災厄の前夜:隠れ家
アリスは、武器に名前を付けるという些細な趣味がある。人殺しに明け暮れると、たまに生きてることに嫌気がさす時がある。そういうときは、自らが使う武器の整備を行うと何故か心のもやが晴れる。それに気付いた時から、持っている武器に名前を付けるようになった。
背中にある二振りのロングソード、黒い方が《ノックス》で、白い方が《ルーメン》。足元などに隠している投げナイフは《ミーレス》。先ほど使ったサイレンサーを装着したハイキャパシティガバメントは《モルス》と名付けた。
全てラテン語で、闇、光、兵士、死神という意味らしい。
アリスは近くの空き家に入ると、周りを見渡し、置いてあった冷蔵庫の中を見た。何故か電源は入っており、中には水の入ったボトルと果物、野菜と肉もぎっしりと詰まっていた。
思わず溜息をついたアリスは、携帯を取り出して電源を入れると、ある番号に電話をかけた。
「ベース3に到着」
『もう着いたか。住み心地はどうだ?』
「まぁまぁね。……この任務が終わったら余った食材全部隠れ家に送ってもらえる?」
『そうか、気にいったんだな』
「……えぇ。で、武器は」
『そう急かすな。ベッドの下にある。今回は狙撃だ』
アリスはベッドの下に行き、大きな金属製のケースを引っ張り出す。
「狙撃、となると、重要人物の暗殺?」
『あぁ。しかし、ただの暗殺ではない』
「こっちに来る仕事だから相当辛いと?」
『だな。今回の暗殺対象は、大陸軍の大将である《モース》だ』
一瞬の沈黙。だがアリスは、出来るだけ表情を読まれないようにしながら話を続けた。
「モースというと、あのサムライ豚か?」
『ひどいあだ名だな。まぁそうだ。狙撃にした理由は、見せしめの為だと言っておこうか』
「了解。詳しい情報を後で送ってくれると助かる」
『分かった。そちらに置いてあるPCの方に送っておく』
そこで、電話は終了した。
まずアリスはベッドの横にある机の上に置いてあるノートPCの電源を入れ、その間に金属製のケースをベッドの上に置く。今まで着てたパーカーを脱ぎ、その辺に放ると、持っていた武器をベッドの上のケースの裏に置いた。
そしてシャワールームに入ると、下着も全て脱ぎ、シャワーで汗を流した。
少し広めのシャワールーム、入り口の近くにある台の上には、替えの下着とフェイスタオル、それに、いつも持ち歩いている投げナイフ《ミーレス》を一つ置いている。
目を瞑り、心地よい温度のお湯を浴びながら、心の中に溜まった何かを洗い流す。それは殺された人間の家族や友人、恋人といった周囲の人間の悲しみや憎悪だ。普段は全く気にしていないが、実はアリスの年齢は16歳、本当なら学校に行って、友達と遊んで楽しく暮らせる時期だ。
不意に、空き家の入り口に気配。アリスは襲撃と判断し、シャワーを流しながらシャワールームの入り口にある台の上からミーレスを取った。
その瞬間、ドアが蹴破られる音が聞こえた。足音から、敵は3人。
投げナイフとはいえ、ミーレスはちゃんと普通のナイフとしても使える。逆手に持って洗面所の角で待ち伏せる。その間に、洗面台の下を探ると、驚くことに武器が隠されていた。大型のコンバットアックスだ。
「お前は荷物を盗め。俺らはそこで呑気にシャワー浴びてる女を犯してから殺す」
思わず噴き出しそうになる。洗面所に足音を殺して入ってきた2人は、屈強な男だったが、手には何も持っていない。武器は腰にある拳銃だけだ。
まだ気付いていない。アリスは動いた。
まず後から入ってきた男の首筋をミレースで掻っ切る。すぐに反転し、その勢いでコンバットアックスを振るうと、もう1人の男の脇腹を思いっきり裂いた。さらにミレースで心臓を突き刺して息の根を止めると、アリスはそのまま廊下に出てベッドのある部屋に向かった。
「どうした……!」
部屋にいた最後の男は、アリスを見て目を見開いた。そこでアリスは、全裸だったことに気付くが、そこで恥じることは無いと思いなおし、一気に距離を詰めると、男の襟首を掴んで鳩尾に膝蹴りを入れ、そのまま投げ飛ばす。廊下に転がった男が起き上がった瞬間、アリスはベッドの上に置いてあったケースの後ろからモルスを取り出すと、そのまま引き金を引いた。アルミ缶を潰すような音と共に、男は脳漿と血を撒き散らして絶命した。
終わったと思い、溜息を吐いたアリスは、携帯を取り出そうとする。だが、蹴破られた入り口のドア周辺から、尋常じゃない殺気を感じられた。そのままモルスを構えたまま、アリスは洗面所まで後退した。
音もなく、殺気が動いたのをアリスは感じ取った。先ほど殺した3人とはわけが違う。だが、この殺気には心当たりがあった。
「……紅蓮、なのか?」
恐る恐るそう言うと、殺気はすぐに収束した。
「アリス、無事か?」
「当然でしょ。ちょっと待ってて」
2つの死体が転がる洗面所の先にあるシャワールームから下着とタオルを取ると、下着を着用してタオルで体に着いた血を拭きとった。すると、黒い戦闘服を着用した男が近づいてくる。そしてアリスの姿を見た途端、その男は溜息を吐いた。
「お前、全裸でこいつら殺したのか?」
「……そうするしかなかったから、仕方がないでしょ」
少し顔を赤らめながら、アリスはそう答えた。




