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勇者が魔王を倒す旅にでたので、スライムは困っています  作者: 叶詩


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26話 勇者と対峙と、戦った気がする日

対峙は、先頭の前段階として扱われる。

向かい合った時点で、戦った気になる者もいる。


剣を抜けば戦闘。

息が上がれば激闘。

声が大きければ勝利。


実際に何が起きたかは、あとで整理される。

今日の出来事は、戦闘として処理される予定である。


そういう予定は、だいたいその通りに処理される。

理由は特にないが、そういう流れらしい。

通路の余白の中心に、魔王の側にいた人は立っていた。

立っているだけで、空間が落ち着いている。


勇者は、落ち着かない。

落ち着かないまま剣に手をかける。


「よし……来い!」


「“来い”と言われても困ります」


丁寧に返される。


スライムが小さく呻いた。


「もう始まってるのこれ……?」


お色気お姉さんは、いつも通り近い位置にいる。

近いけれど、危機感はない。


魔王の側にいた人は、深く息を吸って言った。


「まず、あなた方は――」


勇者が遮る。


「説明はいいから!戦うぞ!」


「戦う前に説明が必要です」


「戦えば分かる!」


「戦っても分からない可能性が高いので説明します」


スライムが頭を抱えた。


(会話だけで疲れるやつだ)


