前書き
ファータからはドミナ・アウレアと畏怖と敬意を込めて呼ばれる彼女の、もっとも古い記録は今から6000年以上前、連邦歴から3つ暦を遡った――地域によっては2つだったり4つだったりするだろうが――西暦2135年のことである。ファータという混亜人種族はまだ存在せず、彼らの前身たる第一世代宇宙調査生命体として生まれたとされている。
この後にソル星系への旅と龍との邂逅を経てファータという種が生まれ、またそのためにアールヴが生まれるのだがこれらについては様々な資料があるためそちらを参照して貰いたい。
彼女の活動は遥かに長い期間に及び、またその活動範囲も銀河のほぼ全域であるため、ここでは活動の記録が多く残っている旧帝国歴1961年から2423年、つまり人類統一戦争開戦までの期間を本書ではおもに取り上げる。
当時はアールヴ帝国及びファタ・モルガナ皇国と全人類惑星連盟がこの銀河を大きく二分していた。二つの超大国に挟まれ、中立の小国がいくつか残されているが、極めて危うい立ち位置だったのは言うまでもない。
また、銀河系の外側にはかの『混沌這い』が跋扈しており、彼らは偏にアウレアがもっているという全銀河に影響を与えられるほどのEエネルギーを恐れていたために、銀河の外縁部を時折掠める程度であったと言う。
ファータの八割が住んでいたという閉鎖的国家ファタ・モルガナ皇国とアールヴ帝国は歪な技術提供によって結びついており、皇国は規模こそわずかに一星系ながら、アールヴ帝国に絶大な影響力を持っていた。というのも、ファタ・モルガナ皇国は当時既に千年以上も技術で先を進んでいたのだ。空力転換炉の設計図が当時の記録媒体から再生されたことからも技術格差がうかがえる。空力転換炉が皇国の外で開発されたのは連邦時代に入ってからである。彼らはこの空間からエネルギーを取り出す装置を決して外に漏らさなかった。
このような時代のもとファタ・モルガナの龍皇を1000年も前に引退していた彼女は、アールヴ帝国内で気楽に、自らの宇宙船を乗り回し、恋人たちと無数に愛を確かめていた。
また歴代皇帝の教育係であったり、帝国と皇国の両方の支援を受けていた学園船の講師であったり、彼女自身様々な仕事をしていたようだ。記録によれば帝国宇宙軍にも所属しており特別上級大将まで上り詰めている。
これはそんな彼女の行動を、当時の彼女の恋人たちが残した記録や手記から物語風に仕立てたものである。
ファータ……人類が宇宙に進出するために、長命化及び光合成による健康保持を可能とした第一調査生命体が生み出された。彼らは生体機械として300年近く人類のために働いていたが、ある地球外生命体との接触により強大なエスパー能力を得て、人類の支配から解放された。現在においても科学技術は突出している。
アールヴ……第一調査生命体の大量自殺事件、及び離反の後に新たに生み出された第二調査生命体。ファータの干渉によって彼らもまた人類支配を逃れ銀河の半分を支配する広大な帝国を打ち立てていた。