依頼(1)
『ようこそ、リベルタへ!』
獣人島での事件から約一ヶ月。宵闇とラグはフェルグランド首都・リベルタに来ていた。
頭上から響く通信音声の歓迎を聞きながら、他の大勢の渡国者や別の街からの人々に混じって移動塔を出て、出口すぐの石造りの審査門の門番に渡国証を渡して門をくぐる。
「リベルタ来たの何ヵ月かぶりだけど、あいっ変わらず凄え人の多さだなー」
人混みに押されるように街へと踏み込み、周りを見ながら宵闇が呟く。
「ああ。さすがフェルグランド随一の都市!
オレらも折角来たんだし羽伸ばそうぜ」
「お前なー……
遊びに来たって訳じゃねーぞ」
紺髪の友人に念の為釘を刺すと、「わーってるよ」と軽い返事が返って来た。
「でも依頼主あいつだし、ちょっとでも話が違うようなら即トンズラだって、翼島出る前に決めたじゃねぇか。
てか、お前最近硬くねえ?王子様のが伝染ったか?」
「まさか」
喋りながら並んで広い石畳の上を歩く。
呼び込みをしている商店や、ボールや火の点いた棒を使って芸を見せている軽業師の前を通りすぎ、頭の中の地図を頼りに目的の場所に向かう。
宵闇もラグもこの都市には仕事やちょっとした用事で何度か来たことがある。
足を止めたのは、待ち合わせ場所である大きな時計が真ん中に立っている広場。
そこに集まる大勢の人々の中から、会う約束をしていた人物を探していると、声が後ろから掛けられた。
「ごめんごめん。君達の方が早かったみたいだね」「いや、俺達も―……」
聞き覚えのある人物の声に振り向いた宵闇とラグの動きが止まる。
「? どうかしたかい?」
約一ヶ月ぶりに再会した茶髪緑眼の青年、第二翼島の幻将フェリオン=ランドルは、不思議そうに自らに向けられるニ対の呆れた視線に疑問を返した。
旅人の服装。前は腰に下げていたニ本の短剣が見当たらない。
そしてその手には、味付けした大きな豚の腸詰めに棒を刺して焼いてある、フーク(軽食と言うかおやつの部類)が三本握られている。
どこをどう見ても、ついさっきまで買い食いしていた体である。リークが見たらさぞ「幻将の自覚がない!」と嫌な顔をすることだろう。
「あんたせめて武器ぐらい持っといた方が良くないか?」
ラグは無言で白い目を隠そうともしない。
「大丈夫大丈夫」
フェリオンは気楽すぎる様子で笑いながら、持っていたフークを宵闇達へと差し出した。
「ぴりぴりしてても始まらないさ。君達とも無事に会えた事だしね。
取り合えず昼御飯がてら話をしよう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「美味くて安い、良い店知ってるんだ」と、案内され、着いたのは大通りから少し外れた道の一角にある飯屋『ヴィオラ』だった。
漆喰の壁に木枠の窓ガラス、木の床と同じ焦茶のテーブルと椅子が並び、それを天井から吊るされた明るいランプの光が照らす落ち着いた内装。
広くもないが、狭くもない。
予約してあったのか、それなりに人が入っているにも関わらずすんなり奥の席に通された。
フェリオンと向かい合う形で宵闇とラグが座る。
茶髪の青年に水を注文された、ブラウスとスカートにエプロン姿の女性が、店の厨房へと消えていった。
三人はしばらく無言でメニューをながめる。
さっき貰ったフークは既に胃の中だが、昼御飯は食べていないのでまだ腹が減っていた。
水を運んできた先ほどと同じ店員に、「注文いいですか?」と宵闇が声をかける。
宵闇は鶏のローストを中心にスープとサラダとライスが付いた定食。
ラグは牛肉スライスの鉄板焼とサラダ。
フェリオンは牛のステーキに宵闇と同じようなサイドが付いた定食をそれぞれ注文した。
暫くの沈黙。
それを破ったのはフェリオンだった。
氷の入った水を一口飲んで、口を開く。
「さてと……
君達を呼んだ理由だけど、大体はバークオルド氏に送った投影水晶に入れてあっただろ?」
「ああ」
応えたラグが面白く無さそうに腕を組む。
「まさかあんたが、前に一回会っただけのオレらにギルド通して依頼してくるとは思わなかったぜ」
「島じゃなくておれ個人の事だからさ、公式文書で仰々しく頼むなんて面倒くさいし目立つ。
君達の腕は前に一度見せてもらってるから信頼できるしさ。
本当ならリークもと、少し考えてたんだけど」
苦笑する茶髪の青年に宵闇が「あー……」と宙を見る。
「あいつ、島外への出国禁止食らったらしいぜ」
「そうなのか?」
「ああ。
前の件で俺とリーク動かしたのが、どうもあの旦那の独断だったみたいだ。術で塞げはしたけど、無傷って訳にはいかなかったからな」
運ばれて来た料理にナイフを入れつつ、ラグに説明する。
「で、『国を守る者が外へ出て怪我をしてくるとは何事だ!!』とかなったんだってよ。
本当は獣人島にも様子見に行きたいけど、暫くは島の外出れそうに無えって」




