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その37

◇◇◇◇◇◇ その37


 今川を難無く撃破した信玄はとうとう海を手に入れることに成功した。信長は既に京への道を確保し、頻繁に往来を繰り返している。信玄はまず徳川を撃破しなくては信長と決戦を迎えることが出来ない。


義元亡き後、息子の氏真の代になった今川は戦国を生き抜く体力は既になく、調略だけで簡単に手に入れることができた。だが、北条には少々てこづっている。


 信玄は京の延暦寺にさかんに密使を送り、信長の野心に心から怒りを覚えていることを伝えた。そして比叡山の中に武田寄進の塔を建て、そこを信玄の飛ぶための拠点とした。


この拠点が出来てからは信玄は自ら天台座主と会見し、信長を少しでも足留めしてもらえるように説得を繰り返している。


「遠い未来において天朝様の世の中がまだ続いているということは神を否定し、仏をないがしろにしようとしている信長には天下は取れなかったということになる。」

「父上、あけちのみっかてんかというのはどういうことでしょうか。」

 勝頼が突然父に尋ねた。


「元の世界の父がよく、そんなことではあけちのみっかてんかだ、と言っておりました。」

「あけちというのは織田の家中で京都支配の明智光秀どののことだと思うが、あやつが短い間でも天下を取るのであろうか。」


 信玄は勝頼との会話の内容を自分の作戦に反映した。勝頼の歴史の知識は断片的であったが、それでもへたな占いよりはよっぽど確かであり、作戦はことごとく成功を納めている。


越後の謙信には天下統一の野心はないらしく武田との小競合いを楽しんでいるだけのようにしか見えない。


 駿河の今川を手中に納めた信玄はあの手この手で北条に揺さぶりをかけ続け、とうとう武田軍を小田原に向けて進発させた。北条は室町からの名家であり、プライドも高い。


実力は早雲の頃に比べればかなり落ちるものの領国からの動員数も並みではなく、侵攻にはてこづ

った。


「全軍、引け!」

 信玄は珍しく撤退命令を発して甲斐へ全軍の引き上げを命じた。北条軍はどこまでも執拗に後を追い回して来る。北条軍の追撃に兵が疲れ果てた頃、勝頼の率いる別働隊が北条の背後をついたのである。


「勝頼どの、良い間合いじゃ。」


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