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10 強力な助っ人を調達しました

誤字報告ありがとうございます!

見逃しの多い事・・・


 さて。

 ヒロイン事ペリーヌ・バローがシルヴァンをロックオンしたのはほぼ確定となったことで、こちらもそれなりに警戒を強めている。

 入学式や夜会の件もあって大半からは遠巻きにされているバロー嬢だが、そこはやっぱりヒロインだった。盲目的な信者みたいなのがチラホラ出始めている。しかもほとんどが騎士科の脳筋な体力バカ。そして、その中には攻略対象の一人でもある団長のご子息も入ってるらしい。


 ……やばくねーか、これ。


 あれだけの醜態晒してんだから、もう誰もまともに相手しないだろと思ってたんだが、甘かったようだ。まあ、確かに見た目だけなら美少女だしな。容姿に惹かれる連中は出てくるだろうとは思ってたけどさ。

 つーか、ジェレミーが向こうに着くのは予想外だったよ。あいつ、絶対にレティに気があったはずなんだ。まあ、バロー嬢に乗り換えるなら乗り換えるで構わないんだが、バロー嬢と組んで何かやられるとシャレにならん。

 そうそう、ウチの子たちの結婚式を秋の収穫祭の連休中に行う事が決まったんだ。なんで、その準備もあるから余計な事されると色々と手が足りなくなる。そんな事態は何が何でも阻止したい。誰にも邪魔はさせんぞ。


 と言うわけで。


 助っ人を頼むことにした。

「そんな訳なんで、協力してほしいんだが」

「…………いきなり呼び出すから何事かと思えば」

 俺の目の前で眉間に皺を寄せてる女性は、魔道具職人仲間。名をミサキと言う。隣のシェダル大陸にある、全世界の教会の総本山でもあるクルキス神聖国で聖騎士の称号を持つSランク冒険者という、とんでもない規格外娘。本人は魔道具職人が本業だと言い張ってるけど。


 まあ、名前からわかるとは思うが、コイツはある意味俺の同類。俺は転生者だけど、コイツは転移者だ。


 ミサキの場合、彼女のお姉さんが所謂【聖女】と呼ばれる存在だったんだ。そのお姉さんをこの世界に召喚したおバカさん達がかなり強引な方法を使ったようで、巻き込まれて一緒に来てしまったんだと。ただまあ、コイツと知り合ったおかげで俺はエレーヌを失わずに済んだと言う経緯があるので、ミサキには悪いがそのおバカさん達にはコッソリ感謝もしていた。本人には言えないけどな。

「考えすぎじゃねーの?」

 メンドクサイと言わんばかりにミサキが呟く。……コイツ、美人さんなんだけど、ものっすごく口が悪い。そこらのゴロツキかって言いたくなるレベルで口が悪い。

「いや、だってフラグだろこれ! どう考えても!」

「まあ、それっぽいけど」

 あっさり同意されるのも、ちょっとどうなんよ。

 いや、色々と協力してもらいたいんで、同意してくれた方が有難いんだけどね?

「こんな乙女ゲーみたいなのが現実に起んのかよ」

「起こってるから協力してくれっつってんの!」

 テーブルをバシバシ叩きながら訴えると、ジト目で見られた。

 そんな目で見るんじゃない。必死なんだよ、俺は!

 ミサキは俺を見てでっかい溜め息を吐き出し……いや、ちょっと待て。失礼じゃないか、それ?

「だったら私じゃなくてエル呼べよ。あいつの方が得意だろ」

「さすがに気軽に来てくれって言える距離じゃないだろ」

「私も別大陸なんだけど?」

「お前は飛竜っていうある意味有り得ない移動手段持ってるだろ」

 はっきりきっぱり言い切ったら、また溜め息吐かれたよ。失礼な奴だな。

 この世界、馬をはじめとした騎獣は多くいるが、魔物を飼いならして騎獣とすることも珍しくはない。珍しくはないんだが、飛竜は論外。正直、初めて見た時は自分の目を疑った。

