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恋路小噺① 四枚綴の深愛(第一章①前)*

※時系列でいうと第一章の直前になりますが、内容的には第一章②「月影の邂逅」読了後の閲覧をお勧めします。




 



 



 


 


「待てぇぇぇっ!!」


 怒号と共に、王都中央の大通りを夕輝士団の平隊士達が駆け抜けた。

 通行人がぎょっとして飛び退き、露店の団子屋が串を取り落とし、乗合馬車の御者が必死に手綱を引く。


「HAHAHA! 美女の集団ならまだしも、むさ苦しい男達に追いかけ回されるのは勘弁してほしいね!」


 背中に負った大剣が、走るたびに大きく揺れる。

 元夕輝士団総団長、現在は一億(エイ)の賞金首――レオナルド・スカイライト。


 中背だが筋肉質な逞しい体躯、鮮やかな金髪を風に靡かせ、輝く白い歯を見せて爽やかスマイルを振りまく。


 追ってきたのは、見廻り中の平隊士たち。

 試食の品をつまみすぎて食い逃げ認定された異人の男は、人混みに紛れて颯爽と逃げていた。


(よーし! もう少しで振り切れ──)


 平隊士達の声が遠ざかる。

 近くの路地に入り込もうと見回し、はっとする。


「あっ、マイ・サン!!」


 レオナルドは慌てて急ブレーキをかける。

 息子に買い出しを頼んだ食材屋は、既に遥か後方だ。


「しまった、これじゃ待ち合わせ場所に──」

「何してんの」


 背後から、気怠げな声が飛んでくる。


 振り向くと、いつの間にか食材の袋を抱える金髪少年が立っていた。

 眠たげな半開きの瞼と、無造作に揺れる猫っ毛。

 

「ワオ! 超絶可愛いコがいると思ったら僕の愛息子だった!」

 

「……先、宿に戻っとく」


 無表情を通り越して、死んだ魚のような金眼。

 迷いなく踵を返して歩き出す三明の隣に、レオナルドも慌てて並ぶ。

 

「そうかい? なら荷物は僕が持とう。なんたって僕は君の父──」

 

「アンタの宿はあっちだろ」

 

 すっと指差された先は、夕輝士団の地方支部。


「そ、そんな……さすがに冷たくないかい息子よ!」

 

 隣の彼に、泣き付きつつハグしようとした矢先。

 先程の平隊士達が一斉に追い付いてきた。

 

「ようやく追い詰めたぞ、この食い逃げ野郎!」

 

「待ってくれ、僕は無実だ! ただ少し小腹が空いて、晩御飯まで我慢できなかっただけさ!」

 

「それのどこが無実だ!」


 壁際に追い詰められたレオナルドは、半泣きで懇願する。

 

「何より僕は、ようやく再会した生き別れの息子と二人旅をしている身だ! そんな親子を引き離そうというのかい!? なぁマイ・サ――」

 

 しかし振り返ると、そこには遠巻きに見守る通行人が数名。

 愛しい我が子の姿は、忽然と消えていた。

 

「あれぇぇぇっ!?」

 

「いいから大人しく詰所まで来い!」

 

「何故だぁ! 何故僕を見捨てて帰ってしまうんだ息子よぉぉ!」

 

 両脇をがっしり掴まれ、引き摺られていくレオナルド。

 その悲痛な叫びは、大通りの隅々まで響き渡ったという。


 

 ◇

 


 燿王地方の外れにある港町。

 

 その安宿に駆け込んだレオナルドは、部屋の扉を開けるなり全力で抗議した。

 

「息子よ! 置き去りなんてあんまりじゃないか!」

  

 あの後、本気を出した元総団長に敵うはずもなく。

 哀れな平隊士達は一人残らず昏倒させてきたため、追手の心配も無いはずだ。


 ちなみに夕輝士団の描く指名手配書は、壊滅的に似ていない。

 おかげで、一億映の賞金首だと正体が露見したことは、未だ一度も無かった。

 

「……おかえり。早かったな」

 

 ベッドに座って小太刀の手入れをしていた三明が、顔を上げる。

 そんな「おかえり」の一言で、不満どころか気分は急上昇、むしろ嬉しくて堪らないレオナルドである。

 

「ただいまマイ・サン! 愛してるっ!」

 

 喜びのままに抱き付こうとすれば、当然のようにひょいっと躱されてしまったが。


「全くもう、照れ屋さんなんだからー!」

 

「照れてねぇ。呆れてる」

 

「おやおや、素直じゃないねぇ」


 笑いながら、壁際の机に向かう。

 万年筆を手に取り、昨日書きかけになっていた手紙を仕上げることにした。

  

「──よし、完成だ! 確認、お願いできるかい?」


 便箋を差し出せば、三明はどことなく引き攣った顔で受け取る。

 

