33【エドワルド視点】
【エドワルド視点】
メイドたちにミリアリア様を任せて、父親へ報告へ行く。
「父上、今回の犯人のケント・ブルー公爵子息はまだ森に残しています」
「そうか。では、回収しに行ってくるか。だいたいどの辺だ」
「……別にいいのでは? 自業自得ですし助かったとしても死罪でしょう」
「人の肉の味を覚えた魔物が今以上に町を襲っても困るだろ。助けるために行くのではない、領民の被害を少なくするためにいくんだ」
父の言うことも最もだが、ミリアリア様を誘拐して殺そうとしたやつを、うちの騎士がわざわざ危険な目にあいながら回収しにいくのが解せない。
「言い忘れておりましたが、魔寄せ液をあれの下半身にかけて来たので、無事かどうかは怪しいです」
父とそれを聞いていた周りの騎士たちは、一瞬下半身に力を込めたのが分かった。
でもすぐに、まぁ、うん、自業自得だ、うんうん。と頷いている。
「行ってみて生きていれば連れ帰るし、ダメだった場合はせめて犯人の死体はないとブルー公爵家に『本当にうちの息子か分からないではないか』なんて言い逃れされないためにも回収しに行くさ」
「そう、ですか」
「色々思うところはあるんだろうが、少し落ち着け。ブルー公爵家にはきっちりと落とし前をつけてもらわないとな。我が家の未来の嫁に手を出したこと、後悔させなければ」
父は比較的冷静に見え、さすが部隊を指揮するものは違うと思っていたが、しっかりキレていたらしい。
周りのエイガ公爵家の騎士たちも、俺達の顔を見て悲鳴もあげず、笑顔を向けてくれる天使みたいなミリアリア様になんてことしやがると憤っている。
そんな様子を見て、自分も徐々に落ち着いてきた。
ミリアリア様の捜索隊として集められていた騎士は、あの誘拐犯を回収しに行く事になり不満をブツブツ言いながら、俺が教えた痕跡を辿ろうとした矢先、いきなり床に魔法陣が展開され、それと同時に王家の方々が転移してきた。
一瞬の出来事で、みな呆気に取られる。
「ミリー! ミリーはどこだ!」
陛下に王妃様にアルと、心配で仕方がないといった様子で半狂乱だ。
使用人たちはいきなりの王族の登場にどうすればいいのかとオロオロしていると、父が「連絡もなく、勝手に我が家に転移するものがあるかーー!」と、陛下を叱って一気にみんな正気に戻った。
「す、すまない。ミリーが心配なあまり……」
「ごめんなさい、エイガ公爵」
「失礼な行いをして申し訳ありません」
たとえ王族といえども、人の家に知らせもなく勝手に転移してきたのだ、三人とも申し訳無さそうに三者三様の謝罪をする。
そんな三人にミリアリア様は無事で、今は汚れを落としてもらうために風呂場にいることを告げる。
「良かった、無事だったと知らせは来たんだが、いてもたってもいられず慌てて来てしまった」
「気持ちは分かるが、お前、今日は大事な来客があるはずじゃなかったか」
「あぁ、まぁ」
なんて、目線を何処かへやりながら返事をする陛下。
そんな会話をしながら、ミリアリア様が怪我もなく無事だと聞いて落ち着いてきた三人を部屋へ案内する。
正気に戻った使用人たちも、テキパキと準備をして王族をもてなしている。
俺は、自分の知る範囲でどういう状況で助けたのか伝えると、陛下たちに何度も何度も頭を下げられて感謝された。
「ありがとう、エドワルドくん。君のおかげだ」
「いえ……リックも一緒に来てくれたのが大きかったです。彼は魔物と対峙するのは初めてなのに、自分で私と森に行くことを志願し、更には私とミリアリア様に襲いかかってきた魔物を倒してくれました。とても助かりました」
きっとミリアリア様はご自分の騎士がどうしようもなかったことで罰をもらうのは悲しむだろうから、リックのことを少しでも良いように伝える。
そうこうしていると、お風呂から上がって綺麗になったミリアリア様が部屋に入ってきた。
三人ともミリアリア様の無事をその目で見て、やっと安心したのだろう。王妃様は涙ぐんでいらっしゃったし、良かった良かったと三人に抱きしめられているミリアリア様を見て、本当に無事に助けられてよかったと思った。
