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FACE-彼女が見つけた謎達-  作者: つき夜好き


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容疑者一の浮上理由

はじめまして、つき夜好きです。本作品を読んでいただき

また、選んで頂きありがとうございます。


本作に関しては私自身が構想・設定・物語の方向性を考えたオリジナル作品をベースにしています。文章表現の一部において、AIの補助を使用しながら推敲・調整を行っておりますが、物語の創作意図および世界観の構築は作者自身によるものです。


より読みやすく、物語として楽しんでいただける形を目指して執筆しておりますので、温かく見守っていただければ幸いです。


現在、HJ大賞7に応募中です。

今後とも応援よろしくお願いいたします。


アップは基本

月・水・金にそれぞれ一話ずつ

だいたい夜21時位にアップ予定です。

「ID:2T52G9P――美咲 仁」


 パリッとしたスーツに身を包んだ、いかにも警視庁殺人課に配属されたばかりという雰囲気の青年刑事が、立ち入り禁止テープを越え、さらに奥の現場へ入ったのは、「殺人」と断定された無線連絡から五分後のことだった。


 しかし、彼が他の新人と違っていたのは――。


 どれほど凄惨な遺体を前にしても、吐かないことだった。


「大抵の新人は、この腐乱状態を見たら一回は潰れるもんなんだがなぁ」


「藍川総一郎警視総監!」


 まさか、会議室にいるイメージしかない警視総監本人が現場に立っているとは思わず、美咲は思わず背筋を伸ばした。


 だが、周囲の刑事たちは驚いていない。どうやら日常茶飯事らしい。


 そして、美咲がさらに驚いたのは――藍川の後ろに、影のように立っている女子高校生だった。


「藍川警視総監。後ろにいらっしゃるのは……もしかして、第一発見者の方ですか?」


「娘だ」


 娘。


 さらりと返された言葉に、美咲は内心で固まる。


 いや、流石に殺人現場へ親族を連れて来るのはまずいだろ。


「君、面白いね。思っていることが顔に出ているよ」


 藍川は苦笑混じりに言った。


 読まれているなら仕方ないと、美咲も素直に口にする。


「流石に不味いかと。警察関係者でもない親族を連れて来るなんて」


「ん? あぁ。捜査のためだよ。君だって、迅速に事件が解決できた方がいいだろう?」


 それと彼女に何の関係があるのだろう。


 そう首を傾げた時だった。


「やっぱ新人だな」

「まぁ仕方ないって」


 周囲からヒソヒソ声が聞こえてくる。


 どうやら、自分だけが知らないらしい。


 美咲はそれ以上、口を挟むのをやめた。


※※※


 被害者は四十代前半の男性。


 死因は明らかな頸椎損傷。腐乱が進んでいるため、詳細は検視待ちだった。


 独身、子供なし――という記録だったが。


 美咲は仏壇の横に飾られた遺影へ目を向ける。


 妻らしき女性と、少女の写真。


 婚歴はあったのか。

 娘もいた……だが、どうやら幼少期に亡くなっているらしい。


 しかし、それだけでは何も分からない。


「奥さんの方は、恐らく急死じゃない。けど、娘の方は突然死」


 唐突に、冷たく透き通ったソプラノのような声が響いた。


 振り返ると、藍川の娘――一花が立っていた。


 銀色と黒のツートンカラーの髪。

 長めの前髪に隠れるような視線。

 人と関わることを拒む陰気な空気を纏っている。


 だが、その目だけは異様に鋭かった。


 彼女は淡々と現場を見回すと、そのまま奥の部屋へ消えていく。


「美咲君。すまないが、私は別件の指揮も取らないといけなくてね。後は君と一花に任せる」


「えっ、ちょ――」


 さらりと現場を押し付け、そのまま玄関へ向かう藍川。


「待ってください! 俺、指揮なんてしたことありませんよ!」


「……まぁ、表向きは君が指揮してることにしておいて」


 それってつまり。


 裏では娘に指揮を取らせろってことか?


 美咲は愕然とした。


 だが、藍川は嵐のように去っていき、反論する暇すら与えられない。


 ――というか、あの子はどこへ行った?