勇者は剣を抜いた。

金属音が通路に響く。

その音だけで、もう戦闘っぽい。


勇者は胸を張った。


「これが冒険ってやつだ!」


「それ、入口で言ってたやつ!」


スライムが言う。


距離は、五歩くらい。

近いようで、微妙に遠い。


魔王の側にいた人は、一切構えない。

手は下ろしたまま。

足も動かさない。


勇者だけが構えている。


「お前、構えないのか!」


「現時点で構える必要がありません」


丁寧に言われて、勇者が燃える。


「ナメるなよ!」


「ナメているのではなく、合理的に判断しているだけです」


「合理的とか言うな!」


スライムが叫ぶ。


「今そういうのいいから!」


魔王の側にいた人は、スライムの方を見た。


「いい指摘です。今は、あなたが最も状況を正確に把握しています」


スライムは固まった。


「褒められても嬉しくない!」


勇者は、その間に踏み込んだ。


勇者は勢いで距離を詰め、剣を振った。

風を切る音が鳴る。


だが、当たらない。


魔王の側にいた人は、半歩だけ横にずれた。

ずれただけで、まだ同じ場所にいるみたいに見える。


勇者の剣は空を切り、壁に近いところで止まった。


「よし!」


勇者が言った。


「よしじゃない!」


スライムが叫ぶ。


「当たってない!」


勇者は息を吐いて、満足そうに言った。


「避けさせたからな!」


「避けたの、相手が勝手に!」


魔王の側にいた人は、落ち着いた声で言った。


「今の一撃は、角度が大きすぎます」


「戦いながら説明するな!」


スライムが言う。


魔王の側にいた人は続ける。


「それに、その距離から踏み込む場合――」


「黙れ!」


勇者が叫び、もう一度振る。


また当たらない。


半歩。

同じように半歩。


魔王の側にいた人は、反撃しない。

避けるだけ。

避けながら、話す。


「今の行動も、合理的では――」


「合理的禁止!」


スライムが言う。


「禁止って言っても止まらないの分かってるけど!」


勇者は、息が少し上がってきた。

剣を振るたびに、音だけが大きい。


当たっていないのに、戦った感じは増えていく。


勇者は興奮している。


「いいぞ、いいぞ……!俺は戦ってる!」


「戦ってない!」


スライムが言う。


「戦ってるのは気分だけ!」


魔王の側にいた人は、淡々と指摘する。


「あなたの攻撃は、命中率が低い」


「命中率とか言うな!」


「命中しないなら意味がありません」


「意味はある!」


勇者が叫ぶ。


「俺は今、冒険してる!」


スライムは頭を抱えた。


「冒険って言葉、便利すぎるだろ……」


魔王の側にいた人は、少しだけ距離を取った。

そして後ろへ一歩下がった。


「今のあなたの攻撃パターンは」


「パターンって言うな!」


スライムが言う。


「それ、解説席!」


魔王の側にいた人は、丁寧に頷く。


「解説ではなく、修正提案です」


「提案いらない!」


勇者が言う。


「俺は俺のやり方でやる!」


「その結果、当たりません」


「当てる必要はない!」


スライムが叫ぶ。


「必要あるだろ!倒すんだろ!」


勇者は胸を張る。


「倒す前に、戦った気になるのが大事ってことだ!」


スライムは言葉を失った。

理屈型が理屈を言っているのに、勇者の方が理屈っぽい。


しかも方向が変。


魔王の側にいた人は、一瞬だけ沈黙した。

沈黙した後、丁寧に言った。


「……なるほど。価値基準が違うのですね」


「そうだ!」


勇者が誇らしげに言う。


「俺は、今いい感じなんだ!」


スライムが叫ぶ。


「その“いい感じ”が世界を壊すんだよ!」


「壊れてない!」


「壊れてなくても壊してる!」


お色気お姉さんが、ふと前に出た。

戦闘中なのに、距離を詰める。


魔王の側にいた人が、ほんの少しだけ後ろへ下がった。

さっきまで一切動じなかったのに。


「……距離が近いです」


丁寧だが、声の温度が変わった。


お色気お姉さんは笑う。


「ごめんね〜。つい」


「つい、で来ないでください」


「え〜、だって話長いし~」


スライムが即座に言う。


「それ言っていいんだ!」


勇者が驚いた顔をする。


「話が長いのは、戦うためだろ!」


「戦うためじゃなくて、納得させるためです」


魔王の側にいた人は、真面目に言う。


「あなた方は納得しないと止まらない」


スライムは呟く。


「納得しても止まらないよ」



剣は振られた。

距離は詰まった。

息は上がった。


会話も成立した。

よって、戦闘は発生した扱いとなる。


当たったかどうかは問われない。

倒れたかどうかも問われない。


戦った気になったかどうかが、重要だった。



勇者は、さらに剣を振った。

当たらない。


魔王の側にいた人は、また半歩ずれる。

ずれながら、少しだけ眉を動かす。


「あなたは」


「うおおお!」


勇者が叫ぶ。


「なんか、すげぇ戦ってる気がするな!!」


スライムが叫ぶ。


「当たってないのに!?」


勇者は息を切らしながら言った。


「だからだよ!」


「だからって何!?」


「当たらない相手と戦うのが、冒険ってもんだ!」


スライムは崩れそうになった。


(この勇者、厄介だ)


魔王の側にいた人は、落ち着いた声で区切った。


「……ここまでにしましょう」


勇者が止まる。


「え?降参か?」


「降参ではありません」


「じゃあ、俺の勝ちだな!」


「勝ちではありません」


「勝ちだ!」


スライムが言った。


「どこが勝ちなんだよ!」


魔王の側にいた人は、丁寧に説明する。


「あなた方は、私に一切の実害を与えていません」


勇者は胸を張る。


「優しい戦いだったからな!」


「優しさじゃない!」


魔王の側にいた人は、少しだけ姿勢を正した。


「私は、必要十分に止める役目です」


「また必要十分!」


スライムが叫ぶ。


「口癖やめて!」


魔王の側にいた人は頷く。


「はい。必要だからです」


「止まれ!」


「止まれと言われても、止まりません」


「そこは止まれよ!」


勇者は剣を納めた。

納めながら、満足そうに言った。


「いい戦いだったな!」


スライムが呻く。


「戦いって……何……」


お色気お姉さんは笑う。


「楽しかったね〜」


「二人とも怖い!」


スライムが言う。


「怖いのは幹部じゃなくて君らだよ!」



対峙は戦闘と記録された。

勇者は一歩前に進んだと判断された。


実際に何が進んだかは問われない。

達成感は有効とされた。


魔王の側にいた人は、余裕だった。

余裕は、次回への予告として処理された。


世界は今日も、

気分を進捗に変換して先へ進む。


特に何も変わらなかった。

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