プロローグ 異世界からの使者
「現在、起きている東海道五十三次殺人事件、駿河湾沖深海災害事件、湘南の大嵐事件などなど地球と呼ばれる異世界で起こっている事件。起こしたのには、こちらの世界の犯罪者が関わっているとされている」
「じゃあ、その犯人を捕まえるのが私達の使命って訳なのですね」
内密に呼び出された異世界の女性捜査官は月明かりに照らされた青い髪をなびかせる。
上司は顔が隠れたままの状態でこくりと頷いた。
「ああ……ただ、これに関してなんだが」
「私が強力な魔法を使ってぶっ飛ばしてやりますよ!」
意気込む彼女なのだが。上司は少々言いにくそうに頬を掻いてから。
「いや、それなんだが。公に魔法は使わないでほしい」
「えっ?」
「異世界の方では魔法は使わずに物理的に事件が起こったとされている」
「……えっ? 災害なのに? 大嵐なのに?」
「ああ。犯人は人間を操ってはいるらしいが、決してそれ以外の魔法は使っていないとされているよ。全て人間の手で行われている」
目が点になる彼女は首をぶるぶると横に振って。
本当に人間が嵐を起こせるものなのか、災害が人力で起こせるものなのかと何度も頭の中で反芻する。
災害は魔法の得意分野。魔術師でもない人間が論理と知恵だけで起きているのだろうか。
困惑して首を傾げる彼女に上司は続けて伝えていく。
「人間世界ではアリバイも密室も全て論理的に行われている。下手なことを言ってこの異世界の存在を気付かせたら、世界はパニックになる」
慌てた彼女は目の前にあった机を叩き、汗をだらだら。冷たい風が強く吹く中で寄生に似た喚き声を上げる。これが内密な話だということも忘れて。
「アリバイって瞬間移動でさっさと現場から逃走する魔法の総称じゃないんですかっ!? 密室って、被害者がいた部屋に魔法で氷の壁を作って被害者の発見を遅らせるものなんじゃないですか?」
「いや、犯人はアリバイや密室を作って、まんまと自分が犯人ではないと証明しようとしているらしい」
全く違う犯罪の文化に絶句する女性捜査官。大丈夫かと不安になる。
「っていうか、その話は先日渡した資料に送ったはずだが」
「えっ? これを人に見せるんじゃないぞって言われたので全部シュレッダー魔法で切り刻んでおきましたが?」
「馬鹿野郎。読めと言ったんだ」
えへっと舌を出す少女。実はまだ十七とこの世界では成人となりたての彼女。上司は呆れて言葉も出ず、顔を下に向けていく。
そこに問い掛けをする彼女。
「で……異世界ですよね。異世界の文化とか、常識なんて分かるのかなぁって」
「そう思って、だな。一人同い年位の学生とタッグを組んでもらおうと画策している」
学生と聞いて、顔をしかめる彼女。
「学生?」
「一般の学生ではないから心配するな。犯罪捜査について心得のある学生探偵とも呼ばれてるな。しかも、この信濃と呼ばれる男子高校生は旅行が非常に好きでよくトラブルに巻き込まれている。偶然か何か知らないが、各地で起こる異世界人の犯罪情報を知るには一番の相手だ」
「行く先々で事件……きっと死神でもとりついているんですかね?」
「それは分からんが。ともかく、だ。異世界人と話すのはその少年だけにしろ。それ以外にはくれぐれも正体がバレないように。これは潜入捜査だからな」
「はい! ちなみにその子がもしかして、その大きな事件を解いたとされる?」
「いや、それはこの少年の師匠らしいが……今は行方不明らしいな」
「……大丈夫かなぁ?」
いきなり不安になる彼女。だが、もうとやかくは言ってられないと上司は告げ、持っていた杖で床に異次元ホールを開き始めていく。
「探偵とは仲良くやるんだぞ」
「はい! で、その探偵にはもう話は伝えて?」
「いや、自分から話しかけて仲良くやるんだ。一応、お前の記憶の中にそいつの顔だけは送っておく」
「……? えっ!? あっ!? ちょっと待ってくださいっ!? 私、そういう自分から話しかけてっていうのが凄い苦手でして! 先に私のことを話してくれてもいいんじゃないかなって言うのと! 後寝泊りするところは経費で豪華ホテルとかいけるんじゃ……あっ、ちょっ、私の背中をわしづかみにしないでって! あああああああっ! 後、転移酔いするタイプなんですぅうううううう!」
上司は彼女を異次元ホールの中に放り投げて、両手で叩くと溜息を一つ。
「うるさいのが一人いなくなったな……ゴミ捨て完了と」
そんな言葉に対し、声が返ってこないのを確認してからもう一言。
「お前が頼りなんだ。リヴィア。任せたぞ」




