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11 有力情報ゲット


 後日、エルからもたらされた情報で発覚した事。

 やっぱりウチとエルんとこ、ゲーム上のストーリーでは繋がってたらしい。エルが親友の妹さんに確認を入れ、現状で覚えていることを全て聞き出してきてくれた。

「はぁ~……こっちが終わった後の物語ねぇ」

 まあ、なんとなく繋がってんのかなぁとは思ってたけどね。エルの方がこちらの続編とは。

「メリルは前作もやったことはあるらしく、こちらの今後の展開もいくつか教えてくれたよ。取り敢えず、これにまとめてあるから」

「ああ、それは有難い」

 俺も自分でプレイしてたわけじゃないから、細かいとこはわからなかったんだよね。妹が熱く語ってた部分だけは鮮明に記憶してたから、それを元に予想を立てて行動してたからさ。

「というかね、ルシアン。貴方、続編の攻略対象の一人らしいよ」

「は?」


 ちょっと待て。いま何ぬかしやがった、コイツ。


 俺の反応に、エルが苦笑してる。

「言いたいことはわかるけど、まずは聞け」

「あ……ああ、すまん」

 予想もしていなかったことを言われて、思いっきり動揺してしまった。

 まあ、ゲームの設定だと俺、すでに独身になってるはずだから有り得なくはないのか。

「公式の設定だと、本来であれば取り潰しだった家は、それまでの功績を考慮して家督を義兄に返還することで回避。ただ貴方自身はその手続きが完了した直後に出国、そのまま海を渡って二か月後にはグラフィアスへ入国。これはとある商人との再会があって、その商人に勧められるままに海を渡ったらしいよ。そこでたまたま高位貴族の馬車が暴漢に襲われている所へ遭遇、助けに入ったことでその貴族に気に入られ招かれることに。で、その貴族も数年前に最愛の奥方を暗殺されていた事からお互いの事情を話すうちに意気投合、その貴族の護衛騎士にって流れらしい」

「なんと言うか……」

 まあ、ストーリー的には有り得る設定だろうなとは思うよ。だが、人の最愛をポンポン殺すってなんなのこのゲーム。俺だけじゃなかったのかよ、続編でもそんなことになってたのかよ。止めろマジで。

 あ、ダメだ。イライラしてきた。

「怒りなさんな。ゲームのストーリーはあくまで創作の世界。多少の悲劇要素があったほうがインパクトが強いってのを狙ってのことだろう。だが、ここがそれと酷似していようと、我々は現実を生きている。全てがその通りになるわけではない」

「それはわかってる」

 実際、俺は流れを変えた。でもそれは、わかっていたからこそ防げたことでもある。ウチの愛娘がその典型だ。

「こちらの場合は……まあ、私自身がゲームにとってはイレギュラーな存在だったのは確かだろうね。私が妃殿下と関わりを持ったことで、ゲーム上のスタート以前からの流れを変えてしまった可能性もあるんじゃないかなとは思ってる。メリルには私みたいなキャラはいなかったと断言されたから間違いないんじゃないかな」

「……恐らく、軸となる大きな流れに変化はない。だが、その流れから発生する無数の小さな流れに関してはいくらでも変わりようがあるって事か」

「そうだね。人ひとりの人生なんて本当に小さな流れでしかないと思うし、ゲームの流れが決まった未来だとも思えない。だから、我々は気にせずに抗っていいんじゃないかな。良くない未来が来るとわかっていて回避策を取らないのは愚の骨頂だ、それで世界が滅びるわけでもないだろう」

