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銀月の魔女は闇と歩く  作者: 桜色藤
2章 太陽の都
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34話 ある一兵士より

やや第三者よりの視点です


 幾度も鋼が打ち合わされる音が続く。

響くそれは鋭く、あたりに漂う空気は剣呑。

その場の全ての事象が、これが『訓練』ではないと声高に訴えていた。


 その気迫に呑まれて見ている人々も口数を減らし、ただ息を呑んで戦いという名の舞踏を見つめていた。

 視線の先の2人、ザリアスとジークが握っているのは真剣。しかも2人とも防具は軽装だ。

紙一重で避ける、そのタイミングが少しでもずれれば大怪我は免れない。

どちらかが剣を避けるたびに、そこかしこで微かな悲鳴が漏れた。



 普段ジークは攻撃力を重視し大剣を扱うが、対人、しかも今回のようにただの試合であればそれは危険すぎる。

 よって、普段とは異なる長剣を使用していた。


 標準よりも長めの長剣、その重量を利用し、ジークは一気に振り下ろす。

しかしそんな大振りの一撃が当たる訳も無く、あっさりとかわされる。

 予想していたジークはさらに振り下ろした勢いを利用して体をひねり、鋭い蹴りを繰り出す。

なにかがギシッと軋んだ音がしたが、ザリアスには届かず、籠手をはめた腕で防がれていた。

受け止められた足に再び力を込め、ジークはザリアスから距離をとる

 そのまま直感に従い、剣を横に振った。


ギインッッッと金属音が響く。


 退いたジークに、間髪いれずにザリアスが追撃を仕掛けていたのだ。

競り合う2人。と、ジークが突然力を抜いた。

ほんの僅か、ザリアスの態勢が崩れる。それを見逃さず、ジークは懐に跳びこんだ。

容赦なくひじを跳ね上げ、顎を狙う

しかし、ザリアスはそのいかつい外見からは思いも寄らない柔軟さでそれを避ける。

そして、お返しとばかりに伸び上がったジークの腹へこぶしを叩き込んだ


「グッ!!!」


 たまらず体沈めるジーク。痛みをこらえて身体を動かし、そのまま低い体勢から足払いを駆ける。

ザリアスは後ろに飛び退くことでこれを避けた。




 レベルの違いすぎる戦い(既に試合と呼ぶ域でない)に圧倒されていた兵士の1人が、微かな悲鳴にハッとした。

気付けばかなりの人が集まっていたが、とりあえずそれは後回しにし、目的の人物を探す。

 彼が探しているのは、先程見かけた少女。

今剣を振るっている《闇夜》と共にいた少女は一見して(はかな)げで、風に揺れる花を思わせた。

あんな少女にはこの激しい剣戟はきついかもしれない。

ようやく特徴的な黒髪を見つけ出し、近寄る。


「あの・・・・」


大丈夫か、と言いかけて彼は言葉を呑み込んだ。


 ビリビリと体に響く気迫、見ているだけなのに剣の切っ先に晒されているかのような戦意。この場にいる誰もが気圧されているのに、目の前にいる少女だけはにこにこと笑っていた。

 回廊の手すりにちょこんと腰掛け、ほおづえをついている姿は外見に見合った子供らしい、可愛らしいものなのに、(ほが)らかな笑みだけがその場にそぐわないひどく異質なものだった。

 絶句している彼の視線に気づいたか、セリスは視線を合わせて首を傾げた。


「何か?」

「いや、あの、えーっと・・・」


 先に声をかけられて、まだ年若い彼はうろたえる。

動揺の果てに口からこぼれ出たのは


「あの、止めないの・・・ですか?」

「どうやって?」


 おっしゃる通りです。というか、こんな自分よりも小さな少女に自分は何を言っているのか。

ますますヒートアップしているのを見、途方にくれた顔をする善良な彼を思いやり、セリスは安心させようとした。


「あの、大丈夫よ。あの2人、振り撒いている闘気や戦意はすごいけれど、殺気は全然感じないから。」


 逆に言えば、それだけでこの場の人間全てに影響を及ぼしていることになるが。

それに、殺気は無くとも事故が起きる可能性はあるのだ。


「大丈夫」


 不安を隠せない彼にかけられたのは力強い言葉。

それを発した少女は今もなお白熱する剣戟から、一瞬たりとも目を離さない。

にこやかな笑みの中で、その瞳だけは真剣な光を宿し、勝負の行方を見守っている。


「大丈夫、生きてさえいれば、どんな状態であろうと全力を尽くしてわたしが癒す。」


 はっきりと断言した、幼さの残る横顔をただ呆然と見つめる。

そこに込められた決意、覚悟、そして自信。全てがまだ未熟な彼には計り知れないものだった。


 そうして、どれだけ見つめていたのだろう。

今までの剣戟の音より一際高い響き。そして観客たちがどっと声を上げた。


「決着がついたみたい。」


 そうして、1度彼に会釈をし、駆けて行く小さな後姿を、彼は見送った。






 後に彼は知る。

 このとき言葉を交わした少女が、闇夜と呼ばれる傭兵の相棒だと。

一緒に話を聞いていた同僚たちが顔を見合わせる中、彼だけはあの横顔を思い出し、深く納得した。













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