きれいな花には毒がある
体調がだいぶ回復したので投稿します
待っててね私の王子様。
うっとりした顔で彼女は鏡に映る自身を見つめる。何も知らない高名な画家が見たら、インスピレーションが湧いたと言いながら何か大作を描いただろう。だが彼女が纏う空気は、どこか不穏なものに満ちていた。欲望か愉悦か、それとも自惚れか。それが何でできているかは彼女にしか分からない。そしてそれを目撃するものもこの部屋にはいない。
「今の姿を見るかぎり……12歳頃かな?だとしたら後3年経ったら学園に入学できるってことよね!」
纏う空気とは裏腹に、弾んだ声が部屋中に響いた。
乙女ゲーム「花と宝石の冠を君に」通称「花冠」は、花々が咲き乱れる国【ペネルティア王国】を舞台に物語が展開する。有名なイラストレーターがキャラクターデザインをしたことでとても話題になった。ゲームの設定では登場人物は皆、花と宝石を大事にし、自身の思いをそれらを使ったアクセサリーで伝える。タイトルに出てくる【冠】は真実の愛を告げる時に用いられる最重要なアイテム。エンディングで攻略キャラクター達が作った冠を被って結婚式に向かう姿が描かれたスチルは多くのユーザーの心を掴み、続編を希望する声が出ていたほど。
そのゲームの主人公──カタリナ・ユーグリットは元々は平民の娘だった。母親が亡くなった際、伯爵である父親が彼女を引き取り一人娘として育てられている。設定集にはこう書かれていた。
『母親は昔メイドとして働いていた時に関係を持ち、その時に子供を身ごもった。その子供が主人公カタリナである』
『父親は母親への愛情と、子を孕ませた責任から本気で娶る気だったらしいが、その前に子供を殺されると思った母親が屋敷から逃走』
『父親は母娘を必死に探したが見つからず、本編開始数年前にやっと足取りを掴めることができた。そして発見し、駆けつけた時には既に母親は亡くなっており、一人娘であるカタリナだけが残されていた』
『幸い、伯爵家には嫡男がいたため、使用人をはじめとした周りからひそひそと陰口や噂話を言われるくらいのレベルで済んでいる。最も、正妻や嫡男は彼女のことを快く思っていないらしいが』
可愛らしいイラストと純愛を思わせるストーリーからは考えられない主人公の設定に、多くのユーザーが困惑したのを覚えている。彼女を幸せにしたいと願う絵描きや字書きが二次創作としてたくさんのイラストや漫画、物語を書いていたのはカタリナに転生した彼女もよく目にしていた。
「でも設定通りね、今この場に私専属のメイドはいないもの。学園に入学する頃にやってくるのかしら?」
本来ならいるはずであろうメイドの存在がないことを確認し、彼女は言う。ゲームのお助けキャラであるメイドのレナがいるはずなのにいない。まだ本編が始まっていないので当たり前だが、それが彼女の状況を表しているように見えた。
「調べたいこともあるし今はいなくていっか。どうせ本編始まったらいろいろ頼むんだし」
──お父様は私に甘いからなんでも言うこと聞いてくれるものね?
そう微笑む彼女の笑顔は、とても美しかった。
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