 どこかスッキリした笑顔でエルが言い、俺は頷く。

 エルも色々と複雑な事情を抱えているからこそ、出てくる言葉なんじゃないかと思う。

 そんな事を考えていて、ふと思い出した。さっきエルが言っていた俺の設定からすると、だ。

「ちょっと待て。さっきのアレだと、そっちにもゲームの俺みたいに妻を失った高位貴族がいるってことか?」

「いないよ」

 至極、あっさりとエルが否定。

 という事は。

「時間軸的には、これから起こる?」

「いや」

 それも否定。

 そうなると、残る可能性は。

「すでに暗殺は起こっていて、防いだ?」

 確認すると、エルははっきりと頷いた。

「そう言う事。ちなみに、その時に殺されるはずだったのが我が主。貴方が将来、仕えるはずだったのが大公ミハエル殿下」


 おおっと、とんでもない大物の名前が出て来たぞ。


 エルの雇い主にしてグラフィアスの王弟ミハエル大公殿下。魔道具の核となる魔石の代替品、封印石に関する技術を開発し、確立させた研究者でもあり、ウチの義兄が必死になってコンタクトを取ろうと手を尽くしている相手だ。エルからちらっと聞いた限りでは、かなりのやり手だと思われる。

 この封印石という石はあちらの大陸だと比較的どこでも取れる素材なんだが、魔力を吸収しやすいという性質がある。ただ、そのままではもちろん魔石の代わりになんてならない。だけど、グラフィアスではこの魔力を吸収するという性質を利用して魔石として利用する方法を確立させた。もちろん、門外不出の技術であり、封印石を魔石化できるのはグラフィアスだけだ。そして、この封印石に関する技術などを統括管理するのが、大公殿下というわけ。

「この件があったので、我が国では上層部のほんの一握りではあるけれど、メリルの知識は共有されている。おかげで事前に防げた事案もいくつかあるね」

「大公殿下って、随分と頭柔らかいのな?」

 ちょっと意外だった。だって、王族だよ? 普通、そんな訳のかわからない話なんて信じないでしょ。奥方の件だって、たまたまって事で片づけてても不思議じゃないのに、一部とはいえ周囲に展開してるって。

「私という前例があったからかな。頭ごなしに否定はなさらないよ」

「あ……そう言う事。知ってんだ」

「最初から、ある程度は察してたんじゃないかと思う。全てをきちんと明かす前ではあったけど、色々と勘の鋭い方だから」

 そう言って、紅茶を一口。

 コイツはこういった所作の一つ一つが綺麗で、育ちの良さを窺わせる。現状、王族に仕えているんだから所作が洗練されているのは当たり前なんだが、それだけじゃない気がするんだよな。敢えて聞くことはしてないけど。

「話を戻そう。もうなんとなく察しているとは思うけど、ミハエル殿下も攻略対象者の一人。このミハエル殿下を攻略するルートで、ある事をすると最終学年に入った時にルシアンに繋がるルートが開くらしい。要するに隠しキャラだね、貴方は」

「隠しキャラねぇ……」

 いくら隠しキャラだって、親世代のオッサンを攻略対象に入れるか? おかしくない?

「メリル曰く、陰のある真面目な騎士で、一部には大人気だったって。攻略が進むにつれて少しずつ自分の過去を明かす様があまりにも痛々しくて胸が苦しかったそうだよ。まあ、三十前後で通用する外見だから、悲しい過去を背負いつつも包容力のある大人の男性って感じの設定だったみたいだね」


 うん、嬉しくない。全く嬉しくない。


 何が悲しくて自分の娘と年頃の変わらない女の子に落とされなければいけいけないんだよ。勘弁してくれよマジで。俺はロリコンじゃないぞ。つーか、奥さん以外は無理だからな、俺。

「と言うわけでね、大公殿下が貴方に興味津々なんだ」

「なんでそうなる」

「何でと言われても。私がミサキ経由で出会ったことを報告してからずっとそうだったんだけど、今回の件でもしかしたら将来、腹心になったかもしれない人材だって事が分かったので、余計に気になったみたいだよ」

「…………」

 なんか俺、とんでもない人に目を付けられてない? いやまあ、いざという時の避難先を確保できたと思えばそう悪い事でもないような気はしないでもないけど……いやいやいや、エルと同僚になるとか勘弁だな。色々と怖すぎる。

「でね、今回の件は事態が事態なので協力は惜しまない。むしろ、こっちと連動している可能性もあるから、出来るだけこまめに情報の共有はしておきたいという殿下の希望もある」

「ああ、それは同意だな」

「そこで、頼みがあるんだけど」

「うん?」


 頼み?


「宰相閣下にお目通り願いたい」

「は?」


 宰相に?

