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勇者が魔王を倒す旅にでたので、スライムは困っています  作者: 叶詩


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41話 勇者と屋敷と、先代の残したものの日

屋敷には歴史が残る。


壁に掛けられた剣。

床に刻まれた傷。

そしてそこに住んでいた者の記憶。


それらは建物と一緒に残り続ける。


問題は、その後に誰が住むかである。


同じ屋敷でも、

意味が変わることは珍しくない。


この島の屋敷も、

今は別の意味を持っている。


理由は特にないが、そういう流れらしい。

島の広場で勇者一行は島の領主と出会った。

領主は礼儀正しく丁寧に勇者に礼をした。


「勇者様。せっかくですので、屋敷へお越しください」


勇者は大きくうなずく。


「ああ、任せろ!」


スライムが叫んだ。


「任せる話じゃないから!」


領主はにこやかな笑顔を崩さない。


「勇者様に受けていただいた依頼もございますので、どうぞこちらへ」


勇者は腕を組んだ。


「なるほどな!」


スライムが言う。


「だから理解してないって!」


少女は不安そうに領主を見ていた。

しかし領主は気にする様子もなく、町の奥へと歩き出した。


勇者たちも後ろをついていく。


領主は町の通りの真ん中を進んでいく。

すると道の真ん中を歩いていた人々が領主に気づき、静かに道を開けた。


脇で話していた人々も言葉を止め、領主が通り過ぎるまで深々と頭を下げていた。


誰も声は出さない。


ただ立ち止まる。


帽子を取る者もいた。


スライムが小さく言う。


「……あれ?」


勇者は言う。


「領主は人気者だな!」


「そうだね~。みんな頭を下げてくれるもんね~」


「違うと思うよ」


錬金術師が小さく笑った。


「敬意の向きが違うのよ」


スライムが聞く。


「何が?」


錬金術師は真っすぐの道の先を指した。

その先にはこの島の中で一番大きな建物でもある領主の屋敷が見えていた。


巨大な石造りの建物の前には大きな庭が広がっていた。

きれいに整えられた植木が庭の道に沿って植えられていて、その真ん中に噴水がある。


高い壁。


太い柱。


古い紋章。


派手ではない。


しかし威厳がある。


少女が言った。


「先代の領主様が建てられました」


勇者はうなずく。


「なるほどな!」


スライムが言う。


「その言葉便利すぎない?」


屋敷の門が開いた。


兵士は少ない。


静かな屋敷だった。


領主は振り返り両手を大きく広げる。


「どうぞ、お入りください」


一行は中に入る。


屋敷の廊下は広く、壁には多くの装飾品が飾られていた。


ダンジョンの深部で手に入りそうな剣。


どんな攻撃でも守ってくれそうな鎧。


歴戦の痕跡が色濃く残っている旗。


そして一見、古びているが何かの特殊効果を持ち合わせていそうな盾。


少女がそれを見ながら言う。


「先代の領主様が海賊と戦ったときのものです」


勇者の目が輝いた。


「英雄だな!」


スライムが言う。


「そうだね! これぞ本当の英雄だね」


少女は続ける。


「海賊の船団が島に来たとき、先代の領主様はお一人で戦われました」


「多くの海賊たちが上陸した際、身を呈して島の人々をお守りになり、死者を誰一人出すことなく撃破されました」


勇者は大きくうなずいた。


「なるほどな!」


スライムが言う。


「今回は合ってる!」


領主は軽く笑った。


「古い話です」


その言い方はあまり興味がなさそうだった。


錬金術師が静かに言う。


「面白いわね」


スライムが聞く。


「何が?」


錬金術師は壁に掛かった装飾品へ視線を移した。


「お金の匂いがしないのよ」


「え?」


「この屋敷なんだけどね……」


少し間を置く。


「先代は集めてないわ」


スライムは周囲を見渡した。

確かに豪華だが、派手ではない。


領主は言う。


「どうぞ、こちらへ」


案内された地下への扉を開けると、先が見えないほど長い螺旋階段が続いていた。

ぐるぐると地下へ続く階段を降り終えると正面に扉が見えた。


少女が少し緊張した。


「ここが……」


スライムが言う。


「地下倉庫なの?」


少女はうなずく。


「元々は避難所だったんです。昔からこの島は本土への中継地点として貿易が盛んに行われ発展してきました」


「そこに目を付けた海賊たちが縄張り争いをはじめました」


「争いは徐々にエスカレートし、やがて島民の虐殺へと進んでいきました」


