35
扉の先は小さな小部屋がいくつも列なったような通路の一番奥にあたるようだった。
小部屋と小部屋の連結部の壁が一部開いていて、結構先まで見渡せる。
もっともカティに確認できるのはその上半分程だけで、下部は通路を埋めるツインウルフの身体に邪魔させて見えなかったが。
通路を埋め尽くすその数およそ50近く。
先ほどの部屋と違い岩壁には所々に緑色に光る苔が生えているおかげで、その姿がしっかりと見えてしまう。
見えない方が幸せだったかも知れないな、とカティは諦めにも似た思いを抱いた。
さすがに死以外の未來は想像できない。
へたりと力が抜けて、扉を背に座り込んだカティに牙をむき出しにしたツインウルフが跳びかかろうと身体を縮める。
『こりゃダメだな』
頭の中に佑樹の声がした。
俺が死んだら佑樹も死ぬのかな?とぼんやり思って、あれ?となった。
知らぬ間に泣いていたのだろう涙に霞む視界の先で、何故か奥の方にいるツインウルフたちが宙に浮いている。
それも自分で跳び上がったというより跳ばされた感にひっくり返ったりしながら。
「頭を下げて下さい!」
聞きなれた声に、反射的にカティは頭を抱えて小さく踞った。
その頭上で今にもカティを切り裂かんと跳びかかってきたツインウルフの首二つと前足が胴から離れる。
ぐるりと円を書くようにしなった刃のムチはそのままカティに跳びかかろうと宙に浮いていた他のツインウルフの首や胴も真っ二つにして間を置かず周囲のツインウルフたちもびゅおんと音を立てながら凪ぎはらっていく。
切り口が鋭いためか僅かにタイムログを発生させて血を吹き出すツインウルフの隙間から、ピンク色の頭が見えた。
「フラウ!」
「ご無事ですか?ご主人さま」
その間わずか1分あるかないか。
30体程のツインウルフを殲滅してみせたフラウは無事に生きているカティにニコッと笑い、蛇咬剣に付いた血を軽く振って落とした。
全身返り血で血塗れの幼女・・・ちょっと怖い。
奥の方でいまだ残ったツインウルフをぼっかんぼっかん跳ばしてる月の輪熊も見えるんですけどあれってもしかして・・・。
5分後。
通路内のツインウルフを全滅させ、何かのスイッチが入ったらしいフラウが「全然もの足りません!」と言ってついでにとボス攻略に向かってしまった後始末をカティは今魔物が来たらヤバイなとびくびくしながら行っていた。
後始末といっても、死骸や血はすぐにダンジョンに吸収されるため、残ったドロップアイテムを拾うだけである。
数が多かった分、魔石や爪、中には肉の固まりも落ちている。
地球のスーパーで売られているようなブロック肉がぽつんと転がっているのだ。
鑑定して見ると、ツインウルフの霜降り肉と出た。
あとでステーキにして食べることにする。
通路だけでなく奥の部屋もなので、なかなか範囲が広くて一人では大変だ。
月の輪熊(どうやらテディだったらしいが、何故デカクなっていたのかはまだ聞けていない)もフラウに付いていってしまったので一人でうろうろ拾い歩く。
すでに魔石は10個以上。
お金の心配はなくなったが、とりあえず一人は不安なので、早くフラウたちに戻ってきてほしいものだ。
ボスの元へ続く扉の向こうからは一方的な魔物の悲鳴が聞こえてきていた。




