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109 白昼の襲撃2

 黒い半透明の壁を隔てて睨み合いが続く。


 向こうは宵闇の前方に二人、ちょうど反対側にいるフェリオンの前に一人。

それ以外は忽然と姿を消していた。

しかも、これだけ騒いでも周りに並ぶ建物から人が出てくる気配も、窓からこちらを窺う気配も無い。


(まさか建物ん中の人が全員こいつらに何かされてるってのは無いよな?)


 頭に浮かんだ嫌すぎる想像を振り払い、タイミングを見計らう。

緩く吹いている風に舞った木の葉が地面に付いた瞬間、同時にラグとフェリオンの足が地を蹴った。


 宵闇が壁を解除する。

ラグの手から数本の銀光が飛び、宵闇の前にいた二人の内片方を後ろへ下がらせる。

もう一人が持っていた片手用の銃を紺髪の青年へと向けたが、


「へっ!遅えよ!!」


 声とともに放たれた雷が銃に着弾して慌てて手を放して距離を取った。

ラグから距離を取っている方の男が、宵闇とリデルの方へと向かってくるが、宵闇が線で応戦し、接近を阻む。


(ちょうど良い。こいつを縛り上げて

ーー!?)


 すぐに頭の中が切り替わる。

急いで出現させた防御壁に、路地の裏と資料館の上方から四本もの火砲が殺到。視界が炎で埋め尽くされた。


「熱っ!この辺火事にでもする気かよ!?」

「あなたが防がなきゃそうなるかもしれないわね」


 すぐ隣にいる少女が顔をしかめて同意した。


「火が途切れたら少しこれ解いて。

取り合えずゼウレフ様の傷は塞いだから、あたしも外に出るわ」

「わかった」

(俺は――――)


 隣に経つ資料館へと月の視線を向ける。


(せめて一般人に犠牲者出ねぇようにしねーとな)


「今だ!」


 時間差で襲い来る火砲の間を縫って場を解除。

リデルが範囲から出たと同時に展開し直し、近くに横たえられているゼウレフを背負う。

 再び能力を解き、代わりに大量の黒線で周りを防御した。

壁ほど強固ではないので、軽い火傷を負いそうなぐらいの熱気は来るが、動きながら身を護るなら線の方が都合が良いからだ。


 相手もどうやら火事まで起こす気はないらしく、正確に宵闇を狙ってくる。


(くっそ!姿見せろよ卑怯者っ!!)


 心中で悪態をつきながら目的までの距離を詰めていく。

逃げ回る制服姿と交戦中のラグ、リデル、フェリオンの動きを見て、巻き込まない様に頭の中で範囲を決めた。


(ちょっとでけえけど……今の俺ならやれる!)

「悪い!少し抜けるぜ!」


 ヴュ!!


 周囲へ向けた短い言葉の後、宵闇の少し手前から資料館全部を囲む形で巨大な黒い半球が出現した。


 傍にある資料館の扉を叩き開け、中に滑り込む。

資料館の中は静まり返り、まばらに利用者や職員とおぼしき人々が倒れていた。近寄って確かめると、ただ眠っているだけのようだ。


「よかった。リデルの術がまだ効いてる」


 彼らに危害が無かった事に安堵しつつ、未だ館内に脅威が潜んでいる可能性を取り除くべく動く。


『場』を維持しながら線を創り出して操るのは出来なくもないが存外難しい。

しかし人一人背負いながらではろくに動きもできないので、ゼウレフを下ろして周りを最低限だけ線で囲った。

 背後を取られないよう警戒しながら。目に見えるいくつかの扉を片っ端から開けていく。

どこも静まりかえり、人の気配はしない。


 粗方確認し、今度は部屋の奥にある上へと続く階段へと向かいーー


 カッ!


 三段目を踏んだと同時に一宵闇の足下へ氷の矢が突き立った。

踊り場に暗緑の制服姿が現れる。


「へっ。

意外と出て来んのが早えな。俺なんか敵じゃねえってか?」


 制服姿は、ナイフを構えて睨みつける黒髪の青年へと無言で対峙したまま、すっと片手を掲げる。

一瞬で空中に作り出された数本の氷の矢が飛んだ。


(?!やべえ!!)


 淡青色の結晶が向かった先に、倒れている資料館の利用者がいるのに気づき、宵闇は迷いなく矢の前に飛び込む。


 殆どの矢をナイフで氷の破片へと変えたが、二本ほどが対処しきれずに腕を掠った。


 相手は敵の手が塞がった好機に何故か動かない。


「今のように」

「?」

「人質が取られるとは思わなかったのか?」


 響く平坦で低い、それでいて詰問するかの様な口調の言葉。

宵闇は迷いなく返した。


「街中の襲撃に外の術、あの時点で周りを人質にされてるようなもんだろうが。

だったら一般人の被害を一部でも減らした方がいいさ」


 さらにわざと強気に笑って付け加える。


「セコい真似ならすりゃあいい。死ぬまでしつこく邪魔してやる。

あんたも只で済むとは思うなよ」



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