その27
◇◇◇◇◇◇ その27
石は全部で七つあった。
「あの石の形はどこぞで見た事があるぞ。」
「はっはっはっ、さすがに晴信様じゃ。お気付きになられたか。」
「そうだ、あれは北斗の星と同じだな。」
「わしにも誰があの石を置いたのかはわからんのじゃ。早太郎は七つの柄杓の石の内、四角になっているところをひょいひょいと飛び回り、行者を柄の部分の先頭にいざなうと消えてしまったという話しじゃ。」
「ふーむ。」
晴信は腕を組んで考え始めた。和尚の話しが伝説でも伝わっているとすると早太郎は「飛べた」ことになる。しかも一人、いや一匹でそれを可能にしているのだ。晴信は静と目を合わせた。この寺は「飛ぶ」場所の中でも特別な何かがある寺らしい。
「早太郎はひひの前に忽然と姿を表すと行者と協力し、ひひを倒したのは晴信様も知っての通りでございます。」
「和尚よ、御柱はあきらめるが、あの四つ石の間に祠を作らせてはもらえないかの。」
「今は草むらでございますので別にかまいませぬが、どうなさるおつもりで。」
「私も早太郎にあやかって武田軍を風のように動かしたいのだ。その祠には早太郎を祭りたいのだが、かまわないだろうか。」
「そりゃあもう、大歓迎でございます。」
「本堂もだいぶ痛んでいるようだの。さっそく修理にかからせよう。」
「ありがたきしあわせにございます。」
和尚は晴信の信心深さを誉め称えた。光前寺にしても武田が後ろ盾にあれば得られる物も大きい。
「静よ。」
館では湖静姫と呼んでいるが、外では静をやはりこう呼んでいた。
「どうやらひょうたんから駒が出たらしい。」
「御柱は木でなくてもよいのでございますね。」
静が答えた。
「ここからならかなり遠くまで行けそうだ。静も気がついたか。」
「あの柄杓の柄の部分のことでございましょう。」
「そうだ、あの柄は確かに諏訪の方角を向いておる。」
「それにあの光る苔だが、頻繁に誰かが飛んだ末、光を吸い込んだのかもしれぬ。」
「祠が完成したら試してみよう。」
晴信は静にささやいた。静は顔を赤らめている。「飛ぶ」には静は晴信に抱かれなくてはならないのだ。