 よくよく考えれば、おかしな話だ。


 あの年頃で、腐乱遺体を前にして顔色一つ変えない。


 臭いにも反応しない。


 まるで、人の死に慣れているみたいに。


 ……いや。


 それを言うなら、自分もか。


 普通なら吐くような現場でも、美咲は平然としていられる。

 だからこそ、周囲から気味悪がられることも少なくなかった。


 その点だけは、一花と妙に似ている。


 だからこそ余計に、彼女の異常さが理解できてしまう気がして、美咲は少しだけ嫌な気分になった。


「居た!」


 倉庫の前で、一花はじっと考え込んでいた。


 積もった埃を指でなぞり、息で吹き飛ばす。


 整理された荷物を、一つ一つ丁寧に観察している。


「やはり、そうか」


「そうって……何か分かったの? 一花さん」


「美咲君。お腹空いた。寿司おごって」


「は?」


 俺の方が年上なんだけど。


 そう思うのに、妙に逆らいづらい。


 父親譲りの圧なのか。

 それとも、この少女自身の異質さなのか。


 美咲には分からなかった。


※※※


「らっしゃい!」


 威勢の良い声と共に入ったのは、有名な回転寿司チェーンだった。


 俺、何してるんだろう。


 美咲はそんなことを思いながら席につく。


 一方、一花は流れてくる寿司をじっと見つめていた。


 しかし、なかなか手を伸ばさない。


「アレルギーでもある? 嫌いなネタしかないなら好きなの頼めば――」


 一花は答えず、代わりに棒付きキャンディーを口から抜いた。


 どうやら卵寿司がない時は、常にそれを舐めているらしい。


「美咲君。知ってる? 回転寿司って、食欲をそそる速度で回ってるんだって」


「……は?」


「皆が好きなネタを並べるだけじゃない。客が『取りたい』『まだ食べたい』って思う絶妙な速度で回してる」


 そう言いながら、一花は流れてきた卵寿司を取り、一口で食べた。


「人の人生も同じ。どん底だって思ってる人、多いけど……実際は違うんだよ」


 再び卵寿司を取る。


「人生って、その人にとって丁度いい速度で回ってる。それをどう受け取るかが重要なんだ」


 卵寿司を頬張る姿は、年相応の女子高生にしか見えない。


 だが、語っている内容だけは妙に達観していた。


「私みたいに、卵だけで満足する人もいる。全部食べなきゃ満足しない人もいる。小さな欲ですらこんなに違いがある。なら――あんな“勘違い”が起きても不思議じゃない」


 寿司の話からそこへ繋がるのか。


 半ば呆れながらも、美咲は先程の現場を思い返していた。


「一花さん。まさか、さっきの事件って人間関係のもつれ?」


「美咲君。出世したいんだよね、警察で」


 相変わらず上から目線だ。


 反論したい。


 なのに、妙な貫禄に押されて言葉が詰まる。


「それは……まぁ。警察だって縦社会ですから」


「なら分かると思うけど。この事件、洗えば最低でも三人は浮上するよ」


「は!? どこを見てそんなことを――」


「遺影」


 一花は即答した。


「親族はいない。でも、娘の痕跡だけが不自然に消えてる」


「首の骨が折れてた。それだけで殺人扱いなんだぞ? そこから容疑者なんて――」


 一花は深いため息をついた。


「奥さんは、亡くなるまで時間があった人」


「……どうしてそうなる?」


「綺麗に整理されてたから」


 整理?


 あの倉庫のことか。


「突然家族を亡くした人って、心の整理も物の整理も簡単にはできない。写真の一枚くらい残る」


 美咲は現場を思い返した。


 仏壇はあった。

 遺影もあった。


 けれど、それ以外が何もない。


 未練が、存在していなかった。


「奥さんの遺品は全部倉庫に整理されてた。丁寧に掃除までされてたし、長い時間をかけて受け入れた感じだった」


 一花は淡々と卵寿司を食べ続ける。


「でも娘さんの物は、一切なかった。そこが一番おかしい」


「単に整理しただけじゃ?」


「なら、どうして遺影だけ残したの?」


 一花は冷静に続けた。


「しかも学生服姿。笑ってもいない写真。ランドセルも服も靴も、家にはなかった」


 美咲の目が丸くなる。


「つまり、それ全部――誰かに渡した?」


「そう。捨てたんじゃない。“譲った”」


 一花は緑茶を飲む。


「親ってさ。突然死んだ子供なら、幽霊になってでも会いたいと思うものだよ」


 美咲は反論できなかった。


「答えは単純。娘みたいに可愛がっていた第三者がいた」


「いや、流石に飛躍しすぎじゃ――」


「まだある。美咲君、床覚えてる?」


「床?」


 一花は本気で呆れた顔をした。


「仕方ないだろ。まだ新人なんだから!」


「被害者の部屋以外、埃一つなかった。廊下も書斎も客間も二階も。全部ワックスまで掛けられてた」


「ヘルパーでも雇ってたとか?」


 美咲は端末を取り出して確認する。


 だが、記録はない。


「おそらく違う。ヘルパーなら通報義務も発生する。それに、被害者は健康体だった」


 一花は最後の卵寿司を取った。


「つまり、定期的に家へ出入りしていた第三者がいる。その人物が――容疑者一」


 そう言って、ほっとしたように緑茶を飲む。


 そして。


「ところで美咲君。君、全然食べてないね」


「いや……話聞いてて止まってたんだよ。それより、一花さん。その皿全部卵寿司って凄くない?」

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