11 油断大敵
こんな〇〇暑いなかお気に入りのパン屋さんに行ってきました。
少しは気を取り直してお話を進められて良かったです。
また明日から酷暑の中お仕事かと思うと気が遠くなりそう。
早朝から馬を駆け州都を目指す。
親父が亡くなったと報せを受けたのだが全く胸に響くものはない。薄情な息子だと思うがまぁ自分がそういう風に育てたんだから文句はないだろう。
馬を駆けながらヤンの言葉を思い返していた。何か気になるいつもと違うカールの行動は確かに俺自身も気になってはいる、が、何も複雑なことは無い。カールの目的は子爵家を継ぐことでそれは今まさに達成しようとしている。俺は前々からその気は無いと言い続けているし心からそう思っているから問題は無いはずなんだが。
四日かけて宿に泊まったり野営したりしながら走り続け街道を順調に進みもう半日程で州都につくという所で日が暮れてしまった。丁度旅人達が利用しやすい場所にある小さな宿場町に到着しそこでいつも利用する宿をとった。
明日の朝出発すれば昼頃には到着するだろうとうっかり、すっかり気を抜いてしまったんだ。
夕食を終え風呂に入り後は寝るだけと安心しきりベッドに潜り込んだ。カールの事は気になっていたがそれも明日には解決するだろうと眠りに落ちていく意識の中でぼんやり考えていたら、突然体がベッドに押し付けられる感覚がし抵抗しようとしたが身動きが出来ない。唯一動かせた目を開くと暗かったはずの部屋が妙に明るい。
何だ!? ハッ、魔術か。
そう思った時には既に遅く、目だけでベッドの横を見れば二人の男が立っていた。一人は予想通りと言えばいいのか兄カールで、もう一人の男は……
「久しぶりだな、ヴォルフ」
「良い格好だな、ヴォルフ」
カールは良いとして、誰だコイツ。
「数年ぶりだというのに挨拶もなしか、嘆かわしいな。やはりお前は子爵家には相応しくない」
カールは最後に会った時より顔つきが悪く荒んでる印象だ。俺よりも低い背に小太りな体型、着古した上着でニヤつきながら俺を小馬鹿にしたように見下している。州都の家に着いてからと思っていたからすっかり油断していた自分が情けないが言い返す事も出来ない。
「いやいや、カール殿。この魔法陣のせいで口がきけないのだよ、許してやってくれ」
「あぁ、私としたことがうっかりしていたよ。そうだったな、ハッハッハッ」
何だこの小芝居。っていうかお前誰だよ!
正体不明の男の手には魔術師が好んで使うロッドが握られているからコイツがこの魔術を行使している事は間違いないだろう。二人は上機嫌に笑いながら話し始め、謎の男がさも自慢気に顎を上げる。
「お前がこの宿を使う事は予めわかっていた」
そりゃそうだろ、ここは州軍御用達の宿だ。それを何を偉そうに。
「そこでここへ魔法陣を展開しお前を捕らえようと私が提案したのだ」
馬鹿兄の割に一生懸命考えたんだろうなぁご苦労な事だ。俺だって普段なら流石に飛び込みで入った見知らぬ宿では俺自身も魔術を使うのでそういう仕掛けがされてないか用心してる。
だがここは州軍御用達である程度数部屋が常時軍用に押さえられていて安全対策もしてある筈だと油断してた。
コイツまさか軍関係者か?
