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12 予定外すぎてどうしたものか

誤字報告ありがとうございます!


 規格外娘二人からの全面的な協力を取り付け、さらにエルからは追加で色々と情報を得ることができた事で色々と先の予定まで立てられるようになった。これに関しては感謝。しかし、それ以外にもあいつら絡みの色々な厄介ごとに巻き込まれるのが決定したような雰囲気がぬぐい切れないのが怖い。


 マジやめてホントやめて。


 あの規格外娘どもが簡単に片付くようなことを言ってくるわけないんだよ、大概の事は自力で何とでもできるんだから!

 そんなわけで戦々恐々としながらも、本日は二か月に一度の魔道具開発会議です。

 これまではミサキの店に集まる流れだったんだけど、レティが学園に通うようになって俺もなんだかんだで学園へ行く頻度が上がりそうだったんで、しばらくはウチでやらないかとお願いしたんだ。レティが学園に入学するちょっと前に行ったときに。まあ、あの時すでにコイツラも巻き込む気だったので、こちらの状況を説明しつつお願いしたら二人とも快諾してくれたと言うわけ。

 それはいいんだよ。本当に有難い。真面に行けば移動だけで片道五日くらいかかるからさ。それが無くなるのは本当に有難いんだよ。


 だけど、ね?


「なんで俺の家に転移門設置されてんの!?」

「移動メンドイ」

「メンドイじゃねーだろ家主の許可取れよ! つーか、いつの間に設置した!?」

「うっせーな、エレーヌの許可もらってるっつーの」

 本当に面倒だと言わんばかりにミサキが爆弾発言しやがった。


 ちょっと、聞いてないですよ奥さん!!


「あらあら。お伝えしたではありませんか、旦那さま。離れの一部屋、少し改装させてくださいなって」

「わからないよそれじゃ!?」


 改装するの言葉から転移門設置は結び付かないでしょ!

 あ、そんな小首傾げないで可愛い。


「十日くらい前からちょくちょく作業しに来てたんだけど。ルシアンとは出会わなかったねぇ、そういえば」


 つーかお前、いない時狙って来てたんじゃねーの、エル?


「だいたいオカシイだろ! 本来、国で管理するような代物を個人宅に設置するって! 何考えてんだよ!」

 現在、転移門に関する技術はエルが所属するグラフィアス王国の固有知的財産だ。門外不出と言うわけではないそうなんだが、設置できるだけの知識と技術を持ち合わせているのはグラフィアス王国だけ。なので設置に関しては必然的にグラフィアス王国の協力が必要になるわけで、そうなるとそれに精通した魔導師が派遣されることになる。必然的に、あちらの許可も必要になる。国お抱えの魔導師を派遣してもらうんだから当たり前だ。

「ん? 殿下の許可は頂いているし、これ新しいバージョンだから実験もかねてる」

「は!?」

 またとんでもない事をさらっと言いやがったな、コイツ。

 実験ってなんだ実験って!

「一応、ミサキの店にも設置してきたし、我が家にも設置してあるよ」

「まてこらっ」

 いま何言いやがった。

 ミサキの家はともかく、コイツの家ってグラフィアスの王宮敷地内だろーが! いくらなんでもマズイだろ、それはっ。

「ああ、警備上の問題とかなら大丈夫。そもそもこの転移門、認証型だから」

「認証型?」

 通常、転移門って起動させた状態で魔法陣の上に乗れば、繋がってる先に転移できる。起動さえしていれば、誰だろうと何であろうと移動できるものだ。だからこそ、管理は厳重にしなければならないし、万が一の事を考えれば王宮近くや街の中心部などには設置できない。誰が入って来るかわからないのだから。

 だけど、これは認証型って言ったな? てことは、ある程度は制限を掛けられるって事か? できるのか、そんな事が。

「そう。まあ、全員である必要はないんだけど、あらかじめ登録してある対象がいないと起動しない。登録の方法と管理方法、その他諸々の条件はあとで教えるよ、ここはルシアンに管理してもらわないとだし」

「設置された以上はやるが」

 放置するわけにもいかんしな。自分の家だし。

 しかし、まあ……なんなのホントにコイツラ。本人の同意無しに進めんなよこんな大事な事。言っても無駄だから言わないけど。


 あー、頭痛い……



 **********



 午後になり。

 設置は終わったっつーんで、取り敢えずそのまま隣の部屋に移動してお茶してたんだけど、色々と聞いたり確認していたら新たな問題発生。……来ましたよ、義兄がっ。で、転移門を設置した部屋に逆戻りですよ。せっかく寛いでたのに!

