決心
再び石窟の中が賑やかになり、しばらく後。
皆疲れていた事もあってか賑やかさが次第に静まっていき、酔いつぶれた獣人の寝息やいびきと置かれている松明のはぜる音が響く。
「?
嬢さんまで寝ちまったのか」
「ああ」
脱いだマントを片手に引っ掛けて近付く宵闇に、リークが頷いた。
「我々が来るより何日も前から被害を止めるために必死で動いていたのだろう。
体の丈夫なディーラ達でも疲れるさ」
自分の肩に頭を預けて、あどけない顔で寝息を立てるディーラを見て優しく微笑む少女を、その場に座った青年が黙って見つめる。
「へー……」
「何だ?」
「お前のそんな顔、始めて見た」
「そうか?」
「普段怖すぎだろうが」
「そんなに怒らせたいのか?」
いつもの、無表情に少し不機嫌さを混ぜた顔で睨んでくるリークに「そうじゃねえって」と宵闇は返す。
「勿体ねえんだよ。
ま、ここだからそんな顔できるんだろうけどさ。
良いとこだよな。こーゆー景色も、住んでる奴等がって意味でも」
「ああ」
少女の目線が下を向いた。
「良い所だ。住んでいたいと思った事すらある。
だが、常に『騙している』事が頭から離れなかった。
恥ずべき事だが正直、彼女を助ける為に己の正体を晒せと言われた時に迷ったのだ。
彼女やこの群の者達が私へ抱いてくれていた信頼や親愛を裏切る事になりはしないかと」
「杞憂だったって訳だ」
宵闇の言葉に少女は「ああ」と目を伏せて笑った。
「さっき『お姉様と呼んでいいか』と訊かれた時はどう答えたものかと思ったが」
「お前がお姉様!!」
その図を想像して青年が腹を抱える。
「好かれすぎだろそれ!」
「笑うな!
だが、前とは違った気持ちで彼女達と関わって行けそうな気がする」
「そっか」
「お前はどうなんだ?
この十数日、ずっと中途半端な気持ちでいただろう?」
「バレてたか」
少し口をへの字に曲げ、宵闇は自分の膝の上で頬杖をつく。
「遺物の事、真剣に関わってくつもりだ」
月の瞳が虚空を睨んだ。
「リークも気付いてただろ?
朔姉、誰かに門の事聞いた様な言い方だった。
ろくでもねえ事吹き込んだのがいるはずなんだ。
探さなきゃなんねえ。
後ろにいた奴も、朔姉の言ってた俺への恨みの中身も。三年前の事も。
遺物追ったら出てくる気がする」
言い終わると、自分をじっと見るリークと眼が合った。
「何だよ」
「そんな顔もできるのだな」
「何が?」
「覚悟を決めた者の顔だ。
優柔不断で流されるに任せては、切迫詰まって必死になる所しか見ていなかったからな。
本当にお前は強いのか弱いのか解らん」
「言葉に遠慮ってのが全然ねえよな。お前……」
「当たってるけどよ」と宵闇が少し憮然とし、しかしすぐに真面目な顔に戻る。
炎の光を柔らかく先反射する岩壁の上、空いた穴から覗く星空を見上げた。
(思い出さなきゃなんねえ。それがどんな事だろうが……二度とこんな事にならねえように)
〈第三章 完〉




