第49話:天へ
大変・・・本当に大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。こんなにも長い間放置しといて今更何をとお思いのことでしょうが、完結させずに終えるということだけは決してしません。よろしければ、またお付き合い下さいませ。第49話です。どうぞ。
「・・・静かだね・・・」
「ああ・・・静かだ・・・」
メディストルにとどめを刺しに行ったソラを見送ってからというもの、辺りは先程までの激闘が嘘のように、静まり返っていた。聞こえるものといえば、喋り声と、風がカサカサと木の葉を撫でる音くらいのものだ。
「終わったんじゃろ・・・これが嵐の前でなければな・・・ぐっ・・・!」
「無理に喋るなじいちゃ・・・くぅ・・・っ!」
「駄目だよ二人とも、大人しくしなきゃ・・・」
死に至るものでないとはいえ、セルビスもアルエも、重傷を負っていることに変わりはないのだ。
すると、ガサガサと一際大きく木の葉が揺れる音がした。
「!」
地上の茂みから聞こえたそれは、明らかに風の音じゃない。静けさは、一気に緊張感を伴うものに変わり、クレスは茂みを睨んで拳を握る。
セルビスとアルエは動くことすらままならないのだ。音の発信源がイビルの残党だとすれば、クレスが二人を守るしかない。
ガサガサ、ガサガサ・・・
茂みを掻き分ける音は段々と大きくなる。
近づいてくる。何者かが。
ガサガサ、ガサガサ・・・
そして――――
「い、一番死にかけとるんは・・・ワイや・・・!」
「・・・あ、ソラ、ヤマト・・・」
音の正体は、メディストルを倒してきたソラと、ぜえぜえと息も絶え絶えに、ソラの肩を借りつつフラフラと幽鬼の如く歩くヤマトだった。
「帰りに達磨になったイビルの山の側でぶっ倒れてんのを見つけてな・・・そいつら片付けてから戻ってきた」
ソラが苦笑を交えて説明した。
ヤマトは体のあちこちに付けられた傷自体は浅いものばかりだが、凄まじく疲弊していた。なんせ彼は、仲間達が分散されてからメディストルが倒れて増援が途絶えるまで、不殺の持久戦をずっと続けていたのだ。
その消耗度を前に、重傷を負っているセルビスとアルエも、何も言えなかった。
「そうだクレス、これ・・・」
「あっ・・・」
ソラがクレスに差し出したのは、光り輝く一枚の羽根・・・
「三枚目の、『天地神明の翼』・・・」
「残りは一枚、か・・・」
「いずれにしろ、まずは森から出よう。二人も医者に診てもらわねーと・・・」
「そうだね」
・・・・・・・・・・・・
それからソラ達はセルビスとアルエを背負い、森を抜けた先にある町を目指した。周囲の小さな町や村はメディストルとその軍勢によってあらかた破壊されており、一行はかなりの距離を歩かなければならなかった。
しかし、幸いにもすでにセルビスとアルエは命の危機を乗り越えた後であり、大きな問題に遭うことなく、またイビルにも出会わず、数日をかけてレビタよりも大きな町、『ジェネウィス』に辿り着いた。世界の中心と言われる町である。
古くからあらゆる地方からの商人や旅人がこの地を行き交い、多種多様な文化と情報が交わり栄えていることに由来している。
一行はすぐにこの町の病院を訪ね、セルビスとアルエを診てもらった。
「当分は安静・・・まあ当然じゃがな」
「命に別状がないのが幸いだ・・・」
並べられたベッドに横たわる二人を囲むように、ソラ達は今後の行動を話し合っていた。
とは言うものの・・・
「いずれにしろ、二人が回復せんことにはどうしようもあらへんわなあ」
「とりあえずは、この町を拠点にするってことだね」
ヤマト、クレスの言う通り、セルビスとアルエが回復しない限りこの町から離れるわけにはいかない。命の危機はないとはいえ二人は重傷であり、動けるようになるまではかなりの時間を要する。その間は、動けるソラ、クレス、ヤマトも、宿をとり休息することが主軸となるだろう。
「イビルがこの町を攻めてくるかも分からないからな。俺達は警戒しつつ、休むとするよ」
「うむ、そうじゃな・・・つぅ・・・」
「じいちゃ・・・くっ」
「あーあー。もうお前らは休んどき・・・」
―――――――――――――
クレス・・・クレス・・・
この声は・・・
天へと至る道を探せ・・・
え・・・?
最後の羽根は、天上に・・・
天、上・・・!?
それってまさか・・・!
アッパースカイに・・・!?
