第26話 タラザ会戦
第26話です。
〈タラザ基地防衛隊右翼陣地第47師団〉
「伏せろぉー!!」
そう言った中隊長の体がスカリー帝国軍の砲撃によってバラバラに千切れ飛んだ。
運良く中隊長より伝令をしてこいと言われた直後だった。
「ひ、ひいっ!」
俺は泣き顔で穴ぼこだらけになった陣地内を転がるようにして走りながら司令部を目指した。
降り注ぐ砲弾の雨、響き渡る戦車の振動、衛生兵や母親を呼ぶ瀕死の兵士達の断末魔。
ここは戦場だ。
いつ死ぬかも分からない。
ただ自分の所に落ちてくるなと祈ることしか出来ない。
神に念じつつやっとのことで司令部に辿り着いた。
師団長は何処にいらっしゃいますか!?と聞こうとしたら砲撃音にも負けない大声で何やら電話をかけている将官がいた。
激昂しているが師団長に違いない。
「いいからさっさと戦車なり装甲車なりを送れと言っているんです!火力が足りない!制空権も右翼側は悲惨だ!援軍を寄越して下さい!……何?じゃあ我々に死ねとでも言うのか司令部は!?ふざけるな!兵士達に戦死前提の作戦をとらせる司令を俺にやれってか、あぁ!?…態度もクソもあるか!こっちは生き死にに関わってんだぞ!安全な基地内でのうのうと数字上の戦況しか知らん奴に命令されることなど何も無いわッ!!」
そう吐き捨てた師団長はあまりの怒りに地面を思いっきり蹴りつけた。
それでも抑えきれないのか木の椅子を蹴り壊す。
砲撃より恐ろしい我らが師団長に戦慄していると、彼は落ち着きを取り戻し撤退命令を下した。
「しかし准将、撤退してはサーバ港が奪取されます!」
「このままここで耐えて、いや、犬死にしても結果は同じだ。戦車部隊にどうやって歩兵と少量の砲兵で防衛しろと言いやがるんだ無能司令部め!…いいからさっさと撤退準備に移れ!早く!」
もう戦わなくていい、この地獄から解放されると胸を撫で下ろした俺だったが、砲弾がヒュルヒュルヒュルと風を切る独特の音が徐々に耳に入ってくる。
「砲撃だ!備えろぉー!!」
危険を察した師団長が近くにいた部下達に覆い被さるようにして姿勢を低くしたが、重砲から放たれた砲弾は密集していた司令部の直上で炸裂した。
その爆風と破片に俺は体を貫かれ、やがて暗い闇へと意識を吸い込まれてしまった。
〈タラザ基地司令部〉
「…繰り返す!第47師団応答せよ!繰り返す!第47師団…ダメか!」
「電話線がやられたようです。どうなさいますか、ザンザス少将?」
副官の問いかけに苦虫を噛み潰したような表情のザンザスは文字通り頭を抱えた。
スカリー帝国軍の全面攻勢が思っていたよりも強力だった為、全戦線が劣勢状態に陥っているのだ。
そのせいで手薄な北側、もとい右翼軍が壊滅的被害を被っており、援軍を送ろうにも地形が行く手を阻み、兵力不足がザンザスの作戦計画案に執拗にまとわりつく。
さらに彼の足枷となったのが帝国軍の視線を釘付けにするという極秘命令だった。
アンカーや陸軍爆撃隊の代わりに精強な帝国軍の攻撃を受ける自軍に死ぬ気で戦えと言わなければならない。
ザンザスは無能とは程遠い中堅司令だったがこの極秘任務が足を引っ張り、加えて少ない砲兵に帝国軍の戦車部隊と彼の思考回路はパンク寸前であった。
結果的に有効な対応策を取れずに北側は突破を許し、第47師団長ダンバル准将以下1万2500名のうち8割が戦死又は捕虜となる大惨事となり、重要拠点サーバ港が帝国軍に奪取された。
5月6日午前6時20分のことである。
〈空母ツヴァレフ艦橋〉
午前7時20分。
アンカーが演説をした直後の1航戦(第1混成航空艦隊)はレーダーを搭載するツヴァレフ級空母2隻を中心に輪形陣をとって航行していた。
