その15
◇◇◇◇◇◇ その15
「静は大丈夫か。」
ようやく目を覚ました静に晴信は声をかけた。
「まだ頭がちかちかしておりますが、大丈夫です。それより、何が起こったのでございましょうか。」
「私にもよくわからないがどうやらつつじケ崎まで一気に来てしまったらしい。」
「昨晩、そなたを抱き寄せたところまでは覚えている。」
「まあ、恥ずかしい。」
「その後、奇妙な物が頭の中を飛び回り、気が付いたのがさっきなのだ。」
「とにかく私はここにいないことになっているのだからどこかに姿を隠さなくてはならぬ。」
「静が居なくなったことに気がつくと、諏訪の父が案じるやもしれませぬ。」
静はちょっと心配らしかった。
「でもじゃじゃ馬の静の事、またどこぞをほっつき歩いていると思ってくれることでしょう。」
「お館様、静様、これに着替えて荷車にお乗り下さいませ。」
松蔵が差し出した着物は百姓が昨日まで着ていたらしいみすぼらしいものであった。
「うむ、そうさてもらう。」
晴信はすの場にすっくと立ちあがり、さっさと着替えを始めた。
静はさすがに恥ずかしいようであったが、
「失礼いたします。」
と言うと、くるっと晴信に背を向けて、祠の隅で身繕いを済ませた。
「今なら誰にも見つからずにここをでることが出来まする。」
二人は祠を出て松蔵が用意した荷車に乗り込んだ。
松蔵は
「ごめん。」
と言うと二人の上に草やごみを乗せ、くわや鎌を無造作に放り投げ、素早くむしろを被せ、ゆっくりと荷車を引き始めた。
「止まれ。」
館の不浄門で門番の足軽に呼び止められたが、松蔵の顔をちらっと見ると、
「なんだ。松蔵か。」
といっただけで通してしまった。
「お館様、もうしばらくの辛抱です。」
松蔵は荷車をごとごとと半時も引っ張っていた。静は晴信にしっかりと抱き寄せられたまま一言も話す事なく体をこわばらせていた。




