27歳と29歳のデート おまけの後日譚
27歳と29歳のデート ―――おまけの後日譚―――
「ゆっくりでいいよ」
今日は田部井さんからもらったチケットで結衣ちゃんとミュージカルデート。
「ううん、もう支度できてるから」
なんて言いながら、玄関で靴を履くのだけで転びそうになる結衣ちゃんを抱きかかえる。
「結衣ちゃん、もうちょっと低いヒールないの?」
「ない。前の彼氏と別れたときに全部捨てたから」
この潔さも大好きだよ。あ、でも、潔く俺を振るのはもうだめだからね。
「じゃあ、今日の帰りに買い物に行こう」
13センチのヒールを履いてしゃっきりと背筋を伸ばした結衣ちゃんはとっても凛々しくて最高にきれいだ。
「行ってもいいけど、13センチのヒールの新しいの買うわよ?」
「え?それじゃあ意味ないじゃん」
「13センチのヒールじゃないと意味ないの」
駅まで手を繋いで歩く。開演には十分間に合う時間だけど、結衣ちゃんは心配らしく早足になる。
「小さくても可愛いよ」
電車を持ってる間に結衣ちゃんを抱きしめようとしたけど、するりとよけられた。
「そんな感想求めてない」
「冷たいなぁ」
いつもこんな感じだからと諦めつつ苦笑すると、結衣ちゃんが何かに気づいたようにはっとして、俺をきゅっと抱きしめた。
「ゆ、結衣ちゃんっ?」
突然の行動に俺は動揺しまくった。が、結衣ちゃんはすぐに俺から離れた。
「彰、私はちょっと彰に厳しすぎる?」
「そんなことないよ。結衣ちゃんは優しくていいこだよ」
「・・・私、彰を叱ったりしないわよ?」
「結衣ちゃんになら叱られてもいいよ」
「馬鹿!」
早速叱られたけど、ま、いっか。
ミュージカル会場の駅につくと、俺と結衣ちゃんは見慣れた後姿を見つけて声をかけた。