俺は改めて男を観察した。細面で目が小さく貧相な口ヒゲ、下がった口角は常にまわりに不満を振りまいてそうだ。何処かで見たような……俺、人の顔覚えるの苦手だからな。
「良い提案でしたよカール殿」
「いやいや、エッボ殿こそ素晴らしい才覚をお持ちだ」
エッボ……う〜ん聞いたことあるような……
「次期子爵であるカール殿に褒めて頂けるとは光栄ですな」
「なにを仰る、エッボ殿も直ぐに子爵へ陞爵されますよ」
という事はこの男今は男爵。謎にプライドだけが高いカールが爵位が下の者なのに同等の物言いを許しているということはそれだけ親しいという事か。俺を嵌めるためにクズ仲間を募るとはやっぱカールは馬鹿だが、そんな奴にしてやられてる俺も馬鹿か。
「あぁすまんな、お前の事を放っておいて」
ひとしきり二人は褒めあうとカールが俺に向き直る。
「全く身の程をわきまえぬ忌々しい弟だったがやっと始末できる」
カールに続きエッボという男も俺に冷笑を向ける。
「上の者を敬う心を持たなかった自分を恥じながら生きるが良い」
奴がそう言い終わるやいなやベッドに押し付けられている体に更に圧を受け床に描かれているであろう魔法陣の光りが一層強さを増す。
「これが済めばもう目障りなその姿を見ることは無い。あぁ父上の葬儀は私が完璧に取り仕切るから心配は無用だ」
一瞬この呼び出しが俺を誘き出す嘘かと思ったが親父が亡くなったと言うことは本当らしい。最期まで俺の為にならない親父だったが冥福は祈っておいてやるよ。
「お前は昔から私を苛立たせる事しかしなかったからな。家を出た後すら州軍内で功績をあげ私を嘲笑った上に後継ぎたる私に成り代わろうとしていたのだろう。だがそれももうお終いだ、さぁエッボ殿、最後の仕上げをやってくれ」
だから! 名ばかりの子爵はいらねぇーって言ってんだろ! 被害妄想が甚大だな。
頭が破裂しそうなほど腹が立って怒鳴りつけてやりたいが全く声が出ない。ふと副官のヤンの顔が思い浮かび、俺がこんな馬鹿な奴等にしてやられると知られれば腹抱えて笑ってそうだと思った。
どうにか最後まで抗っているが頭がくらりとし息苦しくなる。
もう駄目か。
「フハハハッ、私にしてやられて悔しいか? 己の愚かな所業を悔やむが良い」
エッボとかいう奴が高笑いしながらロッドを大きく振るうのが見え意識が遠退く。
だからお前誰だよ……
突然目が覚めガバッと体を起こした。飛び跳ねて身構え辺りを見回す。いつもの宿屋にいたはずが周りはまばらに木が立ち並び明るい日差しに照らされていて近くに人の気配は無い。反射的にいつも腰に帯びている剣のある場所へ手をやるとそこに慣れた硬い感触はなく、代わりにゴワッとした毛に指が埋まる。
「なっ……」
驚いて腰に目をやれば毛に覆われた手足がそこにあった。
なんだ?! 獣、魔物?!
身をよじって払おうと自分の腕を動かしたはずが、その獣の手が俺の思っている通りの動きをする。慌てて自分の体を確かめると何処に触れてもゴワゴワの毛で、流石にそこで認めなくてはいけなくなった。
俺は呪われたらしい。
半ば伝説の様な存在だがこの世には呪いという物があり、一部の魔術師がそれを行使する事が出来るという。
数十年に一人くらいの割合で呪われた人間というのが現れ、その姿は大体が醜い獣の姿をしているらしくひと目で呪われているとわかるらしい。俺もこれまで見た事は無かったが、自分の腕にビッシリ生えている灰色のゴワついた毛が現実を突き付けてくる。腕の先には人間のような手に指が五本あり掌には毛がなく猿のようだった。
その手で顔に触れると毛むくじゃらの顔、頭部の上の方にピンと立つ二つの耳、鼻と口は前に突き出していて恐らくオオカミのようだった。
なんだコレ、こんな見てくれでこの先マトモに生きていけるのか?
頭は痛いが不思議と絶望感は無い。多分まだ現状を受け容れられず実感が無いのだろう。
さて、これからどうするかな。
読んで頂いてありがとうございます。
次話も読んでみようかなと思ってしまった方はブクマ、イイね、評価を宜しくお願い致します。
かなりヤル気に繋がります。創作中の心の安寧でもあります。




