不良新兵は魔王様に全力でツッコむ(3.1k)
脱走兵が過去の失言の報いを受けてズタボロ黒焦げにされた。
完全に玩具にされている黒焦げを目の当たりにして、国境線であるヴァルハラ川の川辺で身動きが取れなくなっている俺達。
『久しぶりにウェイトレスの仕事をしたらお腹すいてきたわ。次の獲物はと……』
【肉食金魚】の声が聞こえる。
今のはウェイトレスの仕事だったのか!
どんなウェイトレスだ!
そしてまだ食べるんかい!
俺の口に出せないツッコミに気付いているかどうかはわからないが、【肉食金魚】が俺達の上を通過した気配。
見上げることはできないので、視線をやや下に向けてやり過ごそうとした次の瞬間。
「!!!」
急に、言い知れぬ強い威圧感を感じた。
蛇に睨まれたカエルの気分だろうか。【肉食金魚】が戻ってきて俺達の後ろを飛んでいる気配がする。
なんだかよく分からないが、全く動くことができない。冷や汗が止まらない。
【命の価値】を値踏みされているような、血の味、肉の硬さ、骨の歯応え、そういうようなものを外側から容赦なく探られているような感覚。
まさか、俺達が【獲物】として吟味されている?
先程空中でまるごと喰われた魚。たった今【ズタボロ黒焦げ】に料理された兵士。その姿より、俺達が空中に打ち上げられてズタズタバラバラの黒焦げにされて捕食される光景が脳裏に浮かぶ。
普通にできそうで怖い。
(いや、美味しくないよ。絶対美味しくない。それに、訓練がつらいと脱走してアホやってた俺達なんて、その御身体に加えるにふさわしくないと思いますよ。もっと上質な【命】をお探しください)
なんかもう、変な汗を出しながら声も出ないので必死で頭の中で繰り返す。
『あっ! 美味しそうなの発見!』
感じていた謎の威圧感が消えて【肉食金魚】が飛び去る気配。
『【魂】ごとその【血肉】いただきまーす!』
ギャーギャーギャ…… ガッ バサバサッ
コンドルの鳴き声。そして、途絶えた。
『大きくてもやっぱり鳥は軽いわねー。一羽じゃ足りないわ。他に美味しそうなのは居ないかしらー』
コンドルさぁぁぁーん!
『美味しい血肉を差し出せば【魂】を【聖地】にご招待よー!』
バサバサバサバサバサバサバサバサ
意味の分からない呼びかけに応じたのか、林のあちこちから大小様々な鳥が飛び立つ音。どうして出てくるんだ。喰われるぞ! 喰われたいのか?
『わぁぁ! 美味しそうなのが沢山! イタダキマース!』
バサバサ ガッ ガッ ムシャ バサ ガッ
上空で繰り広げられているであろう【肉食金魚】による【地獄の捕食カーニバル】。
絶対に上を見たくない。
「「…………」」
俺達の部隊は壊滅。ユグドラシル王国側の国境防衛隊も壊滅。国境線の向こうでは【黒豹女】が【ズタボロ黒焦げ】で遊んでる。
この区域内で動いているマトモな人間は俺達二人だけ。もう何をすればいいのか分からないので、呆然と立ち尽くしながらふと気になったことを相棒に聞いてみる。
「……なぁ、ノイマン。お前の研究テーマってどんなものだったんだ?」
「……長射程砲の弾道計算をするための機械だよ」
「計算ができる機械なのか。すごいじゃないか。どういう原理なんだ?」
「電気を使うんだ。【二進数】っていう特殊な数え方で電気回路で計算処理をするものなんだ」
「それ……俺達で作れないかな」
「長射程砲が開発中止になったから、作っても使い道ないよ」
「電気で計算ができるんだろ。弾道計算以外にもいくらでも使い道あるだろ。薬品の調合でも機械設計でも計算は重要だぞ」
「そういえばそうだね。でも、材料を買うお金がないよ」
「材料は何がどんだけ要るんだよ」
「継電器が二万個ぐらいかな。あと、配線材料とか」
「二万か。それだけでいいのか。簡単だろ」
「簡単かな。継電器ってけっこう高いよ」
「百個組が二百個あればいいんだろ。リバーサイドシティの廃棄物再資源化工場で廃棄機械の解体業務をすればそのぐらいすぐ集まるんじゃないか」
「でもそれは再資源化用だよね。貰っちゃまずいよ」
「いや、使えそうな部品が取れたら部品単位で買いとればいいだろ。日当の現物支給とか理由付けて。相手は【肉食金魚】じゃないんだから交渉すればなんとでもなるだろ」
「そうか。そうだね。でも、そういうところって激務なんでしょ」
