそうな外見で鬼のごとく仕事積み上げるって何なの。ほんの少しでもいいから、その外見通りな優しさ向けて見ろ。たまには。

「俺の見た目なんてどうでもいいですから、さっさとそれ終わらせてください。いつまでかかってんですか」

 しかし、俺に対してはこんな感じだ。いつも通りだけど。おまけに何故か考えてることが筒抜けになるし。

 絶対に、何かやってんじゃねーかと思ってるんだけど、聞いても否定するんだよ。

「何もしてないし、旦那が分かりやすいだけです」

「……俺、何も言ってないよね?」

「声には出してないですね」


 しれっと返してきやがる!

 いつもの事だけど、ハラ立つな!


「今に始まった事じゃないんだし、いちいち気にしてたらキリないっしょ。さっさとやる」

「その通りだけど、適当に流すの止めてくれない?」

「え、面倒」


 面倒ってなんだよ! しかも真顔で言うかお前!?


 オカシイな俺が主のはずなんだけどな、なんだろうかこの扱い。

 いつもの事とはいえ、年々俺の扱い雑になってんぞコイツ。

「はいはい、別に雑に扱ってませんよ、旦那の気のせいです。それよりさっさとやる、今日はこの後も予定つまってるんですから」

 そう言いながらも、どんどん俺の机に確認待ちの書類を並べていくザック。いや、どっからどう見ても雑に扱ってるだろーが。

「キ・ノ・セ・イです」

「何も言ってねーだろ」

「顔に出てます。それよりもほら、さっさと片づけないと大切な打ち合わせの時間を削ることになりますよ」

「あ、それはマズイ」

 うん、ものすごくマズい。仕事がどうのというよりは、俺の精神的に。

 色々とザックには言いたいことがあるが、取りあえず今は仕事をさっさと終わらせてしまわなくては。

 そのザックは、俺が一つ片づけるとそれを確認しつつ、次の書類を机に置いている。一見、適当に並べているようでも、俺が確認しやすいように種類ごと日付順に並べてくれてんだよな。こういうところは本当に出来る従者様なんだけど。

 まあ、この後も色々と忙しいのは俺もわかってるのでさっさと終わらせよう。


 実はですね、今日はある方との打ち合わせがありまして。

 新しい魔道具に関する事なんだけどね、ちょっと本格的に商品化しようかって話になってるのよ。ミサキたち呼んで具体的な話をする前に、もうちょっと商品の完成度を高めておこうと思いまして、発案者をお招きしているわけです。で、その時間を確保するために、それ以外の仕事をこうして急ピッチで進めているわけなんですよ。



 さて、何とか予定の仕事を終えまして、ただいまお客様の到着待ちです。ザックはお迎えの準備に不備があってはと、色々と確認してくれているよ。任せたぞザック、美味しいお菓子もたくさん用意しておいてくれ。

 そんなことを考えつつ転移門のある部屋に移動すると、タイミングよくお客様がいらっしゃいました。

「はくしゃく、こーちわ!」

「こんにちは、イザーク。ようこそ」

 てててっと走ってきて、ぽすっと足に抱き着いてきた。可愛いっ。

 当然、抱っこする。


 本日のお客様、イザークです。

 実はですね、イザーク発案の魔道具を商品化しようかという話になって、今回その打ち合わせをすることになったんですよ。試作品というか第一号は完成していて、それを作る時に俺が手伝ったってのもあってね。

「ロックもようこそ」

「お邪魔しまっす」

 イザークの専属護衛であるロックも一緒に来ている。まあ、当然だよな。

 で、俺の工房に移動したわけですが。

 取りあえずは到着したばかりなので一休みしていただこうと、お茶とお菓子をお出しして接待しております。もうね、ニコニコしながらお菓子食べてるのが可愛いのよ!

 あ、いや、なんかもう、このまま話進めてもいいかな。

「イザーク、お母さんに作った魔道具、どうだった?」

「ほかほかするの、いいねゆったよ!」

「お、良いねって言ってくれたんだ。頑張って作ってよかったね」

「うん!」


 ニコニコしちゃってまあ、可愛いこと!


