ロスト・フラグメント(6)
老人は金属片を握る手を震わせ歯噛みした。
「すみませんね。こんな事をして」
視線の先、窓から差し込む月光を背に受けながら白い法衣姿の男が佇んでいた。影になったその口には微笑。
「もう少し穏便にできれば良かったのですが、貴方の愚かさが度を越していたので仕方なく」
「悪魔め・・!」
ほんの数十分前まで部屋には他に何人もいた。
老人の侍従。連れて来させた名も知らぬ街人達。
その全員が白い法衣の出現と同時に突然殺し合いを始めたのだ。
剣が振るわれ、燭台が本来の用途を離れ、扉は開かなくなり、助けを呼んでも来る者はいなかった。
「どう呼ばれてもかまいませんよ。ただ、貴方の盗んだそれは、貴方の手には余るものです。渡してもらいますよ」
斑になった絨毯を踏み、アスベルは老人に近づく。
「く・・くくっ、もう遅いわ」
部屋の角に追い詰められた男の口から押し殺した笑いが響く。
「貴様がこれを奪い返したとて、再び封じる頃には貴様の弟は助からん!
そして貴様も・・ここで儂が息の根止めてくれる!!」
叫びとともに掲げられた金属片が鈍く光る。光は倒れている死人まで流れて包んでいき、立ち上がらせた。
「往生際の悪い方ですね」
アスベルの顔から笑みが消える。
「あの子は関係ありませんよ。
私は、私の目的を済ませるだけです」
自らを囲む死人を睥睨する瞳に宿っていたのは極北の氷のごとき冷たさだった。




