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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子


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10/15

9ー朝食

翌日、また日が高い所まで登って起きてしまったリリアンは、朝食兼昼食を食べに広間へ降りてきた。


座って料理を待っていると、ビビがあくびをしながら入ってきた。


「師匠も寝坊ですか?」

リリアンは自分のことは棚に上げてにやにやして言った。


「ああ。やっぱりここは面白い」

眠たそうだが、表情は晴れやかだ。どうやら遅くまで魔術の研究をしていたらしい。


リリアンの隣に座ると、おもむろに言った。

「リリアン。私は研究室を貰って魔術の研究をすることにしたよ。本当は一度エルフの里に帰ろうかと思っていたんだけどね、やめた」


初耳の情報が多くて、リリアンは絶句した。

(え?今なんて?エルフの里へ?)


エルフの里は人間には入れない。


「師匠······私を置いて行くつもりだったんですか」

思わず目に涙が溜まる。


「ああ。シュヴァルツならリリアンも安全だろう。だが、エルフの里は一度戻ると時間の感覚が鈍るから心配だったんだ。100年や200年があっという間に過ぎるからな」

(いや師匠、それ一旦帰られたら私死んでる)


「ーリリアン?」

室内の空気がピリリと下がった。部屋の入口にロヴェルが立っていた。


靴音を響かせながら一直線にリリアンに向かって歩いてくる。

「ー泣いてるじゃないか」


目が座っている気がする。

「誰のしわざだ?」


ものすごい形相のロヴェルと、ちょうど料理を運んできた料理長が出くわしてしまい、慌てて首を降る。


「ははは。私だよ閣下。リリアンは私に置いて行かれると勘違いしたのさ」

ビビは笑いながら言った。

リリアンはジトリとビビを見る。

(いや師匠、勘違いじゃないですよね?私を置いてくつもりだったんじゃないですか)


薄情な師匠に恨み事を言いたかったが、ロヴェルの驚きの登場で涙は引っ込んでしまった。

「師匠、人間は100年も200年も経ったら死んでしまいますよ。次からは相談してください」


「わかったわかった」と、わかってなさそうにビビは返事をしている。


ロヴェルはリリアンとビビを交互に見て、「ふむ。ならいい」と納得していた。


「公爵様はもう昼食は召し上がりましたか?」

リリアンは聞いた。何も食べてないと言うものなら、何か食べさせないといけない。まだ顔色が悪い。


「なぜそう呼ぶ?ロヴェルでいい」


「え?」

思わず聞き返してしまった。

その場にいた使用人、メイド、執事のバルトも目を見張っているようだ。

リリアンは慌てた。

「いえ、そういう訳には。身分が違いすぎますし」


「そうか?」

(そうでしょ!)


「あなたは恩人だから良い」

そう言ってリリアンの向かいの席に座った。

「軽く食べよう。スープをくれ」


リリアンは呆然と固まっている。

(え?いいの?公爵様なのにそんな距離感で)


「本人が言うなら良いんじゃないか?なぁロヴェル殿」

ビビはまだ微笑っている。

「ああ」

ぶっきらぼうにロヴェルは返事をした。


運ばれてきたスープを飲みながら、心と身体が温かくなった。

(そっか······いいんだ)













昼過ぎ、リリアンはロヴェルの部屋へ向かった。バルトに邸宅の中を好きに歩いて良いと許可を貰っているし、ロヴェルの体調も気になった。


コンコン。

「入れ」

リリアンがドアを開けると、正装に身を包んだロヴェルが立っていた。

金糸で飾りが施された漆黒のテールコートを羽織っている。

正装したロヴェルは、後光でも差しているのかという美しさだ。


呆然と見惚れるリリアンにロヴェルは首をかしげた。


「どうした?用事があったんじゃないのか?」


リリアンは我に返った。

「体調がまだ悪そうだったから様子見に······どこか出掛けるの?」


「ああ。皇城から呼び出しだ」

「えっ」

(皇城·····ロヴェルに無理難題を押し付ける皇帝がいるところ?)

「大丈夫なの?またどこか戦争に行かされるの?」


ロヴェルは少し驚いたようだ。

「なんだ、心配してるのか?戦争は今は起きてないから大丈夫だ。少し報告に行くだけで、すぐ戻る」

そう言ってロヴェルはリリアンの頭をぽんと撫でた。


リリアンは嬉しかったが複雑だ。

(え、子供扱いされていない?そういえばロヴェルは何歳なのかしら)


「そうだ。護衛を付けると言っただろう」

ロヴェルが手をスッと上げると、部屋の入口に人影が現れた。

「カインを付けようか迷ったんだが、カインは少し抜けているところがあるからな。エドガー卿だ」


部屋に入ってきた騎士は一礼した。


藍色の髪をすっきりと束ねた、騎士にしては細身の青年だった。深い緑色のきりりとしたツリ目が印象的だ。


「エドガー卿は若いが、シュヴァルツ騎士団(ナイト)では一二を争う実力者だ。剣と同時に魔術も扱える」

淡々と言うロヴェルに、 エドガーは少し照れたように笑う。


「では私は行く。エドガー卿、頼んだぞ」

「ハッ。お任せください」


テールコートを翻し去って行くロヴェルは、やっぱり遠い人に見えた。



「お嬢様、本日のご予定はありますか?」

リリアンは言われて考えてみたものの、思いつかない。

(私はこの邸宅で何して過ごそうかな)

ぼんやりと、騎士たちの怪我を治しながら暮らしたいなと思っていた。


「もう少し動きやすい服がほしいのだけど」

「それでしたら、街へ行きましょう」


エドガーの提案で、ラナを含めた数人で街へ出掛けることになった。


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