――――――――――――
「夢の啓示か・・・」
ジェネウィスで一晩を明かし、再び病室で話し合う一行。内容は、クレスが見た夢についてだ。しかし、その啓示はこれまでで最も難関な内容だ。
「でも、どうやって登るんだ・・・?」
「いやいや、クレスが居るやんか!なあクレス、最初こっちに降りるとき、なんか道みたいなん辿って来たんちゃうんか?」
「・・・私、落ちてきたから・・・」
ヤマトの楽観と余裕の笑みは一瞬にして崩れ去った。
「天に登る、か・・・こうなると、伝説や神話に頼ってみるかのう・・・」
「「「えっ?」」」
セルビスは全身が傷ついている以上、顔を動かすことも苦痛なのだろう。
「古来より地上の人々は天への憧れを持っていた・・・その思いは、神話として残されているやもしれん」
「せやけど、神話なんて所詮作り物やんか。そんなもんが手がかりになるんか?」
「神話などの中には、実際に起きたことを元に作られた話も多いのじゃよ。或いは、神秘を思わせる何かから・・・海底都市のれ例もあるじゃろ」
「なるほど・・・闇雲に歩き回るより良いかもな」
「幸い、ここは神話に彩られた、世界の始まりと言われた地じゃ。そういう伝説を探すにはもってこいじゃろうて」
「私達の傷が癒えるのにも時間がかかりそうだしな」
今後の方針が決まった。アルエとセルビスの療養の間、動けるソラ、ヤマト、クレスの三人が、アッパースカイへ登るための手立てを探すことになった。
「医者の見立てじゃ、二人とも動けるようになるまで二週間ちょっとくらい・・・だったな」
「つまり、アッパースカイへの道をそれまでに見つける、いうことやな」
「時間があるようで、ないよ・・・地上には私達の文化が全く伝わってないみたいだから・・・」
「・・・地上には、直接的な記録が残されていないってことか・・・」
一からしらみ潰しに探すとなると、どれだけ時間がかかるか見当もつかない。それに、イビルの進行も気がかりだ。
セルビスが、「ならば」と口を開いた。
「ならばクレスよ、お前はアッパースカイに伝わる地上との関係の説をまとめるのじゃ。そして、地上におけるアッパースカイ・・・というより『天』にまつわる伝説と照らし合わせる形で、地上とアッパースカイの繋がりを見出だせば、手がかりが掴めるやもしれん」
「そっか・・・それなら少しは短縮出来るかも」
「ああ!セルビス、アルエ、俺達はすぐに取りかかるよ。またちょいちょい顔出すから」
「うむ」
「無理はするなよ・・・って、私達が言えたことではないか」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「私は早速宿に戻って伝承のまとめを始めるね」
「ほな、ワイらは図書館やな。町の中央にデカいところがあったはずや」
「よし・・・ああそうだクレス、一応ポータブルサンは溜めとこうか」
病院から出て、ソラがクレスのポータブルサンを最大まで溜めると、クレスは宿へ、ソラとヤマトは図書館を探してそれぞれ歩き出す。天へと至る道、その手がかりを探すため・・・。
「しっかし、なんやなぁ・・・ちょいと想像しづらいなぁ」
「どうした、ヤマト?」
「んー、これまでもイビルっちゅう化け物や海底都市なんかを目の当たりにしたワケやし、今更クレスを疑う気なんかないんやけどな・・・なんちゅーか、天の上なんて流石にスケールがデカ過ぎるゆうか・・・」
旅に着いてきて、生きるために戦い抜いてこそきたものの、冷静に考えれば、非現実的な体験の連続だった。これからも、そうなるのだろう・・・。
未知の領域に飛び込むことは、不安でしかない。ヤマトは、その不安を吐露しているのだ。
「・・・まぁな、正直、俺もたまについてけない時がある。クレスに出会ってから、想像も出来ねぇことばかり起こってよ。俺の太陽の力についてだって、俺自身よく分かってねーし」
始まりは、下界に落ちたクレスがイビルに襲われるのをソラが助けたことだった。それから様々な戦い、出会い、そして喪失を経験してきた。
しかし、それでもこれまで戦ってきた。その道のりは平坦ではなかったが、それ故に、歩いてきた、そしてこれからも歩いていく道と言えるのだ。
「・・・今更投げ出す気なんざねーさ。ここで本を調べれば、俺の力のことだって分かるかもしれねーしな」
「・・・せやな。ワイも最後まで付き合ったるわ」
譲る気も、投げ出す気もない。地上という自分達の居場所のため、そしてクレスという友のため、最後まで戦うまでだ。
「ああクソッ、まいったな・・・」
「ん?」
苛立ったような声がふと耳に入り、ソラは足を止めた。声の方を振り向くと、作務衣のような服装の、無精髭を蓄えた中年男性が、その場に並べられた刀剣類を前に頭を抱えている。どうやらここは鍛冶屋のようだ。
「こんなもん二日で終えられるワケねーだろーが・・・!」
「・・・・・・」
ソラの目が、刀剣類を睨む。そしてその目を反らさないまま、ヤマトにぼそりと呟く。
「伝承探しは頼むぜ」
「ソラお前、まさか・・・」
「・・・稼げるチャンスだ」
本業は鍛冶師であるソラ。ここのところ激化していく戦いで医療費や滞在費が嵩むようになり、懐が不安になってきていたところだ。ソラは臨時収入狙いで鍛冶師に声をかける。
「・・・しゃあないな、いこか・・・」
ヤマトは一人で図書館の方へと足を踏み出す・・・。
「結局、あの黒い化け物何なんだろうな?」
「・・・ん?」
聞き覚えのあるフレーズに、ヤマトは振り返った。三人の男が椅子に座り、話している。男達は皆、屈強な体つきをしており、おそらく、かつてヤマトの所属していたタイタンの軍のような私兵団だろう。
「ああ、あいつらか・・・」
「なんかよぉ、一時期世界中広がってたのが、このところ勢い弱まったらしいぞ」
「ああ・・・ようやっと俺らも少しは休めるってとこだな」
「ちと・・・ええか?」
「ん?何だお前?」
「今の話・・・詳しく知りたいねんけどな・・・」