ツヴァレフ及びツヴァレーンは対地装備を使用し、出撃準備は万端だった。
しかし…。
「嵐に2回も遭うなんてついてるな大佐。…医務室に行ったらどうだ?」
「オロロロロ…オエッ!(そうさせてもらう…もらいますッ!)」
なんとまたもや嵐に遭遇したのだ。
そしてエスメールはずっと船酔いに苦しんでいる。
痩せて体幹を鍛えろ。
…さて、今回の嵐の波はそこまで荒くないが風が強い。
四方八方から吹きつける豪風に軍帽が飛ばされそうになるのを右手で押さえながらアンカーは飛行隊長であるシュニザー少佐と発艦についての協議をわざわざ飛行甲板上で行なっていた。
艦橋から自ら司令が出向いて行く姿にエカテリーナは驚いていたが、アンカーの性格上おかしいことではない。
大きな雨粒が飛行甲板を叩く中、傷もちの青年は大声で発艦の可否を尋ねた。
「シュニザー少佐!出れるか!?」
「俺達は行けますが5空(第5艦隊)の奴らは無理じゃないですかね!」
「模擬戦の時より強いぞ!」
「波が荒くないから行けますよ!」
「そうか、なら10分後には出てくれ。じゃなきゃ陸軍の爆撃隊が出撃するタイミングを失う。囮役すら出来んのかと笑われたくないから急いでくれよ!」
「了解、ボス!」
傘をさそうとするリーエルに要らん要らんとばかり手を振りながらアンカーは艦橋に戻った。
雨水に濡れたままの軍服を拭かずにすぐさま地図で現在の状況を確認する。
「作戦参謀。レーヴェン島攻撃隊が半減した場合、滑走路の破壊は可能か?」
この問いにイグロレは難色を示す。
「五分五分…いえ、40パーセントあれば御の字です」
「だろうな。しかし練度的に5空は頼りにならんし…」
「嵐が過ぎ去るのを待ってから波状攻撃を仕掛けるのは如何です?」
「一理ある。…ウェインライト中将、どうです?」
話を振られたエカテリーナは既に決まった解答をアンカーに提示した。
[近海にカーリスの警戒艦隊やスカリーの海軍がいるはずですが、何度も申し上げたように心配ありません。波状攻撃でよろしいかと]
「よし、通信士官、ツヴァレーンに打電!貴艦らは待機されたし。と」
「了解しました」
その言葉が言い終わると同時に発艦注意の警報の音が艦内を駆け回る。
「全機発艦せよ!飛行甲板上の乗員は退避!」
今まで最終確認をしていた整備員は急いで最寄りの高角砲塔内に駆け込むか艦橋側に退がる。
そしてシュニザーが搭乗するM-2戦闘機を先頭に各機が発艦して行く。
「シュニザー隊、発艦する!遅れるなよ野郎共!」
「「「ウーラー!!!」」」
この強風でも陽気なパイロット達は上手く風を捉えて次々と発艦を成功させる。
戦闘機に比べ鈍重なM-3急降下爆撃機や爆装のM-4雷撃機もふわりと浮き上がって行く。
これにはエカテリーナも大いに驚いた。
[流石ですね。ライン司令の艦隊は]
[お褒めに預かり恐縮です。ウェインライト中将]
儀礼的な返答だったが、可愛がって育てた部下を褒められるとやはり嬉しいのだろう。
アンカーはいつもよりも口角が上がっていた。
大雨と強風の中を高く、速く飛翔する鋼鉄の鳥達は、空母から送られてきた通信を頼りに針路をレーヴェン島へと向けた。
その数はM-2戦闘機18機、M-3急降下爆撃機20機、M-4雷撃機20機に上った。
中型高速空母であるツヴァレフ級は可変翼仕様のM-3、M-4のおかげで載せられる機体が増加し、世界的にも有数の搭載数を誇る。
ちなみにアンカーは送り出す部下を1人でも多く生還させる為に艦隊護衛の任に就く直掩機を全て攻撃隊の護衛へ回した。
艦隊は嵐の中に守られているので不必要と思ったのだろう。
これが後にシュニザーの命を救うこととなった。
現在、午前7時30分。
カーリス半島大変そうですね(他人事)