 イザーク発案の魔道具、言ってしまえばドライヤーです。イザークのお母さんが髪を乾かす間が寒そうなので、どうにかしてあげたかったんだって。優しい子だよねぇ、本当に。

 でね、温かい風で髪を乾かせばお母さんが寒い思いしないで済むって考え付いたようで、イザークはそれを師匠であるミサキに相談。そうしたらミサキの奴、それらしい形だけを作って肝心の術式をイザークに考えて来いって宿題出したんだって。イザークも頑張ってたんだけど、どうにもうまくいかなくて、そんなときにちょっと色々あって俺の所へ相談に来たわけ。


 つーかミサキ。お前、幼児に出す課題じゃねーからな、それ。

 将来有望な天才児とはいえ、もうちょっと考えろよと言いたい。いくら何でもスパルタすぎるだろ。


 そう思ったんだけど、なんだかんだ言ってイザークは完成させちゃったんだ。俺、ちょっと手を貸しただけだからね? ちゃんと自分で考えて術式を組み上げて、きちんと熱風が出る状態のものを作り上げたんだから、マジすごい。まあ、温度の制御とかその辺りは俺が設定したんだけど、手を貸したのってそれくらいだし。将来有望どころじゃないよね、本当に。

「そいでね、とーしゃまもね、いいねゆったの! ばーばにもちゅくったんだよ!」

 そんな感じで嬉しそうに、お母さんから聞いてきてくれた使い居心地とか、お父さんにも絶賛してもらった事とか、おばあちゃんにも同じのを作ってプレゼントしたら感激された事とか、いろいろ報告してくれたよ。


 その結果、特に改良点は見当たらない。


 術式はまあ、はっきり言ってしまえば、イザークが組んだものなので改良の余地はある。というのも、イザークはまだ術式を上手にひとつにまとめる事が出来なくて、いくつかに分かれているものを順番に起動するように組んだので、ちょいと余計に魔力を使うんだ。

 でもまあ、これはこれでいいかなとも思う。

 余計に魔力を使うと言っても微々たるものだし、何と言ってもイザークの功績第一号。何れ改良版を出すことになるかもしれないが、それはイザークがもうちょい勉強した時にやりたいと思ったらやればいいんじゃないかなと思ってる。ただ、起動する時の術式がちょっとだけ不安定なので、そこだけは少し調整が必要にはなるかな。ほら、万人に安全に使ってもらおうと考えると、その辺りはかなりシビアに考えないとだから。こういったモノに慣れてる人間が使う分には、全く問題ないんだけど。

「すごいですねぇ、イザーク坊ちゃん。もう立派な職人ですね」

「んふふー」

 ザックに褒められて嬉しそう。

 イザークね、ザックにも懐いてるからねぇ……こいつはこの見た目もあってか、子供には好かれやすいんだよね。まあ、元々子供には優しいし、ウチの子たちも可愛がってくれてたんで子供の扱いにも慣れてるってのもあるんだろうけど。

「お皿が空ですね。次はどれを食べます?」

「んとね、そっちの、しろいの」

「これですか?」

「あい!」

 こんな感じでおやつを食べつつ色々とお話しいただきまして、打ち合わせは終了。実際に商品化するまでの工程はエルとミサキにも相談しつつ決めるとして、方針が決まったらイザークのお父さんには報告する予定。息子が開発した魔道具第一号が商品化するって事で、あちらはすでに大盛り上がりなんだそうな。

 その後は遊んでーというイザークの要望に、喜んでお相手させていただきましたとも! ザック共々お庭で心行くまで遊んでいただきまして、暗くなり始める前にお帰りになりました。



 後日、イザーク発案の魔道具を正式に量産することが決定。

 イザークにとっては記念すべき一作目の魔道具の販売が決定、開発者の名もきちんとイザークだという事を明記した上で売り出すことをミサキが伝えに行った所、イザークの両親と祖父母が狂喜乱舞だったそうです。




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