「工場に【肉食金魚】は居ないだろ。吹っ飛ばされたり撃たれたり黒焦げにされたりしないだろ。ここに比べたら天国だ」
「そうだね。きつくてもいきなり臨死はしないよね。六年ぐらい地道に働けば部品と資金集まるかな」
「そこまで待たなくても、再利用部品集めて縮小試作作って技術的な見通し立ったらトーマスメタル社に売り込みに行ってみようぜ。あそこの社長の邸宅には物好きな投資家が出入りしているらしいから、将来性を認めてもらえたら出資してもらえるかもしれないぞ」
「でもエドガー。トーマスメタル社に知り合い居るの?」
「居ない。でも場所は知っているからアポなしでも突撃すればいいだろ。相手は【肉食金魚】じゃないんだから、いきなり焼かれたり刻まれたり喰われたりはしないだろ」
「そうか、人間相手なら門前払いかせいぜい殴られるぐらいだから、会いたいと思ったら普通に行けばいいんだね」
「技術開発成功して、なにか商品とか作れたら会社作れるぞ」
「いいね。僕は開発専属したいからその時はエドガー社長やってよ」
「おお。いろんなところに売り込んでたくさん開発費かせいでやるぜ」
なんか、ここから生還する事さえできれば、この人生なんでもできそうな気がしてきた。あとは、どうやって二人で生還するかだな。
「おい、お前たち」
「あっ、【魔王】様」
生還後の悪くない人生に思いを馳せていると、後ろから声が聞こえた。そちらを見ると【魔王】様が林の獣道から出てきた。
あの御方は、規格外の大男なので遠くから見てもすぐに分かる。
「ぼーっとしてないで部隊の方に帰ってやれ。ざっと様子見てきたけど、全員沼に埋められて身動き取れなくなってる。部隊は壊滅だが重傷者は居ない。掘り起こしてやれ」
「は、はい!」
【魔王】様は状況把握しているのだろうか。
「俺はユグドラシル王国軍の方を助けないといかん。うっかり銃口を向けてしまった可哀そうな奴が居たみたいで重傷者が多数出てる。救助は始めてるが人手が足りん。エスタンシア帝国軍の方はお前たちに任せたい。基地の南門近くに隊長のビリーが埋まってるから最初に掘り起こして彼の指示に従ってくれ。あいつはこれで三度目だ。慣れてる」
こんなことが過去に何度もあったんだ……。
「まぁ、散々な目に遭ったかもしれんが、自業自得だ。早めに行ってやれよ」
そう言い残して【魔王】様は川を渡ろうとした。
滅多に会える御方でもないので、さっきからどうしても気になっていることを思い切って聞いてみることにした。
「アレは一体何なんですか?」
上空で大小様々な鳥を貪り喰っているアレのことだ。
当然、【誰】なのかは知ってる。聞きたいのはそこじゃない。
「あれは【妊婦】だ」
「はいぃ?」
「女性は妊娠すると食べ物の好みが若干変わったり、精神的にちょっと不安定になって短気を起こしたりすることがあるものなんだ。【妻】も妊娠中だからな。そんな状態になっているだけだ。別にこれは珍しいことじゃないぞ」
脱走して仕事サボったのは俺達が悪い。
立ち入り禁止区域に入ってしまったのも俺達が悪い。
この騒ぎの原因も元はと言えば俺達だ。
そして【魔王】様は安易にツッコミ入れていい相手じゃない。
だけど、今だけは言いたい。
「そんなわけ、あるかぁぁぁー!」
ご愛読ありがとうございました。
妊婦さんが狂暴化するのは有名な話ですが、おおむねその原因は旦那さんだったりします。
初めて感じる身体の変化と無条件に消耗する体力。胎内に命を宿す精神的重圧。そんなものと戦っている妻に向かって、【残業帰りで疲れたから休ませて】とか、【ごはん無いの?】とか【家事ぐらいしっかりしてくれ】とか言ってしまえばクライシス。
豹変する伴侶に戸惑う気持ちも分からなくはないけど、その程度の配慮ができないようでは、出産後に始まる【育児】には太刀打ちできない。
狂暴化妊婦さんは【お父さん係】になるための最初の試練だ。
そして、今、この話の初代魔王誕生秘話のようなものもあり(完結済み)。
「初代魔王も脚は飾りと思っていた(終末魔女の悲願/転生独裁者の贖罪)」
https://ncode.syosetu.com/n4319iq/
【創世歴】に一体何があったのか。初代魔王の正体とは。そして、彼女の出自の秘密とは?
もしよかったらこちらもよろしくお願いします。
長い物語でしたが、ご愛読本当にありがとうございました。




