三対一の対決
馬車で町を出て二日間。
町の近くと言う事もあり魔物が出る事は無く順調に進んでいた。
町の近くは地元の冒険者達が魔物を狩って食料にする事が多いからだ。
三日目の朝。
御者台でケレリスの隣に座ると注意を受ける。
「分かってると思うがここからは虫の魔物が多くなる。
気を引き締めてくれよ。」
「虫の魔物だからって何を気を付けたらいいの?」
「飛んで来る魔物もいるから上からの攻撃にも警戒を怠るなって事!」
「ああそう言う事ね。了解!」
俺はケレリスの忠告に軽く答えた。
「なんか今日のフゥ君は元気だな」
「みんなの元気が無いだけじゃない?夏バテ?」
「ああ、月代わりしてから暑いからね。
ゴキムロン以外は食欲も落ちてるし。
こう言う時は食欲の湧く物が食べたいね!」
「例えば?」
「シザトの唐揚げとかアトンの炒め物とかバンプの煮付けとか」
「いやいや、それ全部、虫じゃないか!」
「それはそうだろう。この辺りの特産品で栄養も多くて美味しい!」
そう言うとケレリスは馬車を出発させた。
今日の俺は御者台では無く馬車の屋根の上にいて警戒態勢を集中して最大限にしている。
ケレリスが気付く前に全ての魔物を遠距離から火魔法で跡形も無く片付けていく為だ。
お昼休憩の後の午後も俺は馬車の屋根で過ごし今度はホチネに気付かれ無い内に魔物を片付けていく。
日が沈み、夕食の時間になってケレリスがおかしな事を言い始める。
「今日は、一匹の魔物にも襲われて無いのはおかしい!」
「そんな事無いよ。襲われてたよ。
俺が見つけて魔法で倒してたから」
「それなら素材の回収は?
倒した魔物の素材を放置して来たのか?」
「そんな事無いよ。ほら!」
俺は袋から魔物から獲った魔石を出す。
「魔石だけか?他の素材は?」
「いやー、ちょっと火魔法の練習がしたくて素材は燃えちゃった。ヘヘ」
「火魔法の練習?
フゥに魔法の練習なんて必要かな?
なんか怪しくない?」
ホチネの言葉にみんなの視線が俺に集まる。
「あ、あ、怪しくないよ!
海では火魔法の効果が薄かったから水場でも使える火魔法の研究だよ!」
「水場でも使える火魔法の研究ね?
フゥは風魔法も水魔法も土魔法も使えるんだからわざわざ水場で火魔法を使わなくてもよくない?」
「そんな事無いよ。水場での火魔法は大事だよ!
例えば風が強くて風魔法の威力が弱まってる時とか。
それから………火魔法以外封印されたりとか?
とにかく練習は大事だから!」
俺の無茶苦茶な言い訳にみんなの不信な目は続いていたがその日はそれ以上何も言う者はいなかった。
次の日。
なぜか荷台には馬車を操縦するツラナ以外がみんな乗っていた。
「どうしたの?みんな。
俺が魔物を見張っておくから荷台で休んでていいよ」
「いいや。私もたまには魔法の訓練をしておかないと何があるか分からないからね。
フゥ君に負けないように魔物を倒して行くよ!」
ケレリスは俺の横に陣取る。
「あたしも魔法の練習だから!」
ホチネは俺の前方に位置取りをしている。
「わしもいち早く魔物を見つけて今日は美味しい虫料理を食べるのよ!」
ゴキムロンもケレリスの反対側で凄い気迫を見せる。
『コイツら!俺のいない所で話し会いしたな!』
三人は俺に不適な笑みを見せると俺を取り囲むように位置取った。
『俺に何もさせない気だな!
そんなんで俺の魔法が止められるかな!』
俺は昨日にも増して魔物の気配に集中した。
「アー!またやられた!」
「嘘!いつの間に!」
「ああ!わしの方が先に見つけたのによ!」
「へへへ!俺の方が早かったね!」
「アッ!今のはずるい!あたしの方が早かった!」
「そんな事無いよ。俺の魔法の方が早く当たったし」
「あたしの方が早く魔法を放った!
フゥの魔法はそれを抜かして行ったのよ!」
「魔力の違いかな?ハハハ」
「ムカつく!次は、絶対負けないから!」
ホチネは常に大きな魔力を貯めて魔物の気配を探り出した。
お昼休憩を挟み午後も荷台の上では三対一の攻防が続いた。
「わしでは適わないよ!
美味しい料理が食べたいのによ!」
「ああまた!私とした事が!
これは本格的に魔法の訓練をしなければエルフとしての沽券に関わる」
「アー!もうー!接近戦なら負けないのに!」
ホチネが睨んで来るが俺はそれを笑顔で返す。
「次は絶対!負けない!」
夕方。
疲れきった三人と笑顔の俺が今日の夕食当番のツラナの料理を待つ。
「三人掛かりで勝てないとは」
ケレリスはエルフとして魔法で負けた事にショックを受けている。
「明日こそ負けないから!」
ホチネの負けず嫌い本物のようだ。
「美味しい料理が食べたいだけなのによ」
ゴキムロンは悲しそうにつぶやく。
「出来ましたよ。アトンの炒め物です」
「エッ!」
俺は言葉を失った。
「さっき御手洗をしに行った時、近くにアトンが二匹いたので夕食に丁度良いと思って捕まえたんです」
ツラナは笑顔で答えた。
「やったよ!美味しそうよ!」
ゴキムロンは嬉しそうにアトンの炒め物を頬張る。
ホチネとケレリスはこちらをチラチラ見ながら、笑顔で食べ始めた。
「フゥ君も食べてくださいよ。美味しいですよ!」
ツラナは悪そうな笑顔でアトンを取り分けて俺の前に置いた。
俺は目を瞑りそれを口に入れる。
「…………ああ、以外と美味しいかも?
ウァー!」
俺は歯に挟まったアトンのどこか分からないナニかを口から吐き出して叫び声を上げた。




