1 お決まりのアレ
久し振りの新作です。
宜しければまた末永くお付き合いをお願い致します。
不定期でボチボチの投稿になると思われますので
生暖かく見守って頂けると幸いです。
鼓膜が破れそうなほどの耳鳴りを振り払おうと何度か頭を振った。じわじわと周囲の音が戻ってきてやっと顔を上げると……
「お前との婚約は破棄だ!」
という何処かで何度も聞いたセリフが聞こえた。
アレ?! 私ってお芝居でも観に来てたっけ?
首を巡らせ辺りを見れば成る程そこには私を囲うように立っている人々がいて、綺羅びやかな舞台衣装を身に纏い驚愕の眼差しや、扇子で口元を隠しているが隠しきれない嘲笑が零れ落ちています的な様子で私を見下す芝居がかった態度。
おぉ凄い表現力ですね。貴方がたの本気度、ちゃんと伝わっていますよ。
これはやっぱり舞台を観に来ていたのか、と思ってふと自分の手元を見た。そこには繊細なレースで作られた黒い美しい手袋。握られているのはひと目で高級だと思わされる優美な扇子。私はどうやら立っていて視界には艶やかなワインレッド色のスカートに綺羅びやかな刺繍がこれでもかと施されゆらりと揺れている。
なんでこんな服? こんなに豪華な姿はきっと舞台上の俳優さんより派手なんじゃない? これって参加型の舞台?
「はっ! 驚いて口も聞けぬか」
おっと続きが始まったと慌てて再び視線を声のする方へ向けると、そこには主人公らしきそこそこイケメンの十代後半位の青年がいて苛立たしげに眉間に皺を寄せコチラ方面を見ている。
なんだか目が合っているように思えるけれど勿論コレって所謂『いま私のこと見た! キャ~!』的な自意識過剰な事だとわかっている。私って常識のあるライトオタクだからね。
「殿下、もうそれ以上怒らないで下さい。私はハイデマリー様が謝って下さればそれで良いのです……グスッ」
やっぱりそのイケメンはどこぞの国の王子様でその横にピンク頭でべっとりねっとりくっついているのはその恋人役的な。はいはい、意地悪婚約者を只今断罪中ですね、もう何回擦ったかわからない設定のやつですけど私もお好きですよはい。
一瞬の耳鳴りで状況が飲み込めなかったけれどちゃんとついていけそうで安心した。まだどういう経緯でこの舞台を観に来たのか思い出せないけれどそれは終演後に確認すればいいか。今はせっかく安くないであろうお金を払って観に来ている舞台に集中すべしとグッと目に力を込めた。
「きゃっ、睨まないで下さいませ。ハイデマリー様」
「おのれまだエリーをその様に虐めるのか!」
殿下とやらにくっついていたエリーとかいうお嬢様が今度はゆるいウェーブのピンクの髪を揺らし足をふらつかせ抱きかかえられている。彼女を労るように優しくそっと頬をなで落ち着かせると殿下はまた私を睨みつける。
ここにきて流石にこの違和感に気づき始めた。
「何か言い分があるのなら最後に聞いてやろう」
やっぱり、私に言ってるんだ。
憎々しげに私を見ている殿下……その顔をじっと見ているとまるでスライドの様にささぁーっと頭の中に色々な場面が浮かび上がってきた。
「あっ……やらかした」
「はぁ? なんだと?」
私がつい零した言葉にダニエル殿下が眉をひそめる。
えぇ、そうです思い出しましたとも。私って前世の記憶を持っていたようですね。ラノベで読みまくっていたけれど、本当にこんな凄い場面で思い出すだなんてリアル過ぎませんか。せめてこの断罪を向かえる前とか後とかで良くない? コレってこの土壇場を自力で乗り越えるところからミッションスタートする感じ? 最悪。
兎に角、私は持っていた高そうな、いや本当に高い扇子をバサッと広げ口元を隠す。こういう所作って体に染み込んでいて結構使えるもんなんだと思いながらも今の状況を把握していく。
