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その17

◇◇◇◇◇◇ その17


 晴信と静は馬にまたがると

「松蔵、一緒に来い。」

 と言うが早いか鞭をくれ、たちまち走り出した。


 静も負けじと馬を責める。そして松蔵は信じられない速さで晴信の馬の轡を取ると一緒に走り出した。夜通し馬を走らせた三人は次の日の早朝、守屋館に到着した。松蔵が先触れしたおかげで当主のみが裏門から二人を密かに導き入れてくれた。


「心配しておりました。でもまだこの事は私しか知りませぬ。」

 当主はもったいつけて晴信に報告したが、娘の無事な姿を見てほっとしている様子は隠せなかった。


「大儀であった。」

 粗末な着物を着ていてもやはり晴信は凛とした声を出し、当主をねぎらった。

「しばらく寄せてもらうぞ。寝所は同じ部屋にしてくれ。」


 晴信はひとこというさっさと馬を降り、館の中に入って行った。部屋に入ると晴信の頭は急速に回転を始める。


「同じ条件で静を抱けばもう一度つつじケ崎まで一瞬で行けないであろうか。」

 晴信は夜が来るのをじっと待った。


「あの晩も、これくらいの刻限であった。」

 晴信は静の手を取ると自分の方へ力強く抱き寄せた。


「静は逃げませぬ。大事にして下され。」

 晴信は静の唇を自分の唇で塞いだ。


「晴信様。」

 小さな声で静はうながし、晴信を迎え入れた。


「何も起きなかったな。」

 晴信は言った。

「ええ、でも静はとても幸せでございました。」


 なぜだろう、晴信は条件の違いを考えた。部屋は同じである。床の向きも場所も変えてはいない。

「静、何か違うところはないか。」


「この前よりも私が乱れてしまったせいかもれませぬ。もうじき月のものが始まる予感がいたします。」

「月のもの、そうか、月だ。あの日とは月の場所が違う。たしか満月だったのではないか。」


「そういえばそうでございました。大きな月が諏訪湖を照らしておりました。」

「私は一度つつじケ崎に戻り、準備を整える。次の満月の日に又会おう。」

 晴信は松蔵を呼ぶと嵐の様に静の前から姿を消していた。




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