 異国の生まれであるレオナルドは、会話こそ流暢にこなせるものの、書き言葉は未だに苦手である。

 そのため、いつも息子に誤字脱字が無いかチェックしてもらうのだが──。


「…………」


 読み進めるにつれ、彼の金眼がみるみる虚ろになっていく。


「どうかな? この文面で、僕の思いが余す所なく伝わるだろうか?」


「…………思いっつ〜か、重い。あとキモチワルイ」


 しかし、レオナルドは豪快に笑ってみせた。


「HAHA! 僕の手紙は、君にとって少々刺激が強すぎるかもしれないね!」


「…………」


 無言で便箋を返却する三明。

 表記上のミスは無いようなので、鼻唄混じりに封をした。


「これでよし! 明日の朝一で、康志君の手紙と一緒に郵便屋へ持っていこう!」


 既に書き終えていた“赤司康志様”と宛名を書いた封筒と重ね、大事に鞄へ仕舞おうとした、その矢先。


「……おれ、今から出してくる」


 さっと二通の手紙を掠め取られ、レオナルドは目を瞬かせる。


「おや、そうかい? じゃ、お願いしようかな」


「…………」


 部屋を出ていく息子の背中を見送りながら、レオナルドはデレッと表情筋を限界まで弛めた。


(珍しいね、さっきのお詫びかな? それとも親孝行したい気分だったのかも?)


 親馬鹿モードで脳内お花畑だったレオナルドは、知る由もなかった。


 父親の見るに堪えない文面を送り付けられる相手を慮り、彼が封筒の片隅にこっそり一言書き添えていたことを。

 

 

────

 

 僕の永遠のマドンナ、瑞希ちゃんへ

 元気にしているかい? 夕輝士団の副団長として僕をサポートしてくれた凛々しい君の姿を、僕は一日たりとも忘れたことはないよ。あの、燃えるような美しい朱毛と、すべてを見透かすように輝く鳶色の瞳! あの情熱的でエレガントな瞳に睨まれて熱い拳を叩き込まれるたび、僕は身も心も激しくノックアウトされていたものさ。かつてロマンチックな告白を華麗にスルーされた思い出さえ、今では僕の胸の中で極上のヴィンテージワインのように輝いているよ。どんなに月日が流れても、瑞希ちゃんはあの頃と変わらず最高にビューティフルで、誰よりもキュートなレディだ。異国のどんな美女を前にしても、君のその気高き美しさには到底敵わないと断言できるね!

 ところで瑞希ちゃん、聞いておくれ! 僕の人生における最高にして最大の奇跡、愛しのマイ・サンの話を!

本当に、驚かないで聞いてほしい。あの子は神様が僕のために地上に遣わしてくれた、正真正銘のエンジェルなんだ! 僕とよく似た眩いほどに美しい金髪と、思わず触れるのを躊躇ってしまうほどに白く滑らかな美肌を持っていてね。何より、秘めやかに煌めく至宝のような金の瞳── そのちょっぴりアンニュイな金眼で見つめられるたび、僕は父親としての幸福感で蕩けそうになってしまうのさ。

しかも最近、野営時には食事の支度を手伝ってくれるようになってね。トントンと器用に食材を刻む華奢な背中を見ていると、愛おしさが溢れて堪らないんだ! 僕が我慢できずにハグしようとする度、猫みたいにひょいっと躱されてしまうけれど、そういうシャイな所も最高にチャーミングでたまらないよ! ああ、神様、うちの息子をこんなにも完璧に創ってくれてありがとう! そんな宇宙一可愛い天使が四六時中側に居てくれるなんて、僕は夕映王国一、いや世界一の幸せ者さ!

……おっと、マイ・サンの愛らしさについて語り続けていたら、便箋が何百枚あっても足りなくなってしまうね。

 さて、ここまで読んでくれてありがとう。相変わらず僕らは親子水入らずの二人旅をしている身だけど、実はもうすぐ王都に到着する予定でね。せっかく近くまで行くのだから、大鳥家にもぜひ顔を出させてもらおうと思っているのさ!

 やっと瑞希ちゃんの顔を見られると思うと、今から胸の鼓動が止まらないよ。久しぶりに僕が腕を振るって、君と、君の可愛い娘さんにも最高のディナーを御馳走するから、ぜひ楽しみにしていておくれ。

 それでは、愛しの瑞希ちゃん。食材をたっぷり用意して(僕が調理するから、どうか食材は手付かずのままにしておいてくれ。いいかい、必ずだよ!)、僕たちの到着を待っていてね! またすぐ会おう!

君の永遠の親友であり、愛の追跡者チェイサー

レオナルド・スカイライトより



挿絵(By みてみん)



────


 毎度お手数をおかけします。

 要件は4枚目下部にのみ記しております。

 よろしくお願いいたします。

 空見 三明

 

 

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