二度目の人生は辺鄙な村の出から!
拝啓、もう顔も覚えていない父上母上へ。
まずは先立つ不幸をお許しください。
いやお前らのせいで俺が無用の借金を背負わされてこうして天涯孤独のまま世を去ることになったんだけどな?
俺は絶対にお前らを許さないが、このまま俺が生きていても借金取りに追われながら地獄のような人生を送ることになるので仕方なく飛び降ります。
この遺書を読むことはまずないでしょうが、一言だけ添えさせてください。
くたばれクソども
溝乃口 幸太郎
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そう遺書に書き残して揃えた靴の下にそれを仕込むと、俺は橋の上から躊躇なく飛び降りた。
未練もない、残す者もいない、心残りなんて読みかけの小説の続きがまだ出てないことくらい。
借金だらけで首も回らない、あと数年で過労死するであろう生活。なら少しばかり早くなってもいいと思うのだ。
「さらば、俺の自由なきクソ人生──!」
できれば来世では自由気ままに生きられたらいいのに、なんて願いながら。
俺は頭からまっすぐに川の水面へと飛び込み……死んだ。
溝乃口 幸太郎、享年21歳。地獄の62連勤を終えた直後の出来事である。
◇
「うわぁぁぁぁぁぁ!!?」
という21年分の悪夢(前世の記憶)を見せられて飛び起きたそこは、春の日差しの差し込む寝室であった。
「ちょっと幸也ぁ? なぁに今の悲鳴。……まさか夢精でもしたのぉ?」
「してないから! 普通に悪い夢見ただけだから!」
「じゃあおねしょ?」
「しねぇよ!! もう9歳だぞ!!」
「まだ9歳なんだけどねぇ。起きたならユメも起こしてお布団干してくれる?」
「はいはい、分かったよ……。ほらユメ、起きろ。朝だぞ」
「んむぅぅぅぅ……」
母さんに言われて寝坊助の妹の肩を揺すり、掛け布団を抱き締めて離そうとしない妹を無理矢理に引き剥がす。
文句を言いつつも頭を撫でてあげれば言うことを聞いてくれるので楽な妹だ。
あとは家族の分を布団を外へと運び、予め敷いておいたゴザの上に広げれば終わり。
「ふ……前世の記憶を思い出したところであまり変わらんなぁ」
どうやら俺……牧瀬 幸也は別世界からの転生者らしい。
理由は今しがた夢で前世を追体験したから。
一晩で見るには濃厚過ぎる夢だったが、化学だの日本史だのブラック企業だのと、あまりにも文化レベルがかけ離れているのに破綻が一切無かったのがその証拠だ。
それに夢では年号を『西暦』や『令和』と表していたが、こちらの世界は『光暦』や『ジパンニア歴』となっている。
我らの国、ジパンニアは建国より数えて今はジパンニア歴1550年だそうだ。ジパンニア歴ってなんだよ光暦で統一しろよ。
天皇様と呼ばれる雅なお方がいらっしゃるのは共通らしいが、夢の知見で言うなれば今いるこの世界はどうみても江戸時代とか安土桃山時代とかその辺り。その天皇様が建国より一度も没していないからジパンニア歴は今なお続いているらしい。うーんファンタジー。
まぁ俺は生まれてこの方、この寂れた村から出たこともないから、詳しいことは分からないんだけど。
年に数回通る冒険者パーティの吟遊詩人が語って聞かせてくれる内容を真実だと思うしかないのが実状だ。
何せ村の外、というか森や山には魔物と呼ばれる生き物が住み着いているらしく、鍛えた大人が複数人でパーティを組まなければ村から村への移動すら困難だという話で。
だから子供である今の俺は村の外に出れたとしてもすぐ側の畑まで。兎狩りに林の中に入ることすら禁じられている。
各国の大名様が国の治安を守るために騎士団や冒険者を派遣して街道沿いの魔物は駆逐しているらしいけど、詳しいことはよー分からん。
「ま、ここが日本風の『剣と魔法のファンタジー』であることが分かれば十分!」
魔物が存在して、人間以外の種族もいて、魔法があって。
そして俺は前世の記憶を持つ転生者。約10年生きた俺の人格を塗りつぶすほどの主体性は前世の俺には無かったみたいだが、それでも知識と記憶は十分に利用価値がある。
「やれる、やれるぞ俺の夢! 俺の野望! 人の業!」
この日ノ本……ではなくジパンニア男児として生まれたからには一度は夢見る“成り上がり”。
名を上げ、富を集め、力を誇示する。そしてゆくゆくは大名に仕える武士や騎士、なんなら更に上を……大名を目指すのだ!