「つーか、そこまで深刻に考える事か? 現実がゲーム通りになんか進むわけねーだろ」

「俺もそう思いたいが、万が一にもウチの子たちに何かあったら困る」

「でたよ、親バカ」


 何とでも言え。


「つーか、レティが聖属性に適正有りって時点で別人じゃん。ゲームだと闇属性なんだろ? 正反対じゃねーか」

「それはそうなんだが」

 そこは俺も気になってた。

 ゲームでは悪役令嬢である我が娘は闇属性に適正有りで、それを利用して色々と暗躍していた。本当に、口に出すのも憚れるようなことを平気でやる子だった。そして、ヒロインは聖属性に適正有りで、レティの企みを潰していくことでも攻略対象者たちと好感度を上げていくんだけど……もう、この時点でヒロイン、かなり不利じゃないかなとは思う。好感度を上げる機会が激減してるって事なんだろうし。ウチの子、闇属性は適正ないもん。

「つーか、ルシアン」

「うん?」

「レティ、近いうちに一度神聖国へ連れて行け。私の見立てじゃ、あの子は浄化の能力も高そうだ。治療系の魔法は適正高いのわかってっし、一度しっかり能力鑑定して向こうで登録してもらった方がいい」

「ああ、夏休みにでもとは考えている」

 ミサキに指摘されるまでもなく、それは俺も考えていた事。

 クルキス神聖国。宗教国家だが、聖属性魔法の使い手を手厚く保護していることでも有名な国だ。これ、他国に籍があっても保護対象としてもらえるので、登録しておくに越したことはないんだよね。いざという時に逃げ場にもなるし。

「考えているならいい。……ルシアン、気をつけろよ。浄化の能力が高い奴は、それを必要としている人間を引き付けやすい。レティに近づく奴はしっかり見極めとけ」

「了解」

 ミサキからの思いがけないアドバイスに少々驚いたものの、言われたことは有難い内容だったので忘れずに実行しよう。

 俺が頷くと、この話は終わったとばかりに腰のポーチをあさり始めるミサキ。何やら取り出したのは、こぶし大の箱のような物だが、初めて見る魔道具だ。

「ええと……ああ、これか」

 いくつもある付属っぽい球形の魔石の中から一つ取り出すと、それを箱の中央にあるへこみ部分に嵌め込んだ。

 ふわっと広がる魔力に、興味津々で見ていると。

『ミサキ? 勤務中なんだけど』

 聞こえてきた聞き覚えのある声に、硬直してしまった。

 だって、これ。

「悪い。ルシアンとこに来てんだけどさ、この前お前が言ってた、お前の親友の妹さんと同じパターンっぽいぞ」

『は?』

「レティが悪役令嬢なんだと」

『あ~……』

 呆れたような納得したような声。よくわからんが、通じたらしい。なんで通じたのかはわからんけど、話が早くて助かる。

『ちょい待って。妃殿下が……ああ、はい。了解しました。ミサキ、お許しいただいた。今から行くけど、座標お前さんにしても大丈夫?』

「問題ない」

『了解。ちょっと準備してからすぐに行く』

 淡く光っていた光が消えると同時、声も途切れた。

「ちょ、ナニコレ!?」

「うっさいな」

 うんざりした顔でミサキが言うけど、それどころじゃない。

 この世界にも、通信機はあるんだ。ただし、通話先は設定済みの一か所だけ。だから俺も、ミサキとエルと二つの魔道具を所持している。要は、通話先ごとに魔道具が必要になる。一つの魔道具で通信先を変えてなんてことは出来ない。

 だけどミサキが使ったコレ、繋げる先は任意で変えられる。窪みに嵌め込んだ魔石が電話番号替わりってことだよな? まだないんだよ、こんな魔導具! この世界には!

「うっさいじゃなくて! 電話じゃん! しかもこれ魔石じゃないよな!? 封印石かこれ!」

「わかったから落ち着け」

「落ち着いてられるか! 俺にもくれ!!」

「落ち着けっての! これは渡すつもりで持ってきたんだよ!」

 そう言いながらミサキは今使っていた魔道具を俺に渡した。

「おおお、すげぇ! ナニコレどーやって使うの!?」

「説明するから黙って聞いとけっ」

 怒られた。

 それでも大興奮な俺。だって、電話だよ!? 