陛下に褒美を与えるから期待しててくれと言われたが、俺は王女だから助けに行ったのではなく、ただ好きな人を助けにいっただけだ。だから、自分の婚約者を助けるのは当然だという事を言えば、ミリアリア様は感激しているようだった。
なんだか、気恥ずかしい。
そう、俺は間違いなくミリアリア様のことが好きなのだ。今まで、この国の王女だから、親友の妹だから、敬愛の気持ちなのだと自分に言い聞かせていたが、ミリアリア様に対するこの気持ちは恋なのだと自覚した。ミリアリア様を失うかもしれないとなってからやっと気づくなんて……
今までの俺の態度をきちんと謝罪して、俺の気持ちもちゃんと伝えよう。そう決意する。
ミリアリア様が王族の方々をなだめて城に帰した後、俺は話しをするためにミリアリア様を庭に案内した。
庭のベンチに座るように促す。
アリサ嬢にどんな事を言われたのかを話し、今までの俺の行いを謝罪した。
ミリアリア様の真剣な想いをなぜ信じられなかったのだろう。後悔ばかりだ。
ミリアリア様からはそんな昔から好きだったと知って、気持ち悪くないかと聞かれたが、一途に俺のことを想ってくれていたなんて嬉しいと思いこそすれ、気持ち悪いなんて思うわけがない。
俺は跪いて改めて自分からプロポーズをしたら、ミリアリア様がおもむろにご自分の頬をつねられた。
まずい、俺の想いが先走って花束などの準備はしていない。女性はこういう特別な時には、花束や宝飾品をプレゼントされたいらしいから、ミリアリア様もそういうのに憧れていたかもしれない。
「ど、どうされました? やはり、プロポーズするなら花束や宝飾品がなければ嫌でしたか?」
「花束や宝飾品がなくても嬉しいに決まってるじゃないですかー」
不安になり情けなくもミリアリア様に直接プレゼントがあったほうがいいか聞いてしまったが、そんなものなくても嬉しいと抱きついてこられた。
驚いたもののしっかり抱きとめる。
嬉しいがまさか自分が女性と抱き合う日が来るとはと考えると、少し照れるな。
頬に何かあたった気がする。それがミリアリア様の唇だと一瞬分からなかった。
認識した途端、自分の顔が真っ赤になるのが分かった。抱き合って照れるどころではない。
無様にも固まってしまった。
「うふふ。もしエドワルド様が今度遠慮をして、私との婚約を解消しようとしたら、お父様に私の初めてをエドワルド様に貰っていただきましたって言っちゃいますからね」
ふふふ、と冗談混じりに言うミリアリア様が可愛い。可愛いがそれを陛下に言われてしまったらとんでもないことになる。我に返り絶対にありませんから、陛下に言ってはいけませんよと鼻をつついてしまった。
いったい俺は何をしてるんだ! こういうのは顔が整っている男がするもんだ! 心のなかでは恥ずかしさでのたうち回っていたが、ミリアリア様が嬉しそうだったので良しとした。
後に、これを覗き見していた使用人たちからは何度もからかわれたのは言うまでもない。
あまい雰囲気に包まれていて、なんだか背中がこそばゆくなってきたときにミリアリア様が焦りだした。
あの誘拐犯を拘束したまま置き去りにしてしまったことの心配をしているらしい。
「あれなら一応、公爵家の騎士に回収してくるように言っておきました」
「見つかりましたか? ご無事でしたか?」
「……生きてはいましたよ」
嘘は言っていない。
王家の方々がいらしてバタバタとしたが、すぐにあれを回収しに騎士たちが森に行ったところ、俺が伝えた場所にそのままいたらしく、すぐに見つけたらしい。
魔寄せ液を下半身にかけておいたおかげで、男の象徴が魔物に食われてしまっていて、泣き叫んではいたが生きてはいた。うん。
あれでは女遊びしていたやつには生きてるほうがつらいだろう。
まぁ、それはわざわざ言わなくてもいいだろう。
安心した様子のミリアリア様の表情を見て正直面白くない。あんな犯罪者のことを心配するなんて。
「あれが生きていて良かったですか?」
不機嫌な態度が出てしまって、しまったと思った。今のは拗ねているみたいに聞こえたかもしれない。これでは子どもみたいだ。
「良かったと言われれば、そうですね。私、人殺しになってしまったかと心配になりまして……そのせいで、罪に問われてエドワルド様との婚約がなくなるかもしれないと不安になりました。人命よりも婚約を心配するなんて……幻滅しましたか?」
