その28
◇◇◇◇◇◇ その28
「でも晴信様、ここから飛んだ場合、どこに行くのかはっきりしませぬ。しばらく私めに調べさせて下さりませ。」
勘助がようやく口を開いた。
「寺でもいいのならあの善光寺はどうだろうか。もしあそこに飛べれば」
「謙信を自由自在に操れまする。」
静がぱっと輝いた顔で晴信の言葉に続けた。それは晴信が京を目指す大きな障害をひとつ乗り越えた事になるのだ。晴信は上田攻略にあたり一度手酷い目に遭っている。
今は真田が押さえてくれているので安心だが、今川・北条ともいつ一戦を構えるかは時間の問題であろうと推測している。今の晴信にとって四方に敵がいる甲斐から京へ上洛する早道はこれら全ての敵に対して脅威となるのは間違いない。
光前寺の祠の工事は急いで進められた。祠自体は小さなものであるが、すぐ近くに屋敷を新築し、祠とは地下道で結ばれている。完成すると晴信と静は屋敷より祠へと入り込んだ。
「ここはなにか違う雰囲気を感じまする。」
静が不安そうに晴信に尋ねた。
「確かに諏訪とは違うようだな。でも安ずるな。」
晴信は不安そうに見上げる静をそっと抱き寄せた。
「晴信様。」
静はなぜか瞳をうるませている。晴信はそんな静をいつになく愛しいと思った。晴信は静の唇にそっと接吻し、つつじケ崎の自分の居間を強く念じた。
二人の体が淡く発光を始めた。その光は徐々に強さを増し、静と晴信を包みこんでいく。祠からあふれんばかりの輝いた時、二人の姿は空間に溶けこむように消えていた。
「静。」
静は呼ばれる声で目を覚ました。
「静もわかったか。」
「はい。見えました。」
「こ度ははっきりと諏訪の御柱が見えました。」
「私もだ。諏訪の御柱が見えた時、この館を念じたらすっと吸い込まれるようにここへこれたのです。」
「光前寺と諏訪は一対になっているのかもしれないな。丁度馬の前足と後ろ足のように。」
「光前寺が向きを決める役割で、諏訪が運ぶ役割なのでしょうか。」
静が首を傾げて答えた。
「どっちにしてもこれで狙った場所に飛び易くなった事は確かだ。」
晴信は砥石城で手痛い目に遭った村上義清をようやく葛尾城から追い出す事に成功した。義清は上杉謙信を頼って越後に逃れたのである。