 それからも時折うるさいと怒られつつも使い方と魔力が切れた場合の対処法を聞きつつ色々と質問していると。

 ふと、室内に気配を感じて咄嗟に身構える。

「あ、もう説明してるのね」

 黒っぽい騎士服の黒髪の女性が、そこにいた。


 ………………え?


「おま……どっから湧いて出た!?」

「湧いて出たって」

 言いたいことはわかるけどと苦笑しつつ、女性は持っていた箱をテーブルに置く。

 規格外娘その二。コイツも俺の魔道具職人仲間で、エルヴィラと言う。黒髪で右が紫、左が深紅のオッドアイ。

 コイツは……まあ、言うなれば俺と同じ転生者。ただし、色々と不可思議というか俺から見てもちょっと色々とオカシイ。あ、いや、ちゃんとした常識人だよ? ただ、ここに至るまでの経緯がちょっと色々と理解不能すぎて言葉にするのが難しいというか……まあ、ミサキよりは大人しいし分別もある。某国の王族の護衛騎士やってるから、冷徹な所はあるけどな。

「お前、転移魔法のこと言ってないのか?」

「……話した覚え無いねぇ、そう言えば。顔合わすのっていつもミサキのお店じゃない」

「ああ、そうか。まあ、それじゃ驚くか」

「だね」

 うん。あのね、お二人さん。そこで勝手に納得しないでくれるかな。俺、当事者! ちゃんと説明して!

 二人で勝手に納得すんなとぎゃんぎゃん言ってたら、エルが説明してくれたよ。コイツ、今は完全に廃れたはずの古代魔法の一種でもある転移魔法も使えるんだと。聞いてないぞ、そんな話。つーか、いくらなんでもオカシイだろ、お前。それを当たり前のように言ってるミサキも何なんだよ。

「どこまで規格外なんだ、お前ら」

「「あんたに言われたくない」」

 思わず口から出た言葉に、思いっきり声をそろえて真顔で言われた。なんでだよ!

 お前らと比べたら俺なんか普通だろうが!

「なんの加護もついてない剣で上級攻撃魔法を叩き切る常識ハズレが普通なわきゃねーだろ」

「さすがに上級の攻撃魔法は無理だよねぇ……最初からそれ用に作り上げた武器ならともかく、抗魔法とかの付与を付けてても微妙じゃない?」

「剣が持たねーよな」

「普通はね」

「「やっぱりオカシイ」」

「声揃えんな!!」

 言いたい放題だな、この規格外娘どもが! お前らに常識云々言われたくねーよ!

「つーか、そろそろ本題に入れよ。エル来たんだし」

 絶対に面倒になっただけだろうミサキに促されて、取り敢えず俺はエルにもことの経緯を説明した。

 入学以降のあちらさんの様子や周囲の状況なども、出来るだけ詳細に。

 話し終わると、さすがに二人とも考え込んでいたよ。さっきはミサキにざっと説明しただけだったから、詳細まで説明したら印象変わったようだ。ホント、ちょっと前までは何くだらない事で呼んでんだくらいな感じだったから、えらい変わりよう。いや、端折りまくって説明した俺も悪いけどね?

「取り敢えず、経験談として」

 しばしの沈黙の後、最初にエルが口を開いた。

「私の場合は、親友の妹さんがレティと同じ状況だと考えられるんだが、お前さんが心配しているような強制力と言うものが働いている形跡は、今の所はないね。恐らく彼女が言うところのゲームがまだスタートしていないせいだと思う。ただまあ、判明しているヒロインと呼ばれるご令嬢が予定とは違って少々我の強い方なようで……今は攻略対象と思われる一人と婚約話が出ていて、前向きに検討されている。このまま何事もなく学園卒業の歳まで仲良くしていてくれれば円満に終了ってところだねぇ」

「ヒロインに婚約者?」

 なんだそれ、あまり聞かないパターンだな。

「そう。メリル……親友の妹ね。彼女が言うには、ゲームだとヒロインは学園卒業までは婚約者は決まらないらしいんだ。だったら、その前提条件を変えてやれと妃殿下が少々手を回してね。令嬢には元々仲の良い幼馴染がいてその幼馴染に思いを寄せていたんだけど、身分的な問題で父親がいい顔をしなかったんだ」

「相手は貴族じゃないのか?」

「一応、貴族。ただ、今は父親が功績で爵位を得た一代限りの男爵家なんだ。令嬢は名門伯爵家だから色々とね」

「ああ、なるほど」

 古くからの伯爵家としては、一代限りで父親亡き後は平民に戻ることが確定している男を婚約者とするのは難色を示すだろうな。でもコイツ、今はって言ったよな?