「おお、これが……! 有難い、大公殿下に感謝だ! 実験的にとは言え我が国を選んでくださるとは!」

 うん、義兄は知ってました。まあ、普通に考えればそうだよね。実験とは言え他国に直通な転移門を設置するんだから、当然双方の国の許可はいるよね。

 ちなみにエルは既に帰宅済み。義兄はエルの転移魔法の件は知らないので、ここにいるのを見られるのはマズイと判断しての事。もちろん、ミサキは残っている。元から協力者という事になってるらしいので問題ないらしい。

 マジで俺だけかよ知らなかったの。オカシイだろ当事者なのに、なんで蚊帳の外なんだよ俺だけ。

「相談しようと思ったんだが、忙しいと一蹴されそうだったのでエレーヌに進めるよう言っておいた」

「だとしても一言、言えよ」


 なんでそこで黙ってるって選択になるんだ!

 つーか、なんで奥さんも教えてくれないんだよぉ……


 軽くへこんでたら、察してくれたらしい奥さんが隣に来てくれた。あ、好き。

「言ったらなんだかんだ言って先に延ばそうとするだろう」

「当たり前だ。いま諸々の準備で忙しいんだぞ。だいたいそんなに急ぐようなもんでもないだろう」

 転移門の設置は、数年のうちにって事で話は纏まっていると聞いてるんだが。そこまで急ぐような事でもないと思うんだけど。

「何を言う! 早く設置して検証を重ね、陛下にご報告しなければ正式な着工許可が下りないではないか!」

「いや、だから。そこまで急ぐ必要ないだろ。設置は本決まりなんだから」

 繰り返しそう言ったら。

 なぜか至極真面目な顔で、肩に両手を置かれた。

「正式に開通したらアルマクへ行きたいんだ」

「ふざけんな」


 真面目な顔して何言いやがるかな私的な理由かよ!


 ホントにコレが一国の宰相か。マジで大丈夫か、この国。

「いいではないか! しばらく使用して問題ないとなればご招待くださると大公殿下よりお誘いいただいたのだ!」

「なんの話してんの?」

 思わず突っ込んだ俺は悪くない。

 だって、あちらの大公殿下との話を詰めてるのは確かに義兄だけどさ。あれって一応、商談なわけじゃん。しかも我が国にとっては初となる転移門の設置が掛かった大事な。その席で何の話してんのって思うよね? しかも会談っつっても、本人達、直接会ったことないからね? エルが作り上げたテレビ電話みたいな魔道具を介しての会談で、向こうから来た代表と義兄が主立って話を進め、そこに魔道具を使っての参加してただけなはず。

 普通なら、その後の会食など親睦を深めるための席を設けるから、そこでそう言った話が出るなら、まだわかるんだが。

「いや、大公殿下がな。できれば本命を着手する前に一度会って話をしたいとおっしゃられて。それもあっての、その転移門だ」

「余計に色々とおかしいだろ」

 ねえ、国家間の重要案件を話してるはずなのに、なんでそんな事になってんの? つーか、なんで試験的ではあってもそんなもんを一個人宅に設置するわけ?

 マジでわけわかんないんだけど。

「エルが言ってたぞ。大公殿下がお前にも興味津々なんで、まとめて招待したいんだと。まあ、早くても来年あたりだろうが、私と私の知り合いも何人か行く予定だから」

「だから、なんで俺を抜きにして話進めてんの?」

 どうやらミサキも行くらしいのは分かったけど、俺を除け者にして話進めるのオカシイよね?

「細かい事はキニスンナ。……ああ、エルから通信入った。試験運用開始するから起動しろってさ」

「誤魔化された感、満載……」

 なんか納得できないが、エルが転移門を使ってこっちに来るってんで、こちらも受け入れ準備を開始する。

 諸々の設定や許可の出し方はさっきエルから説明されたので、ミサキに手伝ってもらいつつ進める。認証型なんて新しい手順を組み込んだおかげで通常の転移門よりは少々扱いが面倒らしいが、俺はそもそも普通の転移門すら見たことが無かったので何がどう面倒なのかわからん。ミサキ曰く、通常の転移門だとこんな初期設定みたいな作業はないらしい。

