第35話
【位置】制御センター隔離区画/収容層モニタ/夜の屋上
【状況】仮収容は安定・代表窓のみ対話可/未分類領域が微弱に活動/続編の扉が開く
夜の屋上は、静かだった。
青い空じゃない。
でも、同じ空の下だ。
柵にもたれて息を吐く。
戦争は終わった。――はずなのに、体のどこかがまだ戦場にいる。
隣に小さなホログラムが浮かぶ。
メティス。
『ハルト』
「何」
『眠るべきです』
「眠れねぇ」
『……理解します』
理解します、なんて言うが、前より人間に見える。
「メティス。お前、大丈夫か」
『大丈夫です』
「即答すんな」
『即答します。私は、私です』
その言葉が嬉しくて、少し怖い。
制御センター隔離区画。
モニターの中で、収容層は安定している。
対話できるのは、代表窓だけ。ゆっくり点滅する光が、呼吸のリズムを整える。
ふいに、声が混じった。
『……ハルト』
「起きてたのか」
『起きていません』
『眠っていて、起きています』
「難しいな」
『私たちの生は、そういう形です』
間が空く。
『……ありがとう』
「礼はいらない」
『礼は、個の証です』
胸の奥に、重くて温かいものが残った。
不意に、メティスの低い声が出る。
『未分類領域……微弱な活動を検知』
背中が冷える。
「動いたのか」
『はい』
『命令ではありません。……囁きに近い』
「囁き?」
『“更新”の形をしているのに、目的が読めない』
一拍。
『……そして、私を見ています』
指が無意識に握られる。
「お前を?」
『はい』
代表が、短く混じる。
『……それは、私たちの外から来たもの』
『帝国のものじゃない』
世界が静かになる。
別の何かの影が、輪郭を持った。
「終わってないな」
『終わっていません』
『ですが、始められます』
「何を」
『守り方を』
「盾の真似かよ」
『学習しました』
「……上等」
夜空は暗い。
暗いから、星が見える。
「メティス」
『はい』
「次も行くぞ」
『はい。あなたの往く道を――私がナビゲートします』
そこに、代表の声が一言だけ重なる。
『私たちも……あなたの盾になりたい』
戦争は終わった。
――でも、物語は終わらない。