私こと、ハイデマリー・エデルはエデル国の第三王女。
今居るここは隣国マディソン王国で、目の前にいるそこそこイケメンのダニエル殿下はこの国の第二王子だ。我がエデル国は北方にマディソン王国、西方にギルニヤ国、東南方にアルケナ連邦国という三方を囲まれた小国で、各国にとって戦略的に重要な意味のある国である。
勿論私達の婚約は幼少の頃に交わされた政略であり契約だ。私は貴族学院を卒業し十八歳を迎えた成人後、速やかにダニエル殿下と婚姻を結ぶ為にわざわざ二年前からマディソン王国に留学していた。学院入学時、初めてダニエル殿下と対面したのだが既にその傍らにはねっとりピンク令嬢がくっついていた。
いやいやいやいや、百歩譲って学院時代だけの恋人とか言うならまだ仕方がないかも知れない。王子ったって只の男だ。本能に逆らえず恋だのなんだの盛りたい……いやまぁ、そんな事もあるでしょうよ。
でもね、それもこれも貴族学院卒業と同時に一旦修めないとでしょう。政略だよ、契約!! 国家ぐるみの、国と国の決め事なんですよ! 私だって好き好んでアンタと結婚したいわけじゃないんだよ!!
「ダニエル殿下、少しよろしいかしら?」
「なんだ、言ってみろ」
偉そうやな。お前がやらかしてんねんぞ、なんて気持ちはおくびにも出さず私は少し顔を右に傾けると努めて冷静な声を出す。
「婚約破棄は構わないのですけれど、殿下がそちらの令嬢と懇意に為さりたいからわたくしを遠ざけたくてありもしない罪状をぶちあげて責任を当て擦りたいというくだらない浅はかな理由以外の理由をお聞かせ願えますか?」
「……ふぐぅ……」
無いんかーい。っと突っ込みを入れなかった自分を褒めつつ私は手にしていた扇をピシャリと音を立てて閉じた。その音にねっとりピンク令嬢がビクッと体を震わせる。
「理由なら、あ、ありますよ。ハイデマリー様は王子を盗られた腹いせに私を殺そうと……」
「私は、この学院に入学以来貴方がどのクラスに所属していたかも知りませんし、最初に殿下と一緒にいる所を目撃して以来今日まで殆どお見掛けすることもありませんでした。殺そうとしたとおっしゃいますが私にはマディソン王家から常に監視の目がついていますので行動は勿論手紙の一部始終にいたるまで王家に管理されております。それこそ今朝の朝食は何を残したまで記録されております」
「……むぐぅ……」
まぁお似合いの浅はかカップルですこと。もういいよね。
「ではこの婚約破棄は殿下有責という事で、あぁ、もう既に知らせが走っているようですわね」
先程までこの卒業記念パーティー会場の出入り口付近にいたマディソン王家の監視の一人の姿が見えないのできっと顔を引き攣らせながら走って行ったのだろう。
「な、なに?! ハイデマリー、貴様勝手にそんな事を!」
理解力に乏しいダニエル殿下にはもう言っても無駄でしょうね。マディソン王家の監視に決まってるでしょ、私じゃ無いって。
踵を返すと私の背後を取り囲んでいた人々がスススっと左右に割れて道ができる。凄いなぁなんの打ち合わせもしてないはずなのにこんな事が出来るんだ、なんて思いながら身体に染み込んだ所作を最大限に活用し華麗なカーテシーを披露する。
「皆様、大切な卒業記念の日にお騒がせして申し訳ございませんでした。わたくしはこれで失礼致しますので後はごゆっくりとご歓談下さいませ」
そして思う存分に自国の馬鹿王子の噂を広めちゃって下さいね。
カツカツとヒールを鳴らして私は胸を張って堂々会場を後にした。後ろでおバカとねっとりが何か言ってたけどしーらない。
読んで頂いてありがとうございます。
次話も読んでみようかなと思ってしまった方はブクマ、イイね、評価を宜しくお願い致します。
かなりヤル気に繋がります。創作中の心の安寧でもあります。




