-Lyuk Side
空を見上げればそこには…
輝く星と青白く光る月が浮かんでいる。
相変わらず憎い程美しい夜空だ。
いつ見ても、何度見ても飽きない。
ここから見下ろす世界はとても綺麗で、
魔の者が住む場所ということを忘れてしまう。
魔界の中心にある、高く聳える悪魔の城。
その頂上にある魔王の部屋。
魔王のオレしか入れない。
ここから見える景色は、この世界を治める者の特
権だ。
ベランダに出るともっと良く見える。
手を伸ばすと、月に届きそうだ。
この景色を見る度、血腥い日常から逃れられる気
がする。
悪魔という残酷な現実を忘れられる。
自分はその、残酷な存在の指導者であること。
魔王であること…
全てを忘れて、やっと自分を取り戻す気持ちにな
る。
少しだけ…少しだけ過去に戻ったような感覚に包
まれる。
青白い月光に誘われて…
「……ッ」
不意に目の前の景色が歪む。
薄れた記憶が揺れ動き、微かに過る。
突如として蘇る記憶。
発作のようにそれは襲ってくる。
まただ。また…
思い出してしまった…
膝をつき、荒れる息を整える。
目眩がして思わず倒れそうになる。
意識が朦朧とし始めた。
と、部屋のドアを叩く音がした。
「リュークん…?ちょっといいかな…?」
トントンとノックと共に聞きなれた、高い声。
自分の名前を呼ばれ、ようやく我に帰った。
まだ足が震えているが、振り切るように頭を振
る。
ふらふらと声のする方へ向かう。
ドアを開けると案の定、小さな赤髪の少女が立っ
ていた。
「愛世…なんだよ」
「あー…リュークん…泣いてる?」
「…んなわけねぇだろ…」
気がつくと頬に何かが伝う感覚がした。
慌ててこっそりとそれを拭う。
何事も無かったかのように冷静を装う。
愛世は少し目を細め、そっとその小さな手でオレ
の服を引っ張った。
「あのね、モニターの操作が分からなくなっちゃ
って…」
「あぁ…ちょっと待ってろ…」
気分転換に洗面所へ行き顔を洗う。
また仕事が始まる。
冷水を思い切り顔に掛け、気を引き締める。
顔を上げるとそこには、鏡に映る自分の顔。
黒く長い荒れた髪…赤く鋭い眼光。
そして醜い痣。
吐き気がする醜いその顔を、強く睨みつけた。
コートを翻してドアを開ける。
「よし…行くか」
「はーい」
満面の笑みで応じられ、自然とこちらも口元が緩
む。
壁にはロビーに続くエレベーターがある。
笑顔の愛世に連れられて、ボタンを押しつつ乗り
込んだ。