「数えきれないほどの島の人々が命を落とし、もう駄目だと覚悟を決めた矢先、この島を統治する王の命により先代はこの島へ来て下さいました」


「先代は持ち前の統率力で次々と島の至る所を復興し、海賊たちを退け島の人々が有事の際に避難できるようにと、この場所をお作りになりました」


勇者はうなずく。


「なるほどな!」


スライムが言う。


「それは本当にすごい功績だね」


勇者は腕を組んだ。


「なるほどな!」


そして、考えるそぶりをした。


「つまりだ……」


スライムが身構える。

勇者は真顔だった。


「その先代って人、勇者みたいな人だったんだな!」


廊下が一瞬静かになる。

少女は驚いた顔をした。


領主は少し困った顔をしながら微笑した。

そして、スライムは慌てて叫んだ。


「いや本物の英雄だからね!」


領主は笑った。


「話は戻りますが、ここは今、倉庫ですし……」


「先代は大したことはしておりませんよ」


「それに……ここは使わなくなったガラクタばかり入っております。勇者様にお見せするには見苦しいものばかりでございますので上へ戻りましょう」


領主がそう言ったときだった。

扉の奥から


ドン


鈍い音が響いた。

ほんの一瞬だった。


しかし地下の石壁に反響し、はっきりと聞こえた。


「……今の音、何?」


「なんだろうね~、びっくりしたね~」


お色気お姉さんもびっくりしてスライムを抱きかかえていた。


領主の表情が一瞬だけ固まった。

ほんのわずかに、呼吸が止まる。


誰にも気づかれないほどの一瞬だった。


だがすぐに笑顔を作った。


「ああ、気にされなくて結構ですよ」


「倉庫には古い箱が多くありましてね」


「きっとネズミか……何かでしょう」


錬金術師が小さく笑った。


「ネズミにしては……」


指を顎の下で擦りながら少しだけ考える。


「大きい音だったけど」


領主は聞こえなかったふりをした。


「さあ、なんでしょうね……ささ、勇者様上へ戻りましょう」


その言葉を聞いて錬金術師が小さく笑った。


「でしょうね」


スライムが言う。


「何が?」


錬金術師は答えない。

領主は螺旋階段を上がりながら話を続けた。


「実は最近、私事ではございますが不安になることがありまして」


勇者が言う。


「なるほどな!」


「まだ何も言ってないからね!」


領主は少し声を落とした。


「私への裏切りや屋敷にあります金品の盗難など……物騒な話もちらほら聞きます」


勇者はうなずく。


「なるほどな!」


スライムが言う。


「だから何が!」


勇者は胸を張った。


「つまり……」


少し考える。


「領主は困っているんだな!」


スライムが叫んだ。


「違うからね!」


勇者は依頼書を見返している。


領主様の不安を取り除く仕事


勇者は言った。


「俺たちに、任せろ!」


スライムが頭を抱える。


「だから違うって!」


錬金術師は笑っていた。


「ホント面白いわね」


領主は満足そうにうなずいた。


「勇者様ありがとうございます」



屋敷には記録が残る。


英雄が使った剣。

戦いの旗。

古い鎧。


それらは時間が経っても消えない。


しかしそれを見る者の意味は変わる。


敬意で見る者もいれば、

ただの飾りとして見る者もいる。


同じ物でも、

見方は違う。


それだけのことである。



領主と話し込むうちに日は沈み、辺りは薄暗くなっていた。

屋敷の廊下は静かだった。


勇者たちは客室へ案内されていた。


「ねえ」


「なんだ?」


「この依頼なんだけど……」


「ああ、任せろ!」


「任せる話じゃないから!」


スライムは理解していない勇者にイライラしていた。

錬金術師が窓の外を眺めている。


「もう夜ね」


スライムが不思議そうに話しかける。


「何かあるの?」


錬金術師は小さく笑う。


「さあ……」


少女は静かに言った。


「地下倉庫には……」


言葉が止まる。

少女はそれ以上言葉を続けなかった。


「なるほどな!」


「だから何がだよそれ!」


スライムは理解しない勇者にイライラしている。


「安心しろ」


「領主の不安は、俺たちが解決するからな!」


「そうだね~。不安解消してあげようね~」


スライムが頭を抱えふさぎ込む。


「だからその方向じゃないって!」



屋敷には多くの物が残っている。


英雄の剣。

海賊の旗。

古い鎧。


そして今は、

別の物も集められている。


それらは地下に置かれている。


その夜、

屋敷の地下では

誰も知らない出来事が始まろうとしていた。


「いやこれ絶対ロクなことにならないだろ!」

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