-Lyuk Side
エレベーターが一階につき、ドアが開く。
その途端、顔に何かが突撃してきた。
「っぶ」
「ぷち!」
痛みに鈍感な為か特に気にはしなかった。
が、本能的に額からそれを引っペがし地面に叩き
つける。
「あ、悪ぃ…」
「ぷぇえぇええ!!」
「きゃーっトゥルたん!」
思った以上に力が出てしまった。
相手はオレにぶつかった上、更に地面に体を強打…
運悪くそれはガキんちょな悪魔のトゥルだった。
トゥルは姿を自由に変えられる悪魔だ。
よく元気に飛び回っている幼い子どもだ。
相手が悪かった。
案の定、火がついたように泣き出してしまった。
「あー…悪ぃ…」
「びゃあぁぁぁあっ」
「トゥルたんー痛い痛いの飛んでいけ〜っ」
幸いトゥルはこう見えてタフだ。
少し血が滲む程度の怪我ですんだ。
再生能力で治したものの、泣き止まない。
中身は子ども…痛みに弱い。
やっちまった感が気まずい。
とても居心地悪い。
平静を保っているが、内心戸惑っている。
とりあえず抱き上げて落ち着かせる。
ヘルゼまで駆け寄ってきて大騒ぎになった。
「びーっびーっ」
「トゥルたん〜いないいないーばぁー!!」
「よしよしーだいじょうぶだよ〜」
「どうしたんッスか?」
誰もいないはずのところから声がした。
透明悪魔のメタファーだ。
元々は模様を操る悪魔だが、訳あって姿が見えな
い。
その原因は色々と複雑で、オレの悩みの一つでも
ある。
なんにせよ、この今の状況に心強い存在が来てく
れた。
メタファーは一時的に姿を現す。
美しい透き通った髪と顔の模様。
とても悪魔とは思えない。
何故こんなにも綺麗なのに…
芸術作品を見ているような、吸い込まれる魅力が
ある。
少しの間しか眺められないのは、とても勿体無い。
トゥルはその姿を見て、飛びついた。
声を聞くと、落ち着いた様子になる。
どうやらトゥルはメタファーを気に入っているら
しい。
いつもメタファーが姿を現すとご機嫌になる。
「メタしゃん〜♪」
「トゥルたんぎゅ〜ッス!」
「一件落着だねぇ」
「トゥル…その…」
「とぅゆだいじょーぶ〜ごめんなちゃい…」
トゥルにも笑顔が戻る。
そしていつものように、また元気よく飛び回り始
めた。
全員がほっと胸を撫で下ろす。
とぅゆとぅゆと意味不明なトゥルの言葉が場を和
ませる。
相変わらず意味不明だ。
「あぁ…そういや分からないところがあるのか?」
「あ、モニターどうなった?」
「だいぶすすんだよ〜けどここがむずかしくて…」
「仕方ねぇな…オレに任せろ」
こいつらは良い奴らだ。
悪魔でいることを感じない。
傍にいると心地が良くて…落ち着く。
まぁ仕事は別だが。
モニターを慣れた手つきで操作していく。
もう何度もしてきた操作だ。
誰よりも慣れている。
モニターには異世界の情報が無数に流れてくる。
それを選抜して見るのもかなり時間と根気がい
る。
作業を終え、一旦休むべく背伸びをした時だった。
突如赤く染った場面が全体に映し出される。
そこには悪魔らしき人物が二人。
一人は迸るどす黒い液体と肉片に塗れている。
作業現場…と言うべきか。
いつもの見慣れた風景…
血塗れの世界だ。
無残に喰われている。
「…あいつは……」
「う…また過激派が…」
口元を抑えつつ愛世が嗚咽を漏らす。
見慣れた顔。
一人がカメラ目線にこちらを向く。
目が合った途端、背中に悪寒が走った。
にやっと笑ったかと思えば、画面が乱れて砂嵐に
なる。
そして次々に場面が作業の風景を映し出す。
ERROR の文字と Πανδώρα のポップアップ。
「くそ…ハッキングか…!」
「またやられたね…」
過激派の奴らの仕業だ。
「あいつら勝手なことを…」
「またこれで大変なことになるねぇ…」
「おおきなじけんおこさなきゃいいけど…」
過激派とは…
簡単に言えば、悪魔らしく残酷にいくポリシーの
奴らだ。
魔界に混乱を巻き起こす、厄介な奴だ。
時にモニターを占領することもある。
突発的で過激な仕方を好む。
一方愛世は穏健派。
比較的消極的に、温厚にいくタイプの悪魔だ。
魔界にはこの二つの派閥で別れている。
そして対立している。
オレはちなみに中立派。
中立派は特に派閥に興味が無い奴のことを指す。
実際、この中立派と過激派が多い。
穏健派は少数派だ。
オレは派閥争いを好まない。
しかし実際は、内心は穏健派にいる。
オレは正直…過激派が大嫌いだ。
あいつ…が率いる過激派。
あいつはオレの仲間であり…敵だ。
「こうなったら対抗するしかないね…今回はぼく
が行くよ」
「あぁ…頼む…」
そう言った愛世の体は闇に包まれ、異世界へとワ
ープし旅立った。
オレは近くのソファに座り込み、モニターを見つ
める。
人間を陥れ、弄び、そして喰う。
過激派がやっていることは実際、正しい。
悪魔としては…妥当なことだ。
そして過激派の…あいつの気持ちも分かる。
痛い程分かるんだ…
悪魔はそうであるべきなのだ。
しかし…そうなのだろうか。
何回この質問を自問自答して来たか…
未だに答えは出ずに、分からないままだ。
「おちゃ、いれようか?」
「おぉ…ありがとな…」
考えるのも面倒になる。
しばらくただぼーっと、永遠と流れる血腥いモニ
ターを眺めていた。