そんな心配をしていたのか。あっちが100%悪いんだから、正当防衛だし自業自得だ。幻滅なんてするはずがない。
「そんなことはありません。仮にあれが死んでいたとしても、拘束したことは正当防衛ですし、ミリアリア様に魔寄せ液を浴びせたせいで置き去りにされたのなら、あれの自業自得でミリアリア様が罪に問われることはなかったと思いますよ」
「そう……かしら」
むしろ、娘を持つ家はあれに男の象徴が無くなって安心しているかもしれない。
俺は噂には疎いが、父が『あれは色んな女に手を出して、隠し子もいるらしい。自分の娘が餌食にならずにすむから、他の家から感謝されるかもな!』と笑っていた。
ブルー公爵家も誘拐犯本人も、男として大事なものがなくなったなど言いたくないだろうから俺がとやかく言われもしないだろう。周りにバレたくないだろうしな。
「結局重い処罰が下されると思いますよ。ブルー公爵家にも陛下は黙っていないと思います。もちろん、我が家も黙っていません」
父は大分キレていたし、陛下はそれ以上だろう。ブルー公爵家は存続できないかもしれないな。
「ありがとうございます。安心いたしました」
ホッとした様子で、笑顔も見れた。やっぱりミリアリア様は笑顔が似合う。
心地よい風が吹いて、ミリアリア様のドレスが揺れた。
「そうだわ。シシリー夫人にお礼を言わないといけませんわね」
「母にですか?」
なぜ母に? 不思議に思い聞き返すと、今着ているドレスが母のものだと思ったらしい。確かに家には母以外にドレスを着るものはいないからそう考えるか。
母とドレスのサイズが一緒みたいでピッタリだったとニコニコと教えてくれたが、違うんです。それは、使用人たちが張り切りすぎて、ミリアリア様用のドレスを作ってしまったんです、なんて言いづらい。
でも普通に考えてミリアリア様と母が同じサイズなワケがない。すぐに分かることだ。万が一、元婚約者のリンダ嬢のものではないかと思われるくらいなら、事実を言うべきだろう。
ミリアリア様用のドレスだとちゃんと伝えると、なぜ自分用のドレスがあるのかと不思議そうに、きょとんとしたお顔で首を傾げている。くっ。きょとん顔も可愛い。
引かれるかもしれないと覚悟しながらも説明する。
「その……使用人たちが『ミリアリア様がいつ嫁いでこられても良いように今から準備をいたします』と言って聞かず、結婚はまだまだ先だというのに、部屋に置く家具の準備やドレスに靴と、既に色々と準備をしておりましたので」
なるほど、といった表情をされたのでそんなに引かれてはいないみたいだ。
「申し訳ありません。使用人たちに悪気はないのですが、怖いですよね……」
「いいえ! そんなことありません。私はこんなに歓迎されているのだと嬉しく思います」
良かった。最初、家令にいかに嫁いでくる女性は不安な気持ちを抱えているかと説明されて準備を始められたときはどうしたものかと思ったが、案外、家令の言う通りだったのか。
自分は男で家を継ぐ立場だから、嫁ぐ側というのはそんなに不安なものなんだと改めて思った。
俺もちゃんと気にかけておこう。
「今日はこのあとどうされますか? アリサ嬢やミリアリア様の侍女にはミリアリア様が無事だと連絡を頼みましたが、すぐに学園の寮に戻られますか? 私としては念の為に今日はこのまま我が家に泊まっていっていただければと思います。もちろん、変な意味ではありません!」
「ふふっ。もちろん、分かってますわ。そう、ですね。思っていた以上にちょっと疲れてしまったみたい。お言葉に甘えて、今日はこちらで休ませてください」
なんてことだ。ミリアリア様に自分の想いを告げて、プロポーズもできて調子に乗っていた。
ミリアリア様が疲れていることに気づかないなんて婚約者失格ではないか。
「それは大変だ! すぐにお部屋の支度をするように言ってきます」
慌てて使用人にミリアリア様用の部屋の支度を頼みに行く。いつ嫁いできてもいいようにと準備していたお陰で、ある程度のものは揃っているはずだ。まさか、こんなに早くあの部屋を使うことになるとは思いもしなかった。
備えあれば憂い無しとはこういうことか?