 なんでそうなる???


 どう捉えていいのかわからずに困惑していると、エルが腰のポーチから一通の手紙を取り出した。

「まずはこれを。宰相閣下にお渡し頂きたい」

 そう言ったエルの顔、すでに友人ではなく、他国の王族の護衛騎士。という事は、あちらにも何らかの思惑があるって事なんだろうな。

 俺は受け取ると、エルを見据えた。

「今日の今日は難しいかもしれない」

「それはもちろん」

「取り敢えず、いまから使いをやって届けさせる。何か伝言は?」

「では。名代としてエルヴィラ・デ・ベネディクティスが来ているとお伝えください」

 そう言って意味ありげな笑みを浮かべるエル。

 タイミングよく帰って来たレティとシルヴァンにエルの相手を頼み、俺は義兄へ使いを送った。緊急という事で失礼のないように、執事に行ってもらったよ。いま屋敷にいる使用人の中では一番の古参だしね。


 でも、ね?


 なんでウチの執事と義兄が一緒に帰ってくるのかなー?

 仕事はどうしたんだよ、おい宰相。

「ルシアン、使者殿はどこだ!?」

「落ち着いてください。いま、エレーヌたちに相手をしてもらっています」

「ええい、これが落ち着いていられるか! エルヴィラ・デ・ベネディクティスと言えば封印石の技術を確立させた魔導師の一人ではないか!」

 ああ、そう言えば前にそんなこと言ってたな、あいつ。

「だいたい、なぜお前の所にかの女史がいるんだ!?」

「なぜと言われても。私が魔道具関係の開発事業を他国の協力者と共同で展開していることは御存じですよね?」

「もちろん」

「その、共同事業者で開発仲間ですよ。魔道具の」

「…………は?」

「ですので、数年前から個人的な付き合いがあります」

 そういや言ってなかったなと思いつつも事実を告げると。

 義兄が固まった。

「? 義兄上?」

「先に言えー!!!」

 耳がキーンってなった。

 そのまま説教に突入しそうになったが、気づいて呼びに来てくれたエレーヌがうまい事誘導してくれたおかげで助かった。ありがとう奥さん!

 ただまあ、俺も別に意地悪で言わなかったわけじゃないんだよ。エルがグラフィアス王族の直属だって事がスコーンと抜け落ちていただけで。


 そんなこんなでご対面となったわけだが。


「突然の訪問にも関わらずお時間を頂けましたこと、感謝申し上げます。エルヴィラ・デ・ベネディクティスと申します。本日の目的ですが、グラフィアス王国の王弟ミハエル殿下より閣下宛ての書簡を預かってまいりました。アストラガルのアシュタロト公爵閣下経由で届いた書簡の件で、そうお伝えすれば通じるとの事でしたが」

 確認するかのようにエルが問うと、義兄の顔が歓喜に染まった。

 なんかすげー喜んでるな?

「お……おお! では例の件、検討していただけると!?」

「その初期調査の為に私が派遣されました。まずはこちらを」

 優雅な手つきでエルが手にしていた書簡を義兄に渡す。

 慣れてんなぁと思いつつも眺めていると、早速書簡に目を通し始めた義兄が歓喜に震えつつも何度となく頷いている。

 ちなみに、エルに会ったことがないはずの義兄がなんでエルの言う事を丸っと信じているかと言うと、それはエルの特徴ともいえるオッドアイにある。髪の色なら魔道具で簡単に変えることもできるが、瞳は無理なんだ。ああいや、両目ならできる魔道具はあるんだ。だけど、片目だけってのは現状では無理。前世世界みたいにカラーコンタクトがあるわけじゃないし、無理。そして、オッドアイを持つ人間なんぞ早々いるわけがない。要するに、偽物を仕立てることがこの上もなく難しい。

 こんな事情もあり、エルはこういったやり取りの際には勅使として赴くことも多いんだそうだ。本人は、護衛騎士の仕事じゃないよねーと苦笑していたが。

「了解した。場所の選定は早急に。この条件に合う場所となるとそう多くはない。貴殿はいつまで滞在なさるおつもりか」

「本日含め、三日ほど。グランジェ伯爵夫人から滞在の許可を頂いておりますので、こちらでお世話になります」

 にっこりと俺の知らないことを暴露しやがったぞ、コイツ。なんで俺に黙って話進めてんの? 一応、俺が当主なんだけど。ていうか奥さん! 先に教えてお願いだからっ!