「その為の下地は我が手にあり……。10年も気付かなかったが、前世の俺はきっと女神様に出会い素敵な“チート能力”を頂いているだろうっ!」
前世の記憶は死んだところで途絶えているが、思い出せたのならばきっと何かはあるはずだ。あって欲しい、でないと今の俺が馬鹿みたいなので。
「さぁ、出でよ我が能力! 最強への道を示したまえ──!」
何を貰ったか、どころか本当に貰っているかも分からない能力。それでも何かないと、俺は勢いよく腕を前へと伸ばす。
一応何もない方向へ向けてね? これでいきなり炎とか破壊光線とか出たらこんな村簡単に滅ぼしちゃいそうなので。
そんな言い訳を自分にして、力むこと30秒ほど。
しかし、というかむしろ順当というか。
伸ばした腕の先からは何も出ていく予兆はない。
スカ、だ。
「……ま、そうだよなぁ………」
そんな都合のいい話があるわけないのだ。
そもそも前世で自殺した人間が転生した程度でチート能力を貰おうなんてのが烏滸がましいのかもしれない。
「あーあ、単に思い出しただけで終わっちまうよ、溝乃口 幸太郎さん」
別世界の二十年分の知識と記憶に使い道があるかは分からないが、少なくとも今の俺が苦手にしてた算数は理解できるようになった。
平民の出で高等教育を受けられたと思えば有用だろうか。
後はせめて何か特技でもあってくれたら……なんて、そんな高望みをしていた時だ。
「おや……?」
先程伸ばした腕の先。指に何か引っ掛かる感覚がある。
それはツマミのような、ハンドルのような……。掴んで捻れば何かが出てきそうな、そんな感覚。
この感覚は前世で覚えがある。
「ガチャッガチャッとギアを捻るこの感触……カプセルのアレか!」
そうイメージすれば目の前に浮かび上がるのは薄ぼんやりとした懐かしのカプセルボックス。俺は今、その内の一台のハンドルを掴んでいるらしい。
もしかしてこれから能力の厳選を行うのだろうか? 能力がガチャの結果で決まるというのもなんだか……いや、皆まで言うまい。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦……」
いざ、初捻り!
お金などを入れる必要もなく、グルリと回るハンドル。
ガチャ、ガチャ……ゴトン、と。
手馴れた感覚と共にカプセルが転がり出て、代わりに薄ぼんやりと見えていたボックスは霞のように消えてしまった。
「案外普通というか、マジで玩具じゃないだろうなこれ……」
何一つ特別感のない手応えに不安になりながらも、とりあえず出てきたカプセルを両手で掴む。
中身を見てみなきゃどういう物かも分からない、もしかしたらレアモノが当たったりして……と淡い期待を抱きながらカプセルを捻ると、ポンッという軽い音と共にカプセルが消失。代わりに手元に現れたのは……。
「……な、なんじゃい………?」
それは到底小さなカプセルには入り切らないであろう物。
ハッキリと言えばそれは『竹刀』であった。
「……」
試しに振ってみる。決して重いわけではないが、身体がまだ子供だからか数回で疲れてしまった。
それから前世の記憶頼りに構えてみたり突いてみたり振り下ろしてみたりと色々してみたが、特に何か起こるわけでもなく。
ただめちゃくちゃ疲れるという事だけしか分からない。
「……え、もしかして大外れ?」
早くも挫折しそうな野望を胸に、俺はガックリと膝から崩れ落ちることしかできなかった。
皆さんはじめまして、こんにちは、お久しぶりです。
桜椛牡丹と申します。
こちらはなろうの夏休み企画に合わせて毎日投稿(と言っとも最初は五日間だけですが)を行います。
初の異世界ファンタジー作品になりますが、どうか長い目でお付き合いくださいませ。




