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第44話:長期戦

今年4月から社会人となり、戸惑いながら働き続けてはや3ヶ月……


……すみませんでした……


第44話です。どうぞ。




森の中を、所狭しと駆け回る黒い影があった。その数は九、十体ほど。既に日が上りきった正午だというのに、その姿は、まるで太陽の光を吸収しているかのようにひたすら黒く映ったままだ。


否、彼らは体色そのものが黒かったのだ。地を跳ねるように進み木々を飛び回る様子はまるで猿のようだが、猿にしては肥大化した耳を持ち、何かを探すようにきょろきょろと頭を振る様は獣のようだ。



「どこに隠れやがったぁ〜〜?」

「メディストル様はこの森の中にいるとふんでいたがなぁ」



さらには、人間のような知性をも持っているらしい。


しかし、彼らは人間でも動物でもない。異形のものだった。




「ウワッ!?」




影の一つが、突如悲鳴を上げて姿を消した。他の影も、悲鳴に反応し足を止める。


悲鳴の上がった方を見やれば、ちょうど人が一人入るほどの大きさの穴がぽっかりと空いており、穴からはうう……といううめき声が聞こえてきた。



「落とし穴……?何かいやがるのか!」



その穴は人工的に張られた罠としか思えない。必ず掘った者がいるだろうと、影達は警戒を強め、様子を伺う。






「今じゃ!」






その声は、影達の頭上から響いた。



「「オラアアァ!!」」

「「はあぁっ!!」」


「えっ……グハッ!!」

「ギャウッ!?」

「グアッ!!」



気合いと共に木の上から飛び出したのはソラ、クレス、ヤマト、アルエだ。彼ら四人によって、影達……イビル達は次々と金の粒子となって消滅させられていった。


「ヤベェ……ギャッ!?」


四人が倒し損ね、逃走を図ったイビルも、飛び出さず潜んでいたセルビスの矢により倒れた。






――――――――――――



「ふぅ……今までで何体だ……?」

「確か昨日が23体で一昨日が17体……今ので10体だからちょうど50体かな?」

「まだまだ先は長そうやな……」



メディストル率いる大軍勢に対し、ソラ達はその戦力を削るべく、ゲリラ戦を展開していた。森に入ってから、既に三日が経過している。


敵はソラ達の捜索のために、軍を分散させて動いているらしく、ソラ達はそこを狙い、奇襲をかけて敵の数を減らしていた。


しかし、その戦法で削ることが出来るのは何十、何百分の一。まさに焼け石に水だった。石を冷やしきるのにどれくらいかかることやら……。



「!」



ふと、アルエが何かに気づく。


「……おい、次の部隊が来ているらしいぞ!」

「なに!?」


当然だが、森の中は草木や落ち葉の宝庫。それゆえに急いで動いている者の存在は足音で簡単に判断出来る。


「今度は数が多い……20体ほどだぞ、どうする?」

「ふむ……すぐに木に上るのじゃ!やり過ごそう」


セルビスの指示の下、五人はそれぞれ近くにあった木に上り、じっと息を潜める。

やがてアルエの予測通り、20体前後のイビルの団体が木の下を駆け抜けていった。幸いこちらには気づかなかったようだ。



「よし……すぐに移動するぞ、一ヶ所に留まってはならん」



五人は、すぐにその場を離れた。





―――――――――――



「ぬぬぅ……どうなっておるのじゃ……!」



同じ森の、ソラ達のいる地点からかなり離れた所に、黒い集団による陣が組まれている。その中心に座するメディストルは、自分思うように事が運ばないことに苛立っていた。


ソラ達の拠点となりうる町や村を焼き払うことで、彼らを森の中に誘導したまではよかったのだが、肝心のターゲットが見つからない。それどころか、派遣した捜索隊が戻ってこない。この停滞状況に、メディストルは痺れを切らし始めていた。


「まさか既に森から脱出を……?」

「それはないかと」

「何?どういう意味じゃ、『アイアクロス』」


横から口を挟み、『アイアクロス』と呼ばれたのは、メディストルの傍らに控えていた、あの騎士のマスターイビルである。



「この森には既に死角なく包囲網を敷いています。つまりヤツらがこの森から出ようとすれば、何かしらの報告があるはず……それがないということは、ヤツらは森のどこかで息を潜めているのでしょう。おそらく被害を抑えるために……。


さらに言えば、捜索隊が戻ってこないことを考慮すると、ヤツらに倒された……それも、少数で動いている部隊を狙われて、です」


「と、いうことは奴らの狙いは……」

「安全を確保しつつこちらの戦力を徐々に削ぐこと……いわゆるゲリラ戦でしょう」

「ぬうぅ……厄介な……!」






敵の狙いが分かっても、隠れることを主軸に置かれては見つけづらい。かといって捜索部隊を広範囲に送れば送るほど、部隊の密度は縮小し、そうなれば敵の思うつぼである。以前竹林で使った輪を縮める策も、枝を渡られてしまえば逃げられてしまう。



