30【エドワルド視点】
転移魔法を使って到着した先は薄暗い森だった。
この気配に、この匂い、間違いなくうちの領地の魔物の森だ。
アリサ嬢の予想通りでひとまず安心する。今回の転移魔法は、学園に残された僅かな転移魔法の跡を頼りに魔物の森のどこかへ転移するように発動した魔法だ。本来なら、こんな危ない方法なんて使わない。
転移魔法は、いつ、誰が、どこから、どこへ、詳細に決めて、ようやく転移魔法をかける。そうじゃないと、まったく知らない場所へ飛ばされることもあるからだ。
今回は急を要していたからこんな危ない転移になったが、上手く行って良かった。
ここに、ミリアリア様は連れてこられたのだ。
きっと怖がっていることだろう、早く見つけなければ。
転移魔法の魔力の痕跡を辿ってきたのだ、恐らく近くにいるはずだ。
近くをリックと探索すれば、数m先で何かが動いたのが分かった。
すぐに駆けつけたかったが、魔物の可能性もある。慎重にそこへ行けば、魔法で拘束されたケント・ブルーがモゾモゾとのたうち回っていた。
こちらに気づいたのだろう『良かった。助けが来たんだな。さっさと助けろ』なんて言いやがった
自分でこんな事をしでかして、ミリアリア様を危険な目に合わせたくせに、どの口が言っているんだ。
殺気が収まらず、魔力が暴走気味になってしまいバチバチと空気中に火花が散る。
あまりの殺気に、ここにいるのが俺だとやっと気づいたやつはヒッと悲鳴を上げた。
「エドワルド様、ここはまずミリアリア様の行方を一番に考えませんと」
そうだ、ここでやつに構っている暇はない。
「ミリアリア様はどこだ」
ダラダラと冷や汗をかき、左右にキョロキョロ目玉を動かしながら「し、知らない。あいつは俺と心中するのが怖くなって、俺に拘束魔法をかけて自分だけ逃げやがったんだ」と、よくもまぁそんな嘘をつける。
「いいからさっさとこの拘束を解けよ。魔寄せ液を体中につけたあの女はもう助からない。僕だけでも助けろ!」
当初の予定では心中に見せかけてミリアリアと一緒に死のうと思っていたケントは、いざ自分が死ぬとなったら怖気づいた。しかも、ミリアリアはこの場にいなく、助かる確率も低い。ときたら、死人に口なし。全てミリアリアのせいにしてここは自分が助かるために、嫌っていたエドワルドにも助けを乞うた。
エドワルドは思わず、ケントの頭を鷲掴みにして地面に押し付けた。
「いいから、ミリアリア様はどっちへ行った。今、ここで命を落とすか? ミリアリア様が無事ならここから一緒に連れて行ってやらんこともない」
めりめりと地面に顔を押しつけられる力がものすごくて、命の危険を感じたのか「あ、あっちに行った」と指差した。
そうか、と声をかけポケットから瓶を取り出す。蓋を開け、ケントの下半身あたりに瓶の中身をぶちまけた。
何をかけやがった、と言った瞬間に匂いで気づいたのだろう。顔を青ざめさせる。
「どんな液体かは、さっき嗅いだはずの匂いで気づいているだろ。上半身には結界魔法をかけといてやる。運が良ければ、五体満足で無事に助かるかもな」
「話しが違う!」
「助けるとは言ってない」
瞬間、悲鳴が辺りに響き渡った。
「ミリアリア様!」
俺は脇目も振らず走り出した。
悲鳴の聞こえた方に、ひたすら走っていくとヘビ型の魔物に追われているミリアリア様を見つけた。
もうすぐで追いつくとなった瞬間、ミリアリア様が木の根に足を取られて転んでしまった。
危ない!