「では戻り次第、すぐに場所の選定に入る。陛下からこの件は一任されているので、お待たせすることはないと約束しよう」

「ありがとうございます。調査と申しましても地盤と周囲の魔力の流れを確認するだけですので、お時間はとらせません。是非とも宰相閣下には立ち合いをお願い致します」

「もとよりそのつもりだ。ルシアン、くれぐれも頼んだぞ」

 上機嫌のまま、大急ぎで城へと戻っていった義兄。

 …………。

 ねえ、何を頼まれたの、俺。

 内容は見当もつかないけど、エルが勅使として宰相である義兄に接触したってことは、間違いなく国家間レベルの話だよね? 


 俺、何に巻き込まれてんの???


 なんか色々と腑に落ちない。

「意味が分からないって顔をしてるね」

 いつも通りの職人仲間の顔に戻ったエルが、おかしそうに聞いてくる。

 わかるわけねーだろ、何がどうなってんだよ説明しやがれ。

「実はね、こちらの宰相閣下より、お互いを知るための交流が持てないかと打診があったんだ。最終的には国交を結べたらって考えてるみたいだけど」

「なに、あの人そんなことしてたの?」


 何時の間に。


「そう。かなりのやり手みたいだね、宰相閣下。昨年だったかな、アストラガルのアシュタロト公と会談を設けてその席でウチの大公殿下に接触する方法はないかを聞いたらしいんだ。ほら、アストラガルは転移門が設置されてる関係で、あの大陸で唯一我が国と国交を結んでいるから」


 うん、なるほど?


「でね、大公殿下はこの大陸にも拠点となる転移門の設置を目指しているから、適切に管理できる国を探してたの。そこに宰相閣下からの親書が届いたってわけ。どうやら宰相閣下、我が国がこの大陸の調査を開始したという情報を得ていたみたいだよ」

「ああ、なるほど。そこに義兄からの書簡が届いたと。で、取り敢えずは様子見でお前が来たわけか」

「そう言う事。転移門を設置するにしても、魔法文化が停滞気味のこの大陸だと維持管理が難しいかなって殿下は考えていたらしくてね。そこに宰相閣下からの書簡が届いてさ。国を確認したらここだったから、ここならルシアンいるし彼ならできますよと言っておいた」

「は?」


 いまさらっととんでもないこと言わなかった?


「私やミサキに付き合って付与魔法を色々と改良しつつ使えるようになってるから、ルシアンの魔力操作とかのレベルはかなり上がってるし。なので、当面はルシアンが主体で管理して、国のお抱え魔導師にでも管理できるように教育していけばいいんじゃないの」

「いや、何勝手に決めてんの? 俺が教育するの前提かよ」

「他に誰か出来る人いるの?」

「…………」


 返す言葉もない。


「後はまあ、レティの件があるので、私がこっちにいても怪しまれない状況を整えておきたいってのもあるから」

「ああ、まあ……それはあるか」

 なんせ、ミサキもエルもこの大陸の住人じゃないからね。特にエル。コイツ、普通なら行くだけでも一月以上はかかる大陸が拠点だから、ちょくちょくいたら怪しまれること間違いなし。要は、俺がこいつらに協力を仰いだ結果でもあるわけ……か……


 今更ながら、俺とんでもないことやらかしてない?


 本当に今更だけど、意図せずに広がっていく自分の人脈が怖くなってきた。大丈夫か俺。 

「まあ、そういうわけだから。がんばれ」

 黙り込んだ俺が何を考えているのかなどお見通しだとでも言うように。

 ものっすごい良い笑顔で俺の肩を叩いたエルは、さっさと部屋を出て行ってしまった。

「…………マジか」


 後悔先に立たず。


 今日ほどその言葉を痛感した日はなかった。



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