「おのれぇ……ワシを苛々させおって……!」

「……部隊の数を減らすことになりますが、人数を増やし、それぞれの捜索範囲を拡大させます」


ソラ達とイビル達、両軍互いに逸る気持ちを抑えて行動する。痺れを切らした方が隙を見せることになるからだ。


だが……




「………!」



何かが詰まって動きが止まったかのような歯痒さに染まっていたメディストルの表情に、ふと勢いが戻り、やがてその口角がニヤリと吊り上がる……。




「……何か思いついたのですね?」

「フェッフェッフェッ……」




木々のざわめきに溶け込むかのようなメディストルの不気味な笑みは、均衡の崩壊への序曲だろうか……



―――――――――――



「ぎえっ!?」

「ぐばふっ!」



下半身が地に埋まり、身動きがとれないままのイビル達が悲鳴を上げ、粒子と化した。




ゲリラ戦に突入してからおよそ一週間が経過。

捜索部隊の部隊数は少なくなったものの、部隊ごとのイビルの数は増している。にも関わらず、ソラ達は順調にイビル達を殲滅していく。





「ここ数日で敵の密度が上がっとる……連中、こちらの狙いに気付いたようじゃな」

「ま、それも予測の範疇やったけどな」

「じいちゃんの、な」


ソラ達には、軽口を交わせるくらいにまだ余裕があった。

敵からすれば少しずつではあるが、部隊は確実に減っている。こちらの意図が敵に気づかれるであろうことは予測出来ていた。

さらに、部隊ごとの人数を増やすという敵の対策も予測したセルビスの提案によって、それまでの奇襲戦法から罠を駆使した戦い方に切り替えたのだ。先の下半身が埋まったイビル達は、ソラ達が作った落とし穴に引っかかったのである。


「このペースなら、あと2、3日くらいで全滅出来るんじゃないか?」

「ソラ、楽観視してはならんぞ……楽観視は油断に繋がる。逸る気持ちも分からんではないが、痺れを切らせば負けじゃ」

「む……」


セルビスの鋭い指摘に、ソラはぐうの音も出なくなる。長期戦にもつれ込んだこのゲリラ戦、焦って敵地に飛び込めば、まさに飛んで火に入る夏の虫。目に見えて敵の動きがなくなったその時こそ、動く時なのだ。


「……なぁー、そろそろ昼メシにせぇへんか?焦るのも逸るのも腹減っとるからやろ」

「そうじゃな……とりあえず川を探すとしようかの」


長期戦を迎えるにあたり、森の中に川が幾つかあるのは幸いだった。川は水や魚などを確保出来る貴重な場所である。更に、幾つかあることで水源に張り込まれるという最悪の事態も免れた。

ソラ達はすぐに川を発見、周りにイビルの気配がないことを確認すると、そこで魚を捕らえ(セルビスが矢で的確に射抜いた)、火を起こして食事を始めた。





「そろそろ新しく罠を増設せえへんとなぁ」


焼き魚を頬張りながらヤマトはそう漏らした。

罠を用いた戦法は、当然ながら罠を作る必要がある。罠を作るには時間がかかるため、敵の位置を把握してから用意することは出来ない。

そのため、予め幾つもの罠を設置しておくことで対応していたのだが、先程倒したイビル達で、そのほとんどを使いきってしまったのだ。


「ふむ、そうじゃのう……じゃが材料から集めねば、のう」

「となると……今日、明日くらいは材料集めと罠作りに集中、か?」


セルビス、ソラが続いて発言し、昼食後の方針が決定する。ならば、と役割を分担しようとした矢先……



「ん?」



セルビスが、川と反対方向の茂みの方を向く。何かの気配を察したらしい。それを不審に思った四人が耳を澄ませると、微かにカサカサと遠くで木々が揺れる音が聞こえてきた。


音が近づいてくる。しかも速い。つまり、何かがこちらに向かって走ってきているということだ。数は三、いや四人ほど。ソラ達は魚を捨てて立ち上がり、火に石を被せて消し、各々の武器の柄に手をかける。仮にイビルだとしても三、四体なら問題ないと判断し、迎撃の体勢をとったのだ。







「きゃあっ!!」




何者かが飛び出してくるより前に、その方向から悲鳴が聞こえてきた。若い女性の声だ。イビルではない。

聞いたことのない声に五人が一瞬面食らう。その間に、その声の主であろう人物が茂みから飛び出してきた。




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