不良新兵は女性に対する失言の結末に恐怖する(2.4k)
【魔王城】最寄りの【第一地区】にて。エスタンシア帝国国境防衛隊は壊滅。ユグドラシル王国国境防衛隊も多分壊滅。
俺達が脱走とセクハラで叱責を受けたくないと思ってしまったばかりに……。
申し訳ない気持ちだ……。
「たっ、助けてくれぇ!」
川の向こう岸、林の中からユグドラシル王国軍の兵士が駆け出してきた。川に向かって走って来る。
一人足りないって言ってたその一人だろうか。
脱走兵同士だ。できるなら助けてやりたい。でもこの川は国境線。俺達は国境警備隊だ。敵国軍人を無許可で越境させるわけにはいかない。
「止まれ! それ以上国境線に近づくな!」
ドガガガガガガガガガーン
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
轟音と共に兵士の周りに土煙が上がった。
あれは【機関銃】による【機銃掃射】だ。でも発砲したのは俺達じゃない。
「うわぁぁぁぁ! ぎゃぁぁぁぁ!」 ジタバタジタバタ
兵士の断末魔の悲鳴。土煙が晴れたら、その兵士が血まみれになって倒れているのが見えた。何発か命中したようだ。両腕両足が変な方向に曲がっている。
とりあえず、これで越境される心配は無いか。
『軍人が命令もないのに逃げたりしちゃだめじゃないの。しかも国境線の方に逃げるなんて。しっかりと【教育】が必要ねぇ』
「ぎゃぁぁぁぁぁ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
上を見ることはできないが【肉食金魚】が来た気配がする。
『でもまぁ、一人だけ逃がしたのはわざとよ。心当たりがあるでしょ』
「まさか! 【ご神体】の件ですか!?」
『【ご神体】見て、これはデ●だって豪語してたわね』
「なぜそれを!」
『あんまり自分で言いたくないけど【地獄耳】よ』
「【ご神体】見て●ブは無い。あの男頭がおかしいよ」
「……ノイマン。俺もその見解に異論は無いが、今ツッコミするのはそこか?」
そう言いつつも、この状況下で何処にツッコミ入れればいいのか俺にも分からない。
「確かに【ご神体】を愚弄したのは罪かもしれませんが! 細身の女性の痩せた身体を好む趣味趣向があったっていいじゃないですか! 異端者や特殊性癖が認められる社会こそが健全とは思えませんか!」
両腕両脚撃ち抜かれて這いつくばりながらも無体な主張をする兵士。逞しいと言っていいのか?
でも、できれば他所で、国境線から遠く離れたところでやってほしい。俺達は食料危機の時に皆でガリガリになったトラウマがあるから、女性が痩せるとか、聞くだけでも悲しくなる。
『趣味趣向の扱いについてはワタクシも正直判断に迷うところがあります。だから、今日は【専門家】の見解を頂きます。 マリアー! 付いてきてる?』
「はーい」 バッ クルクル スタッ
林の木の上から猫みたいな動きで何かが飛び降りてきた。ズボン姿で【尻尾】を付けた女性だ。
黒猫? いや、黒豹かな。
【黒豹女】だな。少なくともマトモな人間じゃない。
「【魔王城】で特殊性癖の専門家をしているマリアです。自分の趣向を認めてもらうためには、他人の趣向を否定しないことがとても大事です」
『つまり、この男の特殊性癖が許されるかどうかは、マリアの趣向を受け入れられるかどうかで決まるわけね』
「そうです! 私の趣向である【尊い黒焦げマッチョ】を認めて、それを体現できるかどうかにかかってます!」
「オカシイだろ! 黒焦げとかどう考えてもオカシイだろ! 常識的に考えて相手に苦痛を与えるような趣向が許されるわけがないだろうが!」
【ご神体】を侮辱した罪は重いが、さすがにこれはあの兵士のほうが正論なように思う。趣向で黒焦げにされたんじゃ命がいくつあっても足りない。
「腐腐腐腐……。デ●とか言われたり、【細さ】を求められたりした女性が苦痛を感じないとでも思っていましたか? 貴方の趣向による発言が誰かに苦痛を与えていたとは思いませんか?」
「!!!」
趣向はぶっ飛んでるけど【黒豹女】の方が正論だったー!
俺も、俺も今後の人生で気を付ける!
言動には絶対に気を付ける!
「これは【専門家】として、彼には【教育】が必要という見解です。【魔王妃】様。本業は【営業中】でしょうか」
『【営業中】よ。ご注文はお決まりかしら』
「【クマのごちそう風 特殊性癖男の黒焦げタタキ】をお願いします」
『火加減は如何いたしましょう』
「今の私に治せるぐらいの最大火力でお願いします」
『かしこまりました。ごゆっくりとご賞味ください』
【黒豹女】が可哀そうな兵士から離れた。
「私が間違ってました! ごめんなさい! ごめんなさ」ベシーン
ザシュ ズバ ベキ グシャ ゴキッ
ドカーン ベシーン
シュゴォォォォォォ
可愛そうな兵士が一瞬でズタボロの黒焦げになった。
あれが注文通りなのか。
酷い……。
【黒豹女】が戻ってきた。
「尊い【ズタボロ黒焦げ】をありがとうございます【魔王妃】様。美味しくいただきます」
『あとでちゃんと治すのよー』
「はーい」
ガッ ズボッ
「腐ォース! 腐ォース!」
「%$&#$%#&%!!」 ビチビチビチ ジタジタジタ
【黒豹女】に【尻尾】の先端を口から押し込まれた【ズタボロ黒焦げ】が、声にならない声を上げながら複雑に折れた手足でもがいている。
「獲物目線で見ると、僕達の食事ってあんな感じなのかな」
「……ノイマン。この光景見てその感想か? でも確かに、バラバラに切って、こんがり焼いて皿にもりつけてって、獲物目線で見るとあんな感じかもしれないな」
「なんか僕、申し訳ない気持ちになってきた」
「そうだな。でも、俺達は生肉や生魚は食べられないし、どんな形であれ食べないと生きていけないからな。残酷な死に方を受け入れて、俺達の命の一部になってくれた獲物達に感謝すべきなんだな」
どんなに残酷だと思っても、俺達は明日も生きたいと思ったら今日も殺さなくてはいけないんだ。
そう考えると、今までそうやって生きてきた俺がハズレ人生なんて投げやりなことを言っちゃいけない気もしてきた。




