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あの日のゴキムロン

 

 ゴキムロン視点のあの日の出来事です。


 ゴキムロンは走っていた。

 声にならない叫び声を上げて、涙を流しながら。



 『フゥを刺してしまったのよ!』



 ゴキムロンの手はフゥの血で真っ赤に濡れていた。



 『何で!何でこんな事になったのよ!』


 ゴキムロンは心の中で叫んだ。


 『ワシは神の手様を取り返したかっただけなのよ!』





 

 その日の夕食。


 隣の客が袋からお金を落とした時ゴキムロンはそれをボーッと眺める事しか出来なかった。

 いつもなら神の手様が素早く反応して誰にも見付からないように服の下に隠していた筈だ。


 『?』


 ゴキムロンの頭の中はショックと疑問とラィへの憎悪が渦巻いていた。


 『あの神の手様はワシのモノなのよ!

 魔法神様だからってワシのモノを盗ってはいけないのよ!

 ワシのモノはワシのモノなのよ!

 生まれた時からワシのモノなのよ!』


 夕食が終わり宿への帰り道でも、宿に着いてからも、自室で横になってからもゴキムロンの頭の中は神の手様の事しか考えられなくなっていた。


 『どうやったら自分の元に神の手様が返って来るのよ?

 ラィは魔法神様だよ。

 でも、魔法神様も死ぬ事があったって言ってたのよ!

 ラィが死んだらきっと、いや絶対あの神の手様はワシのところに返って来るのよ!

 ラィが死んだら?ワシの力では無理なのよ。

 どうするのよ?

 エルフの力を借りるのよ!』


 

 ゴキムロンはベッドから起き上がり、みんなに気付かれないように静かに宿を出るとヒラネスに魔法石でメッセージを送った。





 メッセージを受け取ったヒラネスは直ぐにゴキムロンの待っている宿の近くの広場に手下を連れて駆け付けた。


 

 「ゴキムロン、これを持っていろ」


 ヒラネスはゴキムロンに一本のナイフを渡してて、

 「このナイフは魔法を無効化出来る。

 これを使えば防御魔法も貫ける。

 隙を突いてこれでトドメを刺せ!」


 ゴキムロンは頷くと服の中にナイフを隠し持った。




 

 

 ヒラネス達エルフとラィの戦いは想像以上だった。

 最初はヒラネス達とフゥの部屋に入って、

 「ワシの神の手様を盗ったのが悪いのよ!

 ワシの神の手様を返すのよ!」

 威勢のよかったゴキムロンだが途中で怖くなって自室に逃げ込んで扉の隙間から隠れて様子を伺っていた。


 

 ヒラネス達は魔法道具を使いラィの攻撃を防いで互角の戦いをしていた。

 ゴキムロンは自室でエルフの魔法道具で守られて戦いを見守っていると一瞬の眩しい光りと大きな音、その後から来た衝撃波で部屋の奥に飛ばされた。


 

 少しの間気を失っていたゴキムロンは起き上がると恐る恐る衝撃波で閉まってしまった部屋の扉を開る。


 

 そこには壊れた魔法阻害の魔法道具があり、その近くの椅子に座るツラナとフゥが見えた。


 奥のフゥが使っていた部屋は見る影もない状態で複数のエルフ達が倒れ回復魔法を掛けられていた。


 ゴキムロンは服の中からナイフを出して手に持つとラィを探した。


 『ワシがラィにトドメを刺すのよ!

 それでワシの元に神の手様が返って来るのよ!』


 ゴキムロンはナイフを握り締め部屋から静かに出る。

 


 隣の部屋からヒラネスの叫び声が聞こえて来た。


 「クソ!お前のせいだ!」


 ヒラネスが持っていた剣をフゥに向けて投げるのが見えた。

 フゥはそれを盾を出して防ぐ。

 

 トトトトト、ドス。


 ゴキムロンは無意識に駆けだして手に持っているナイフで立ち上がったフゥの背中を刺した。


 「返すのよ!ワシの神の手様を返すのよ!」


 「ゴキムロン?」


 フゥのその言葉にゴキムロンはヨロヨロと後退り自分の手に持っているフゥの血で濡れていたナイフを落とした。




 そのまま宿を出て走った。

 声にならない叫び声を上げて走った。

 手はフゥの血で真っ赤濡れ涙で目の前がぼやけて見えた。



 

 どこまで走っただろう。


 ゴキムロンはドンと誰かにぶつかる。

 そこには一人のエルフが立っていた。


 そのエルフはゴキムロンに大きな袋を被せると肩に担いでどこかに連れ去ってしまった。



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