その5
◇◇◇◇◇◇ その5
練習は毎日続き、純一は「どんつく」の音を聞くのが恐しく、聞こえるまでに寝てしまおうと布団にもぐるのを早くした。そのおかげで地をはうような音が聞こえる頃にはぐっすりと眠っている。
祭りまであと半月と迫った夜、純一はいつものように眠りについた。9時が迫る頃いつものように「どんつく」の低音がうなるように響いてくる。
「今日はなんだか音が違わないか。」
「そうかなあ。」
テレビドラマに夢中の涼子は生返事をしている。そんな涼子を健一は背中から抱きしめた。
「やめてよ。いま、いいところなんだから。」
「いいじゃないか~。」
「もう、しょうがないわね。」
永年連れ添った夫婦の営みはぴたりと息があっている。
二人が絶頂に入ったその時、テレビが「パチッ。」と音を発てて消えた。
「あれ、壊れちゃったのかしら。」
相変わらず聞こえて来る音に健一が耳を澄ますといつものどんつくよりも音が金属質のようである。
「音が変だね。カセットでも使い始めたのかな。」
涼子はテレビの電源を入れようとリモコンに手を伸ばした。
「ガタッ。」
涼子は慌てて健一から体を放し、寝室にのぞきにいく。寝室では純一が起き上がり、布団の上でぼーっとしている。
「はやく寝ないとどんつくにさらわれちゃうぞ。」
純一を脅かした涼子はその様子がただごとではないことに気がついた。夢遊病者のように目の焦点が定まっていないのである。
「どんつく、どんつく」
ぎしぎしという音と共に近づいてくる。
「どんつく、どんつく、どんどん」
「やさえーえ、やさえー」
音が頂点に達した時、純一はすっと立ち上がった。そして音に誘われるように玄関に向かって歩いて行く。健一と涼子がぼうぜんと立ち尽くす中、純一が裸足のまま玄関に降りると鍵が掛かっていたはずの玄関の扉がすっと開き、純一は外へするりと出ていった。