「ただ、色々と優秀なんだよ、この男爵家の面々。なんで妃殿下がちょっと男爵に課題みたいなものを出してね。それを無事にクリアしたので、今年中に子爵位に叙爵が決定している」

 一代限りの男爵家でしかなかったはずの家を子爵に格上げって、なに。何やらせたらそうなるんだよ。

「……なんかお前の主って、たまにものすごい力技やらない?」

「優秀な人材を手元に引き込むためなら、手段を選ばないところはあるかなぁ」

 手段を選ばないってところが怖い。そして、若干遠い目をしている目の前のコイツは、その主の為なら思うところはあってもなんでもやるヤツだ。色々と怖すぎるだろ!

「まあ、件のお嬢さんは生粋の伯爵家のご令嬢なので礼儀作法は問題ないし、奇抜な言動もない。何度か探ってもみたけれど、今の所は転生者だと思えるような形跡も皆無。なぜか悪役令嬢であるはずの親友の妹といつの間にか仲良くなっているし、お互いの家を行き来したりもしているみたいだから、私含め周囲で監視している連中は心配はいらないのではという話にはなっている。近いうちに婚約も調うだろうしね。一応、卒業までは今の体制は維持する予定ではあるけれど」

 それに、どちらかと言うとヒロインの方が悪役令嬢っぽいんだよねと、エルがつけ足した。うん、それに関してはこっちも同じだと思う。婚約者がいても構わずに声かけまくってる時点でアウトだ。ウチのレティのほうがよほど良い子!

「しっかし、さぁ」

 ミサキが、どことなく呆れた様子で口を開く。

「こんなゲームみたいな話、そこらに転がってるもんなの? エルとルシアンのとこでほぼ同時進行って意味わからんわ」

 うん、それは俺も思うよ。そもそも前世の記憶持ちと同じ世界の同じ国から来ただろう人間がこうして集っていること自体、オカシイからな。奇跡とかそういうレベルの問題じゃねーだろ、これ。

「時間軸的には、こちらが先で私の方が後って感じだけどねぇ」

「ああ、そっか。エルんとこはまだ始まってないんだよな」

「多分ねぇ。再来年からじゃないかな。あの子の言ってることが正しいのであれば、二年に進級してからが本格的なスタートらしいし」

 まあ、そうだね。ウチの娘はすでに学園に入学済みでゲーム自体もスタートしていると考えて間違いない。エルのほうは、まだスタート時に達してない感じだし。

「なんか……どこかで繋がってるのかね?」

 俺が何気なく呟くと、二人が同時にこちらを見て。

 同時に頷いたのはなぜかな。

「ああ、その可能性はあるかもしれないね」

 と、エル。

「偶然にしても、こんな話がそこらにいくつも転がってる訳ねーもんな」

 納得したようにミサキ。

「あれじゃね? そのメリルって子に聞けばなんかわかんじゃね?」

「戻ったら聞いてみるよ。今後の展開を考えたら、少しでも情報は仕入れておきたいし。こちらに影響を及ぼさないとも限らない」

「だな。別にルシアンがどうなろうと知った事じゃないが、さすがにレティはかわいそうだ」

「おいっ」

「んだよ。あんたはほっといても自分で対処できんだろーが」


 それは否定しないけど、俺の扱い酷いなっ!


 その後もブチブチ文句垂れてたらヒロインの動向が気になるなら少し探ってみようかとエルが言ってくれたので、ここは素直にお願いすることに。


 お願いしてつくづく思ったよ。こいつら絶対にオカシイ。


 エルヴィラが諜報員としてかなり優秀だという話は、なんとなくミサキから聞いてはいたんで知っていた。知ってたけど、反則だコイツ。

 ただまあ、助かったのは事実なので口には出さなかった。ついでに色々と有用な魔道具も持ってきてくれたので、ありがたく借りる事にした。願わくばこんなモノの出番がこないことを祈るよ。



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