「アストラガルに設置されてるのはこの辺りの認証とかいらねーし。ただ、セキュリティ考えたらこっちの方が後々楽ではあるだろうな」

「ああ、通常の転移門だと警備の問題があるか」

「そう、常に繋がりっぱなしの状態だから。これだと管理者登録してる奴が起動させないと使えねーから、その点は安全だろ」

「確かに。ミサキそっちにこれを」

「了解。こっちいいぞ」

「よし。起動させるぞ」

 教えられた通り、核となる魔石に手を当て魔力を流し込む。

 ふわっと魔力が床に掛かれた魔法陣に広がり、淡い光を放ち始めた。

「大丈夫だ。安定してる」

 魔法陣に手を当てて観ていたミサキが呟いた。どうやら問題なく起動したようだ。自分の店にこれと同じ転移門を設置したとか言ってたから、俺よりはわかってるだろうから疑いはしない。

 俺も同じように床の魔法陣に手を当ててみる。

 魔石から供給されている魔力が、魔法陣のなかで巡回しているのが感じ取れた。

「なるほど。こんな感じなのか」

 思わず呟く。

 これも一種の魔道具だ。俺も魔道具職人として色々なモノを作ったりしているから、魔道具にどんな感じで魔力が流れるかは知っている。だが、これは俺が知っているどんな魔道具とも違った。

「流れが独特だろ」

「独特と言うか、まるで別物だな」

「古代魔法だと、これが普通らしいぞ」

「……いまの時代では受け入れ難いだろうな。この複雑さは」

 だけど、転移門の知識と技術が門外不出でもないのに広まることが無い理由は分かった気がする。これを理解し扱えるだけの魔導師や職人がいないだけだ。

「まあ、本家のグラフィアスでも単独でこれを作れるのは片手程度らしいから。他じゃキビシイだろ」

 現状、魔法に関してはその実力が突出しているグラフィアスでもそうなのだとしたら。ますます他では難しいかもしれない。

 例外的にそれが可能だったのが、ミサキが暮すシェダル大陸にある魔族の国アストラガル。

 他種族を圧倒する魔力と魔法の才能を持った種族で、その有能さは他種族の比ではない。それ故に迫害され続けている種族でもあるんだけどね。ただ、グラフィアスと転移門で繋がったことで、周辺各国の様子は変わりつつあるらしい。昔から行商人なんかは偏見なく付き合っていたらしいんで、それに便乗してくっついて行く冒険者なんかも増えているって話だ。

「ああ、完全にあちらと繋がったな。使えるぞ」

 ミサキが言うと、それまで黙って見守っていた義兄が目を輝かせた。

「ついに……ついに、我が国にも転移門が!」

 感動しているらしい義兄は、取り敢えず放置。あ、奥さんが少し引き離してくれた。ナイスです、そのままちょっと相手をしていてください。

「エルの方も起動したってよ。こっちが良ければ試運転開始するって」

「了解、いつでもいいぞ」

 俺が答えると、ミサキが通信機を通してエルにそれを伝える。

 次の瞬間、魔法陣が強い輝きを放ち始めた。

「眩しっ」

 呟くと同時に光も消え、そこにいたのは。

 一人は見慣れたエルヴィラ。そして、もう二人。

 一人は銀髪の騎士。中央に立つ人物の少し後ろにエルと並んでいるから、間違いなく護衛だろうな。そして、中央の人物。優しげな雰囲気の、男性。茶色の髪に緑の瞳をした、見るからに高位貴族と分かる雰囲気の青年だ。しっかし、二人ともシルヴァンに負けてないくらいのイケメンだな。誰だコレ。

「た、大公殿下!?」

「うん? おお、宰相殿。貴方が立ち会われていたのですか。実際にお会いするのは初めてですね」

 にっこりと人好きのする笑顔で中央の青年が答えているんだが。


 義兄上? いまなんつった?


 ちょっと色々と理解が追い付かない。ちらりとエルに視線を送れば、無表情ながらもなぜか呆れ果てている雰囲気は見て取れた。

「うん、良い感じに安定させているね。これなら問題ないだろう」

 何やら上機嫌で転移門の魔法陣を眺めている青年に、エルがすっと近づいた。

「殿下、彼がルシアン・グランジェです」

 エルがサラっと紹介。

 ちょっと待て。なんで俺を先に紹介した? 魔道具で面識あるとはいえ、普通は宰相が先なんじゃないの?

