14話:檻の中の少女
「え……ッ」
目を見開き、瞬きを繰り返す。しかし、悟られまいとしたのか、すぐに目をそらした。
「……、そんなことありません。こういう勝負は、前から一度、やってみたかったんです」
「嘘」
彼女の言い分を、僕は即座に否定した。
「雅華ちゃん、戦っているとき、とても楽しそうな顔していたよ。そりゃ、戦うのは楽しいもしれないけれど。だけど、僕がさっき引き留めたときの、雅華ちゃんの悲しそうな顔。あれは明らかに、敗北への悲しみではなく――別のことで悲しんでいるように、僕は思えたんだけどな?」
例え、敗北をしたとしても、辛そうな表情は、よっぽどのことがない限り浮かべないはず。それはもしかしたら、戦いの最中に何処かに怪我を負い、それの痛みに耐えかねる表情だったかもしれないが。
だけど。僕はそうは思わないんだ。そして、すぐに背を向けたあの行動。あれが、決定打となった。
僕が指摘すると、彼女は暫く目を泳がせていた。……やがて、観念したように、雅華ちゃんは首を横に振った。
「……その通りです。あと、雅華で良いです。確かに、戦うのはとても楽しかったです。あの時は、自由になったようで」
溜息と共に、ぽつりぽつりと語り出す彼女。
「自由……? それって一体、どういうこと?」
眉を寄せて問うと、彼女は何故か、僕を軽く睨み付けてきた。
「それは、あなた方には関係のないことです。……私はもう、帰らなくてはなりませんから。きっと、今頃――」
「関係あるよッ!」
僕は思わず、その場で勢いよく立ち上がる。それに対し、雅華は驚いたように体を震わせた。
「確かに、関係のないことかもしれない。でも、僕にとっちゃあることだよ。だって、僕らは悩みを解決する何でも屋。君は依頼人。この関係が成り立ってしまった以上、その悩みを聞かない訳にはいかないよッ!」
「その通りだよ。……その悩みは解決できるかは別だけどね。でも、誰かに話すことで、楽になることだってあるんじゃないかな?」
岳も僕の意見に同意してくれる。確かに、赤の他人だけれども、……それでも。
何かしらの、解決方法を与えることが出来るかもしれないから。
だからお願い、僕たちに話して。祈りながら座った。
雅華は口をポカンと開け、呆気にとられていた。もしかして、呆れられちゃったかな……? そう心配していると、再び観念したような表情を浮かべた。
「……解りました。私は、全く自由ではありません」
そして、苦しそうに話してくれた。
「私の家は、確かに少しお金持ちです。家にはメイドや執事、さらにはボディーガードまでがいます。鬱陶しいのが、このボディーガードなんです。いつも私の傍にいて、1人にはさせてくれません。部屋にいるときだって、ドア前にずっといます。外に出るときも、必ず1人はつきまとってきます。……すごく、すごく邪魔なんです……!!」
嫌なことを思い出したのか、雅華は両手で顔を覆う。
「そこで、私は誰にも内緒で、家出をしてきました。1人の時間を、自由を求めて。そこで、ここを見つけました。何でも叶えてくれるというので……本当はこのことを相談したかったんですが、流石に無理だと思いました。ですが、代わりに戦いを申し込みました。……とても、楽しかったです。今までの嫌なこととか、全てぶつけて。……まぁ、負けてしまいましたが」
覆っていた両手を胸元へとわずかに移動させながら、自嘲気味に話す雅華。
……大体、理由はわかった。そして、先ほど遮ってしまった言葉の続きも。
”きっと今頃、ボディーガードの皆が私を探しているかもしれませんから”
それがきっと、彼女の言いたかったことだろう。




