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その4

◇◇◇◇◇◇ その4


「僕はもう寝たよ。」

 布団を頭までかぶって純一はがたがたと震えている。しばらくすると再び


「せい。」

 という掛け声と共にぶきみな「どんつく」はしだいに遠ざかっていった。純一もようやく眠りにつき、静かな寝息をたてている。


「もうじき御柱だね。」

 涼子が健一に話しかけた。御柱とは日本三大奇祭のひとつに数えられる諏訪地方の大祭である。祭りは山から大木を切り出す「山出し」と町の中を引き回す「里引き」の二つに分けて盛大に開催される。


 山出しでは切り出した御柱にたくさんの人が乗り、途中の斜面を勢いよく下ってゆく「木落とし」と呼ばれる見せ場があり、怪我人がでることもある。祭が近づくとこのシーンが印刷されたポスターがあちこちに見られるようになる。


 一方の里引きは街中で開催される。綱をつけた御柱を引き回し、柱の周りで出し物が華やかさを競う。そして諏訪大社の下社と上社の境内に四本の御柱を建て、祭りは終わる。


 この勇壮な御柱は七年に一度執り行なわれ、諏訪地方のちょっとした社にも小さな御柱が建てられる。御柱の年は出費が多いために結婚するのは縁起が悪いとされるのが伝統となっているほどの地域総出のお祭りである。


 五月の里引きにはたくさんの地区毎の出し物が華やかさを競いあう。純一がおびえた「どんつく」は里引きの出し物の一つで、正式には長持ち行列という。ぎしぎしという音は長持ちを担ぎ、練り歩く時に発生する擦れ合う音で大きさや音色に個性があり、この音をはっきりだすことが目標の一つでもあるらしい。


 御柱が近づくと出し物の練習が始まる。昔と違って今は担ぎ手にも仕事があるために練習は夜行われる。健一の地区では8時から10時まで毎日練習しており、家の前がちょうど休憩場所となっていた。


「これでしばらくは純一も早く寝るね。」

 まだ結婚したばかりの頃、涼子が初めてこの音を聞いたのは健一が出張で留守の時であった。だんだんと近づく「どんつく」が家の前で止まった時、失神しそうなほどの恐怖を覚えた。がたがたと震えながらも、意を決して窓から外を覗くと10人ほどのグループが長持ちを囲んで缶コーヒーを片手に休んでいる所であった




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