終幕(3)
「昨日はお疲れさま」
翌日。そう言って客室に入って来た男を2対のじと目が迎えた。
それプラス、男の背後には激烈な射殺さんばかりの視線が刺さっている。
「やあ、機嫌悪そうだね。
もう少しその刺々しい敵意を緩めてくれると嬉しいんだが」
宵闇とラグが口に手をあてつつ、聞こえるように会話する。
「誰のせいで疲れたと思ってんだろーな」
「ホントだぜ。刺されないだけましだと思えってんだ」
「自分のやった事だけ記憶喪失になる病気か何かか?あいつ」
「言えてら。
国民や家族を脅したり嵌めたり、命の危険に判ってて放りこんだり、しかもそれをニコニコしながらやるってのはあんま無ぇもんな」
「それぐらいにしておけ」
不敬罪で捕まりそうな会話を止めたのは、アスベルではなくリークだった。
「それとほぼ同じ事を昨日私が言った。
この馬鹿兄はその件の言い訳をしたくて来たそうだ」
眉間に皺を寄せたままそう言って、近場の壁に背を預ける。
「言い訳、ねぇ」
アスベルは無言で空いている椅子を探して腰掛け、どこからか読めない文字がびっしり書かれた包みを取り出した。
静かに、机の上に置く。
「これが、今回の事の発端になったんだ。
ロスト・フラグメントの一種だよ」
包みの中から出てきた物に、二人とも揃って顔をしかめた。
ボロボロに傷つき、どす黒く変色した人の手首から先。
その中にひしゃげた金属質の何かが見えた。
「元々、徒人の島で見つかって封印されていたものでな。それが奪われて悪用されたんだ」
うんざりした様にリークが続ける。
「何の用途で造られたのかは知らんが、あの異形どもはコレが原因らしい。
破砕の力を10回ほど当てて、やっと機能を停止した」
「あれを10回!?こんな小さいのがか?」
「すっげー頑丈・・・」
「しかも困ったことに」
アスベルの苦笑混じりの言葉に視線が集まる。
「困ったことに?」
「それ、単なる破片のようなんだ」
「は?」
ラグが横で針を使って黒い指の部分を剥がした。
「本当みたいだぜ。
何かから折れた突起みたいな形してやがる。
これだけであのグロい奴らを造ったのがマジなら、確かに放っておける代物じゃねぇな」
「その通りだよ」
肯定するアスベルに、ラグは冷めた目を向ける。
「だからって、オレらを巻き込んだ理由にはならねーよ。
それこそ幻将集めて対処すりゃあいい」
「それは」
言い掛けたリークの言葉を宵闇が視線で止めた。
「ラグ、お前も見ただろ。
俺がやった壁、あれが多分理由だ」
頭痛をこらえるように額に手を当てて深く息を吐く。
「俺がロスト・フラグメントとやらの力使ってることを、あんたは何でか前から知ってて目を付けてた。
んで、リークが襲われた件で俺を遺物持ちとして自覚させて引っ張り込む工作を思い付いた。
リークには『探査』逃れであの遺跡に向かうように小細工して、俺には嘘付いて脅して本気で戦うように仕向けたって所だろ。
実際目論見は大当たりで、あの壁作る力を俺は得たってワケだ」
得ておいて何だが、はた迷惑な話だ。
「そんな厄介なもん、俺は持ってたつもりは無いけどな」
「セイン家の者しか読めないようにしてある秘蔵の書物にも殆ど記述のない、形の判らないものだからね」
アスベルが顎に手を当てる。
「うんと小さい時に間違って飲み込んだ何かかもしれないし、もっと言うなら遺伝の可能性すらある。
どちらにせよ、見えない以上身体の中だろうね」
「・・・・」
そんな物をいつの間にか身体の中に入れていたかと思うとゾッとするが、今さら言っても仕方がない。
「事情はわかったがやり口は気にいらねー」
ボソッとラグが呟くと、リークが深く頷いて同意した。
「すまない。この男のどうしようも無い性格の悪さは私から詫びておこう」
「・・・あんたには心から同情するわ」
ラグが半分呆れた様に言った所で、言葉の槍にさらされている本人が口を開いた。
「話を続けていいかな?」
完全にしれっとした言い様に、ラグとリークが苦い顔で黙りこむ。
「どうせここで聞かずに帰ろうとした所で、あんた逃がすつもり無いだろうが。
好きなだけ話続けてくれ」
宵闇が両手を上げて降参する。
「さっきラグ君が言った様に、これらはとても放置出来る代物じゃない。
欠片だけでも十分面倒な能力を持っている上に、情報も乏しすぎるんだ」
「その感じじゃ、あといくつあるかも、どんな力あんのかも不明、か?」
宵闇の壁はともかく、リークの空間破砕なんかが出回った日には
「5つもありゃ、ヒトが住めなくなるな」
「そこで、だ」
リークが顔に『不本意』と貼りつけながら口を開いた。
「私とお前は破壊と護りにそれぞれ特化した道具の保持者だ。
だから今後、遺物絡みの件が起きれば我ら2人が出て対処しろ。だ、そうだ」
「ついでと言っては何だが、どの島も有事があった時に対応できる人材が少ないんだ。
表立って大群を動かせば民衆の不安を呼ぶ。
遺物絡みでなくても、君たちに助力してもらえると嬉しい。
ラグ君も、裏で動くのに長けていそうだからね。可能なら二人を助けてあげて欲しい」
ラグは心底不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「あんたの部下になる気は毛頭ない。ギルド通してのちゃんとした、報酬付きの依頼なら受けるさ」
「俺も、そうだな」
宵闇も自分の膝に頬杖をついたまま、アスベルに目を向ける。
「あんたとしては俺を手元に置いときたいんだろうが、傭兵業でのお得意さんもいるからな。
一応住んでるのはこの街なんだし、遺物絡みがあった時に出来るだけ優先して依頼を受けるってのでやらせてもらえねぇか?」
「駄目だと言ったら?」
「有事の助力って雑用を一切拒否する。
そっちはあんた達がやれば済むことだからな。
それとも、それも軟禁して脅してやらせる気か?」
「うーん、それはそれで面倒そうだね」
アスベルは呟いてリークの方を向いた。
「私はどちらでもかまわない。
そいつらに騎士の真似事ができるとも思えんが?」
「わかったよ」
珍しく折れたようだ。
立ち上がり、肩に掛かった白銀の髪を手で後ろへやりながら、入って来たドアへと近づく。
「決して他言しない、宵闇君は街で遺物の力を使わない、それさえ守ってくれるなら君たちの要求を呑もう。
期待してるよ?」
少しだけ振り返ってそう言うと、アスベルはドアの向こうへと姿を消した。
「なーんかコレ、すげぇ腐れ縁になりそうだな」
宵闇が少し俯いて遠い目をすると、静かに足音が近づいて来た。
顔を上げると、リークが立っていた。
その顔には僅かに苦笑が浮かんでいる。
「間違いなく、腐れ縁になるだろうな。
だが、少なくとも遺物に関しては他に当たれる者もいないんだ。
すまないが、よろしく頼む」
宵闇の目の前に白い手が伸びて来る。
相手の行動に少し驚きながらも、その手を握り返した。
「よろしく、な」
<第1章 完>




