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おばあちゃんと暮らすことになりました。  作者: 風みどり


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第8話 寝なさい

第二章 これから、おばあちゃんと暮らすことになりました。

うめさんの家で暮らし始めて、一週間が過ぎた。


みほは、ほとんどの時間を眠って過ごしていた。


朝、目が覚めても、すぐには起き上がれない。


布団の中でぼんやりしていると、いつの間にかまた眠っている。


昼過ぎに目を覚ますこともあった。


そんなみほを、うめさんは一度も責めなかった。


「おはよう」


目が覚めると、いつもそう言ってくれる。


「ご飯、食べられそう?」


「……はい」


それだけだった。


起きる時間も、寝る時間も聞かない。


何をしていたのかも聞かない。


ただ、みほが起きてくるのを待っていた。


それでも、みほは自分を責めていた。


仕事を辞めた。


何もしていない。


毎日、寝ているだけ。


こんな生活をしていて、本当にいいのだろうか。


ある日の午後。


みほはリビングで、うめさんとお茶を飲んでいた。


しばらく黙っていた。


みほは膝の上で手を握り、うつむいた。


そして、少し迷うように口を開いた。


「私……仕事、辞めたんです」


うめさんは、みほの顔を見る。


「これからも生きたいって、思ったから」


声が少し震えた。


「でも……」


みほはさらに俯いた。


握りしめた手に、涙の雫がひとつ落ちた。


「毎日、寝てばかりで。何もできてないんです」


「こんなんじゃ、ダメですよね」


うめさんは、すぐには答えなかった。


ただ、みほの顔を静かに見つめていた。


やがて、小さく息を吐いて言った。


「寝なさい」


「……え?」


みほは顔を上げた。


「今は、寝る時なのよ」


「でも……何もしていません」


「いいのよ」


うめさんはそう言って、お茶を淹れた。


湯気が、ゆっくりと立ち上る。


「花だって、冬の間ずっと咲いているわけじゃないでしょう?」


みほは黙って、うめさんの話を聞いていた。


「土の中で、春を待っているの」


うめさんは窓の外の庭を見た。


「あなたも今は、根っこを休ませる時なのよ」


その言葉を聞いた瞬間。


みほの胸の奥が、少しだけ緩んだ。


今までずっと、


「起きなきゃ」


「働かなきゃ」


「何かしなきゃ」


そう思っていた。


寝ている自分を、怠けていると思っていた。


何もできない自分を、責め続けていた。


でも――。


「寝ても、いいんですか?」


みほが小さな声で尋ねる。


うめさんは笑った。


「もちろんよ」


「むしろ、今はたくさん寝なさい」


「お腹が空いたら、ご飯を食べればいい」


「眠くなったら、寝ればいい」


「お風呂に入りたくなったら、入ればいい」


みほは、少しだけ笑った。


「……そんなので、いいんですか?」


「そんなので、いいのよ」


うめさんは、穏やかに答えた。


庭では、春の花が風に揺れていた。


「急がなくていいの」


「花だって、咲く時期を自分で決めているわけじゃないでしょう?」


みほは庭を見つめた。


その隅に、小さなすみれが咲いていた。


目立つ花ではない。


それでも、静かに咲いている。


みほは、その花をしばらく見つめた。


「……私も、いつかまた咲けますか?」


うめさんは、みほを見る。


そして、迷いなく答えた。


「咲くわよ」


あまりにも迷いのない声だった。


みほは、少しだけ泣いた。


でも、その涙は前とは違った。


悲しくて流れる涙ではなかった。


張りつめていたものが、少しずつほどけていくような涙だった。


「じゃあ……今日は寝ます」


「ええ」


うめさんは笑った。


「寝なさい」


その言葉が、今のみほには、


「頑張ってね。」


よりも、ずっと優しく聞こえた。

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