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森の匂い 〜月の乙女の謎と、逆魔術の呪い〜  作者: 静寂
第4章 命の重み
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イリニ2

 お茶の時間には、実季子はいつもイリニを一緒のテーブルに座らせ、お茶を飲もうと誘う。

 いつもは、笑いながら上手くかわされるのに、イリニは、今日はニコニコ笑いながら椅子に腰掛けた。

「何?なんだか嬉しそう。良いことでもあった?」

 そう訪ねながら、イリニが入れてくれたお茶に口を付ける。

「良い香り。今日は、甘い香りのするお茶なのね。」

 実季子は、イリニに話しかけながら、テーブルの端におかれたトレイの中にある実季子宛の手紙の封を開けた。

 よく、忙しいアルカスから一緒に食事を取る時間の連絡や、宰相補佐官のシメオンから、勉強の予定や、今後のスケジュールが書かれた手紙が来るのだ。

 入っていた紙を開いて、暫く考え込んだ実季子は、イリニに向かって問いかけた。

「ねぇ、イリニ、

“アミフィポリ“

って何て意味?」


 途端、今まで目尻を下げてニコニコしていたイリニの顔から笑みが消えた。

 座っていた椅子をガタンと後ろに倒して勢いよく立ち上がり、腰に巻いていたエプロンをシュルリと外す。

 そして、そのエプロンを持って、実季子の後ろにさっと回ったのだ。

 驚いた実季子は、一拍動きが遅れる。

 あっと思ったときには、既に後ろ手を取られエプロンで縛られるところだった。

 イリニは、普段明るく、人懐っこいが、侯爵家の娘である。

 剣術や、武術も習得している。

 故に動きも無駄がなく早い。

 後れを取った実季子は、あっという間に後ろ手に縛り上げられてしまった。


「イリニ、やめて!お願い。離して!」

 実季子は、イリニに向かって叫んだが、どうも様子がおかしい。

 目の焦点が合わないのだ。


 これって、誰かに操られてるって事?


 魔術のない世界で育った実季子には、判断がつかない。

 椅子に座ったまま縛り上げられて、イリニは次は、ポケットから取り出した布を握って実季子の正面に回ってくる。

 実季子は、口を塞ごうと向かってくるイリニを交わすべく、思いっきり床を蹴り上げる。

 椅子ごと後に倒れる力を利用して、体を後にクルリと反転させて、着地した。

 すかさず、しゃがみ込ながら、イリニの足を払うと、バランスを崩したイリニがティーテーブルを薙ぎ倒しながら倒れる。

 テーブルの倒れる重い音、ティーセットが落ちて割れる派手な音がし、衛兵達が慌てて、実季子の部屋に飛び込んできた。

「如何されましたか!!!」

 しかし、イリニは実季子に、襲いかかるのを止めない。

 いつもキッチリとまとめ上げているダークブロンドの髪を振り乱しながら、更に実季子に覆い被さろうとしているところを入ってきた2人の衛兵に取り押さえられた。

 騒ぎを聞きつけて、執務室から、アルカスとシメオンも駆けつけた。

 兄であるシメオンは、驚きの表情でイリニを見ていた。

 眉間にしわを寄せたアルカスは、黙ったまま部屋の中を見回すと、実季子の元にやって来て、そっと手を取る。

「ミキコ、大丈夫か?怪我は無いか?」

 縛られていたエプロンを外して貰い、ボウッとイリニを眺めていた実季子は、アルカスの声で我に返った。

「陛下。この紙を見て」

 実季子は、銀のトレイに乗せたままだった手紙と封筒をアルカスに渡した。

「私が、この紙に書かれた文字の意味ををイリニに訪ねた途端、それまでニコニコしていた彼女が豹変したのよ……。

 目の焦点も合っていなくて」

 アルカスは、実季子に渡された手紙を受け取る。

「……そもそも、今日は、厨房からティーセットを取ってきた辺りから、何だかおかしかった。

 一緒にお茶をしようと誘っても、いつもは、上手くはぐらかされるのに、何も言わずに椅子に座ったし、私が何か話しかければ、必ず短くとも返事をしてくれるのに、ニコニコ笑うばかりだった。

 そもそも、あれは、笑っていたのかどうか……ただ、口角を上げていただけのような。

 まるで、操られているようだったの」

 一気に説明する実季子の話を聞きながら、アルカスは、実季子から手渡された紙に書かれた文字を見ていた。

「ミキコの言うとおりだろう。ミキコに茶を運んでくる前に既にイリニは、操られている状態だった。

 トリガーは、この紙に書かれた呪いの言葉だ。

 これは、逆魔術の呪文だ」

 アルカスは、変わらず眉間にしわを寄せたまま実季子に説明した。

 そして、すぐそばにいたシメオンに、指示する。

「直ぐに城中の人間を調査しろ。

 特に、厨房付近に見慣れない人物、若しくは怪しい者がいなかったか徹底的に探れ。

 そいつが、イリニに逆魔術がかかるように仕向けた人物だ」

「ハッ」

 シメオンは、アルカスにさっと頭を下げると足早に部屋を出て行く。


 イリニは、衛兵二人に取り押さえられた時こそ暴れていたが、直ぐに大人しくなり、そのまま何処かに連れて行かれてしまった。

「陛下。イリニは、どうなってしまうのですか?」

 アルカスは、眉間に寄せていたしわを更に深くしただけで、実季子の問いには答えてくれなかった。


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