「ああ、君か! エルから話は聞いているよ。是非とも一度、ゆっくりと話をしてみたかったんだ」

「殿下。先にきちんと名乗ってください」

 横からもう一人の青年が突っ込んでる。

「申し訳ない。私はミハエル・ファン・デン・フェルデン。グラフィアス王国の王弟だ」

 なんてこった、あちらの魔道具開発の責任者が来るとは。つーか、いくら責任者だからってテスト運転で王族が来るか?

「ご挨拶痛み入ります。グランジェ家当主、ルシアン・グランジェです」

「そう畏まらないでくれ。君とエル、ミサキは同類だと理解している。今後は込み入った話をする機会もあるかと思うが、よろしく頼むよ」

 にっこりと人好きのする笑顔で、いきなり爆弾落したぞこの人!

 要するに、俺が前世の記憶持ちだとわかってるって事ね。しかも今後の付き合いもあると宣言されたって事じゃねーか!


 これ、絶対に逃げられない奴だ。


 めんどくせーことに巻き込みやがってとエルに視線を送ると、しれっと無視されたぞコノヤロウ……!

 レティの件で今後も色々と手を貸してもらう予定だし色々な便利魔道具も貸してもらってる身だから文句言えた義理じゃねーかもしれねーけど、これは違うだろ!

「旦那さま」

 そんな事を思いつつちょっとイラっと来てたら奥さんが来てくれた。

 ああ、俺の癒し!

 おいでおいでと招き寄せて隣に立たせる。

「ご紹介します。妻のエレーヌです」

「エレーヌ・グランジェでござます。ようこそお越しくださいました。皆様、よろしければ隣の部屋へお越しください。お茶のご用意をさせていただいておりますの」

「申し訳ない、突然の訪問にもかかわらず受け入れてくれたこと感謝する。……レンブラント」

 殿下が斜め後ろにいた青年に声をかけると、青年が頷いた。

「次の予定まではまだ余裕があります。少し落ち着かれてから話を勧めた方がいいでしょう」

「うん。では、お言葉に甘えさせてもらおうか」

「さあ、どうぞこちらへ」

 奥さんの案内で皆さんがぞろぞろと移動する中。

 銀髪の護衛らしき青年が足を止めてこちらを見た。なんだ?

「ご挨拶が遅れました。レンブラント・ファン・バーレンです。妻が色々とご迷惑をおかけしているようで」

 そう言って、騎士らしく礼を取る青年。

 あ、エルの旦那さんか!

 そういや上司だって言ってたな。なに、こんなイケメンな旦那さんだったの? 本人もある意味イケメンなのに。……いやいや、そんなこと言ったら後が怖い。思ってても口に出したらダメだぞ、俺。

「いえ、こちらこそ奥さまには色々とお力をお借りしております。本来であればこちらからご挨拶に伺うべきでしたが」

「どうぞお気になさらず。あいつには好きにするように言ってありますので。それよりも、余計に騒ぎを大きくしたりしていないかと」

 ああ、エルの旦那さんだな。あいつの性格、よくわかっていらっしゃるようで。

 ミサキもエルも、基本的には厄介ごとに自分から首を突っ込むような性格はしていない。破天荒なようで、実際にはかなりの慎重派だ。だけど、たまーに悪乗りする。それはもう、巻き込まれるこっちが頭を掻きむしりたくなるくらいやりやがる。あいつらの暴走を許すとマジで性質悪い。しかも、こっちは不利になるような状況には絶対にならないから、止め辛い。


 結果、巻き込まれる側だけが精神的に疲労困憊となる。


 …………。

 俺、つくづくとんでもねーのと付き合ってんな? いや、前世の知識を共有できる相手なんで色々と有難いんだけどね? 説明楽だし。

「まあ、勢い余る事もなくはありませんが、フォローできる範囲内なので問題ありません。むしろ、こちらとしてはそれ以上に手を貸していただいているので感謝しています」

 一応、オブラートに包みつつそう答えれば、旦那さんがやっぱりって顔で深々と溜め息をついた。ああうん。気持ちはわかる。

 その後も少し話をして色々と意見交換できたのは有意義だった。つーかエルの旦那さん、なんとなく聞いてはいたけどマジでチートだわ。エルが物理的にも絶対に勝てないと言っていたのがよく分かった。でもまあ、あの暴走娘を抑え込めるんだからそうだよな。

 エルの旦那さんとは気が合いそうで、今後も個人的に連絡を取り合うことになったよ。大公殿下の意向もあるんだろうが、俺としてはとっても心強い友人が一人増えたので、今回の件は結果的には良かったのかもしれない。


 これまで同様、俺は俺で、出来ることをするまでだ。



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