慣れた手順でヘビの頭部目掛けて、雷の魔法を放つ。魔法は命中して、ズドンと倒れた。
「ミリアリア様! ご無事ですか?!」
「ど、どうしてエドワルド様がここに?」
俺がここにいることに驚いているんだろう。驚いた顔もまた可愛い。
「たまたま学園に行く用事がありまして、そこでミリアリア様が攫われたとお聞きして助けに参りました」
「そ、そうだったんですね。でも攫われたのがよくここだとお分かりになりましたね」
「偽の遺書を見たアリサ嬢が思いついてくれたおかげです」
「あの、よくあれが偽物だと分かりましたね」
最初はあれが本物だと思ってしまった為、バツが悪い。正直に話すべきか悩む。えぇ、あの、まぁ、なんて濁した言葉を使って、これでは男らしくないと思い、正直に話す。
「正直に申し上げますと、私は最初あれは本物なのだと思いました。しかし、アリサ嬢にミリアリア様がいかに私との婚約を喜んでいたか教えていただきまして、あれは偽物だと確信いたしました」
アリサ嬢が何を言ったのか気になっているのだろう。少し焦った様子のミリアリア様だが、疑問を口にされた。
「でも、ここまでの転移魔法にはあの男の魔力では無理だと思わなかったのですか?」
「それについては」
恐らく、補助魔法具を使ったのだと思う事を伝えようとしたところ、ヘビが倒れたことをこれ幸いと今度はイノシシ型の魔物が近づいてきた。
あれは、肉も美味いからな、絶対に倒して持って帰ろう。
あの個体の魔法石は前足にありそうだ。取り敢えず胴を真っ二つにするのがいいかと今度は剣を抜こうとしたら、誰かがイノシシの右の前足を切断した。バランスを崩したイノシシはドッシャーンと横に倒れ、そのまま胴を真っ二つに切られて絶命した。
これは、なかなかいい腕をしてる。誰だ? そこでようやく、リックを置いてきてしまったことに気づく。無事で良かった。
「お二人共、ご無事ですか」
「ああ、助かった」
「ご謙遜を。俺が動かなくても、エドワルド様なら瞬殺でしたでしょうに」
「君は魔物に相対するのは初めてなのに、倒せるなんて筋が良いな。正直、ミリアリア様の悲鳴を聞いて、君をその場に置いて行ってしまって心配だったが、その必要はなかったな」
「恐縮です」
初めてで、この手際の良さ。うちの人材に欲しいなと考えてしまう。
こんなに立て続けに魔物が現れて、ミリアリア様は平気だろうかと見れば、腰を抜かしてしまった様子。
「ごめんなさい。腰が抜けてしまったみたいで立てないの」
うん、そんな姿もやはり可愛い。アリサ嬢の話しをきいてから、今まで以上にミリアリア様が可愛く見えて仕方がない。
「安全な場所に移動するので、もう少し我慢してください」
腰を抜かして動けないミリアリア様をいわゆるお姫様抱っこをしてしまったが、大丈夫だよな? 婚約者なんだし、人命救助のためなんだし。
やましい気持ちなんてないと、自分を納得させる。
それにしても、ずいぶん軽いな。心配になる。ここは早く安全な場所にいかなければ。
リックに腕を掴むように合図をすると、公爵邸へ飛んだ。
公爵邸へつくと、父上が戦いの装備を整えていた。
「エド! 良かった、ミリアリア様もご一緒だな。ミリアリア様が攫われたと報告を受けて、今ちょうど騎士たちを連れて森へ行くところだったんだ」
捜索隊の準備をしていて、今まさに向かおうとしていたところみたいだった。
「湯浴みの用意をお願いいたします。ミリアリア様はこのままでは気持ち悪いでしょうから」
詳しい説明は後だ。お怪我をされているかもしれないし、魔寄せ液の匂いは気持ち悪いだろう。
「あ、あの私臭いですよね。もう、大丈夫ですからおろしてください」
「いえ、気づいていないだけでお怪我をされてるかもしれません。私がこのままお連れいたします」
確かに魔寄せ液の匂いはするが、ミリアリア様なら全然気にならない。不思議だ。あんなに強烈な匂いのはずなのに。
風呂場に連れて行き、メイドに引き渡す。その前に「後でお話ししたいのですが大丈夫ですか?」と聞く。
アリサ嬢が言っていたことが本当なのか。
それなら、俺はミリアリア様に今まで失礼なことを言っていたんじゃないだろうか。謝罪をしなければ。




