幻将(4)
「ただいま~☆」
「お帰りフィレット、上手くいったようだね。
お陰で私の方から彼らの状態を見れるようになった」
翼島・アスベル私邸。
光を散らして虚空から現れたフィレットを、アスベルはいつもと変わらない笑みで迎えた。
「どういたしまして」
言いつつ少年は、近くにあった椅子に腰掛ける。
「でも本と、殺されるかと思ったよ。
術士の僕に、リークの相手が難しいの分かってて無理言うんだもん。
ヒリーアルぐらいじゃ血は止まったけど治せなかった」
右腕、リークの剣を防いだ筈の部分を見せる。
浅いものから少し深いものまで、いくつもの傷が付いていた。まるで刃物を集めた中に腕を突っ込んだ様な有様だ。
「それは悪かったね。すぐ治すよ」
アスベルは少しだけ困ったような、すまなさそうな顔で近づく。
指先に蒼白い光を灯すと、傷のある辺りを円で囲む様に、くるっと指を走らせた。
『月の雫よ再生をここに』
円の中が発光し、みるみる傷が消えていく。完治するまでものの数秒だった。
「ありがと。
いつ見てもすごいよね、僕も素養があれば覚えるのに」
治ったばかりの腕を曲げたり伸ばしたりしながらフィレットは言う。
「星の術は攻撃ばっかりだもん。
守りや治癒もあるにはあるけど弱いから・・封印とかも破りやすかったんだろうねぇ」
悔しそうな口振りに、アスベルは「向き不向きだよ。逆に月術は星術のような火力がない」と返し、尋ねる。
「それで、アレは見つかりそうかな?」
「・・・・・・すごく腹が立つけど、僕と貴方の想像が当たっちゃったみたいだよ」
フィレットは青緑の瞳に僅かに不機嫌そうな光をやどして頭を掻く。
「誰だか知らないけど、僕の所から“かけら”を盗んだのと、リークを襲ったのは同じ奴だ。
あの遺跡にも目を付けてるみたいでさ、結界にやられた馬鹿達に少しだけ気配が残ってた」
「そうか」
「これからどうするつもり?僕の『探知』でも探せないことは無いから、潰して来ていいかな?」
アスベルは首を横に振る。「中を潰すなら私の方が適任だ。急に島を離れる訳にはいかないから準備が要るけどね。
それより・・・・」
先ほどフィレットがいた場所、森の中を写し出した投影水晶を見ながら何事かを考える。
「相手がアレを扱えるならば、じきにあの場所にまた手を出して来るだろう。
フィレット、頼んでいいかな?」
「わかった」
短く応えて少年が姿を消した後、アスベルは一人呟いた。
「まあ、手を出された方が良いきっかけになるかもしれないけどね」
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(どこだ・・・ここ?)
現実味の欠けたふわふわとした意識で宵闇は周囲を見回す。
立ち尽くす宵闇の前、真っ白い空間に広がる砂と瓦礫の山に、3人の少年少女が座っていた。
少女が言う。
『私たちは変わらないわ、なにがあっても』
応えたのは少年の内1人。
『ああ、オレたちが離れるなんてあるもんか!そうだろ?』
問いかけられたもう1人の少年も深く頷いた。
『俺たちは仲間だ。たとえ住む国が離れる事があっても、な』
そして繰り返す。
絶対に・・と。
視界が薄れる。
少年も少女も、彼らの座っていた瓦礫も下に広がる砂も、風に吹き消される霧のように無になっていく。
『忘れないで』
そんな声が聞こえた様な気がした。




