第19話
【位置】制御センター会議室/艦橋(通信)/市街(掲示板前)
【状況】出航条件:防衛網・代理艦隊・期限・指揮権・監視強化/世論は分裂継続
条件は、文字だった。
画面の上に並ぶ、冷たい箇条書き。
【防衛網の再構築】
【代理艦隊の配備】
【出航期限】
【指揮権】
【ログ監視の強化】
たった五つ。
でも、どれも簡単じゃない。
所長は淡々と言った。
「防衛網の再構築は、予算と時間の問題だ。君ができることは少ない」
「じゃあ俺は何をすればいい」
「世論の“恐怖”を減らせ。恐怖が減れば、政治は動く」
政治。
俺は戦場の方が楽だと思った。
撃てば当たる。
当てれば壊れる。
でも政治は違う。
言葉を撃っても、当たらない。
当てたと思ったら、逆に刺さる。
『ハルト』
メティスが呼ぶ。
「何」
『あなたが“できることは少ない”と思うとき、あなたは一番危険です』
「……何それ」
『諦めるからです』
俺は息を吐いた。
「諦めない」
『なら、行動を選んでください』
行動。
所長が言う。
「君は、説明するべきです」
「誰に」
「民間に。議会に。――そして、アイギスの乗員に」
「乗員に?」
「盾は疲れています。盾の納得がなければ、外へ出る意味が崩れる」
艦長に通信を入れると、返事は早かった。
『ハルト。条件の話か』
「はい」
『代理艦隊の配備が肝だ。アイギスが抜けても守れる盾が必要になる』
「そんな艦隊、すぐ用意できるんですか」
『できない。だから揉める』
艦長は言い切った。
『揉めるなら、揉めるだけの理由がある。民間は怖い。議会は責任が怖い。軍は空白が怖い』
『……そして、俺は』
「艦長は?」
『俺は“置いていくこと”が怖い』
その言葉が、胸に刺さる。
守る艦が、守る星を離れる。
盾が、背中を見せる。
怖くないはずがない。
翌日。
市街の掲示板の前に立った。
戦争が終わっても、文字は増えていく。
[ありがとう]
[外へ行くな]
[英雄を利用するな]
[AIを信用するな]
[防衛艦は防衛しろ]
俺は帽子を深くかぶって、息を吸う。
逃げたくなる。
でも――逃げたら終わる。
『ハルト』
メティスの声は静かだった。
『あなたは、正しい言葉を探さなくていい』
「は?」
『あなたの言葉でいい』
俺は一歩前へ出た。
近くにいた人たちが、こっちを見る。
視線。
拍手と同じで、鋭い。
「……俺は、戦場で勝った」
ざわめき。
「でもそれは、アイギスが盾になったからだ」
「アイギスが抜けたら、怖いのは分かる」
その言葉で、何人かの顔が動いた。
俺は続ける。
「だから代理の盾が必要だ。それを作るまで、勝手に出航しない。……でも」
俺は唇を噛んで、言った。
「俺は、終わらせたい。終わらせないと、また来る。次はもっと厄介になる」
ざわめきが広がる。
賛否が混ざる。
でも――“聞いてる”。
それだけで、前に進める気がした。
『……今の発言は、効果があります』
メティスが小さく言う。
「珍しく褒めるじゃん」
『事実の提示です』
俺は苦笑した。
その夜。
所長から短い連絡が来た。
「代理艦隊の枠組みが動き始めました」
「本当ですか」
「本当です。――ただし、反対派も動く」
反対派。
俺は息を止める。
「誰です」
所長は少しだけ間を置いた。
「“守ること”を理由に、君たちを止めたい人間だ」
守ること。
その言葉が、牙になる。




