18話 どんな世界にも娯楽はある
水も同然の酒を飲みながら俺は話し始めた。
「俺は独裁者だったんだよ」
一言話して肉を食べる。
軽い感じで言ってしまったのは反省できてないということなのだろうか。
そうだろうな。
反省しようと決めても出来てないということなのだろう。
「それって関係ある話ですか?」
「関係あるから。ってか独裁者ってとこに反応はないんだな」
「独裁者だった頃を見てないので実感がないんですよ」
色々言われたほうが反省できる気がした。
これなら酔ってたほうが色々考えないで済んだかも。
「色々してたんだよ。逆らうやつを殺したりな。そういう事をしてた結果、自分の子に殺された」
これも軽い感じで言ってしまった。
重く言った結果、しっかり受け止められるのが嫌なのだろうか。
こいつらに嫌われたくないのだろうか。
「自分の子に殺されるってだいぶ嫌われてたんだな」
鉄真の言う通り俺は嫌われてたのかも知れない。
普通に会話してけんかをすることもなかったから仲は良いと思ってたけど。
あっちの世界に帰りたいとは思ってないけど家族に嫌われてたかどうかは知りたい。
「殺されて気付いたらこの世界にいた訳だけど、多分この体は前の世界のと違うんだよな。かと言って転生でもないし」
「なんで違うと思ったんだ?」
「こんなに体格は良くなかったはずなんだよ。それにこの世界で目覚めてすぐの魔力が纏えなかった頃に虎に勝ててるからな」
筋肉がついたのは最近ずっと頑張ってるからまだ説明できるかも知れない。それでも成果がでるのが早いが。
虎の時はアへナのサポートのお陰で攻撃をほとんど受けなかった。
それでも多少は受けた。耳もとれ殴った手も傷ついた。
それでも俺より先に虎が倒れた。
大した体力もないはずの俺より先に。
素の肉体が明らかに強化されている。
「つまりどういうことなの?」
「さあ?異世界から来た人間の前例を知らないからな。普通は強化されるのかも知れない。前例とか知ってるか?」
「それこそ、さあ?だな。異世界のやつが有名になるとも限らないし。そもそも異世界から来たって自分で言うとも限らないからな」
「そうだよな」
言ったところで広まるとは限らないしな。
ふと、話に参加してない奴らの方を見てみると黙々と肉を食べてた。
ほんとによく食べるな。
味付けがないしゃぶしゃぶなのに。
「ていうか話してて思ったけどお前らこの話にそれほど興味ないだろ?」
「正直、独裁者だったとかは興味ないですよ。結婚してて死んだとか言われたから、どういうことか知りたかっただけなので」
炎華は本当に興味がなさそうな声で言った。
俺は重大発表だと思ってたがこいつらは人の過去に興味がないのかもしれない。
俺はこいつらの過去をものすごく知りたいが。
特に鬼の過去、なんでこの森にいるのかを知りたい。
「俺がなにかするとかは考えないのか?」
「なにかしても勝てるからね」
俺って影葉に舐められてるのかな?
勝てると言い切るとは。
「いやいや……絶対に勝てるとは言いきれないだろ」
「だってモノは逃げてたからね」
「お前もな」
なにを抜かしてんだこいつ。
影葉も師匠に戦わせてただろ。
「蒼水と雷斗に聞きたいんだけど影葉は逃げてたよな?」
「そうだね。二人は無理とか言い訳しながら逃げてたよ」
蒼水が答えてくれた。
これで影葉が逃げてたことは間違いない。
「俺は一応立ち向かってるからな!木刀で挑んでるから!」
「そう言ってるけどどうだったの?」
影葉が震音に聞いてる。
俺は本当のことしか言ってないからな。
「ボコボコにしたら逃げ出した」
「あはは、アへナもいるのに逃げ出したってモノのほうが情けないじゃん」
うんうん。そうかもな。俺はこいつより余裕で年上だからこの程度の煽りでキレるほどガキじゃない。
そもそも俺は戦闘に関しては素人であり初心者に対抗する影葉のほうが情けない。
そうだ、その通りだ。色々と言われるのは慣れてる。
冷静に返してやろう。
「白黒つけてやるよ。この中で誰が一番強いか決めようじゃねえか」
「望むところだよ。アへナ抜きのモノの強さなんて雑魚ってところをわからせてあげるよ」
「この中でって私たちもですか?」
「巻きこまないでくれよ」
炎華と鉄真がなんか言ってるが気にしない。
このクソガキを叩きのめしてやる。全員の前で。
外野が沸点低いだの、飯ぐらい静かに食えだのとうるさいがこれは名誉を賭けた闘いだ。
絶対モノのほうが強いと言わせてやる。
「モノさん、影葉、今日はもう遅いので明日にしましょう」
「分かった。明日ボコボコにしてやるから覚悟しとけ」
「モノこそ瞬殺されないように頑張りなよ」
炎華の言葉で明日やることが決まったので明日に備えて食べようと思ったら肉がない。
こいつら俺が喋ってる間に全部食べやがった。
じゃあお酒を……
「ねえ、酒がないんだけど」
「師匠とモノさんが全部飲みましたよ」
俺は薄めてたからそれほど飲んでないはずだ。
鬼玄師匠を見るとちょっと酔ってた。
酒瓶のほとんどを飲んだはずなのに全然酔ってない師匠は戦闘だけでなく酒も強いらしい。
「肉も酒もないけど何するんだよ。解散?」
俺がそう言ってる間に炎華がトランプを棚から取り出した。
みんな解散する気が無かったらしく、え?と言った感じで見てくる。
「モノさんは帰りたいんですか?」
「いや、なんかするなら残るよ」
「私たちはトランプするので帰っていいですよ?」
「残るって言ってんだろ」
イジメかな?
帰ってほしいならストレートに帰れと言ってよ。
目の前にトランプが配られる。
まさかトランプがあるとは。配られたカードを確認してみると数字もマークも同じだった。
これって別の世界の人間がこの世界で作ったのだろうか。
それともこの世界の人間が思いついたのだろうか。
後者だとしたらトランプってどこの世界が最初なんだ?
それが分かったとこで、なんにもならないんだけどな。
「ババ抜きですからね」
「ババ抜きって揃ったら捨てていって最後にババを持ってたら負けだよな」
「その通りです。そっちの世界にもあったんですね」
ルールは同じなんだな。
なら特に問題ないか。
「お前ら先にルール説明はしろよ。前の世界にババ抜きがなかったら困ってただろ」
さっき別の世界から来たって話をしたばっかなのに大丈夫かこいつら。
そういえば初めてババ抜きやるな。
そもそもトランプ自体が初めてだ。
「順番はどうします?」
「じゃんけんでいいでしょ」
震音が答えるとアへナが嫌がりだした。
「じゃんけんは運ゲーなんだけど」
「順番の決め方なんか基本そうだろ」
めんどくさいなこいつ。
初めてのババ抜きにちょっとテンションが上がってるのに、やめて欲しいな。
「そこまで言うなら、じゃんけんでいいよ」
大したこと言ってないけどな。
「せーの、じゃんけん、ぽん!」
何回かじゃんけんをして俺が勝利した。
友達とやるじゃんけんと初めてのババ抜きにすごくテンションが上がる。
「ねえ、モノがすごい嬉しそうなんだけど」
「じゃんけんに勝てたのが嬉しかったのでしょうか」
アへナと炎華が小声で話してるが気にならない。
まわり方も決めてババ抜きが始まった。
まず俺が鉄真から引いて……JOKERね。
とりあえずポーカーフェイスを。
「モノさん絶対ババを引きましたよ」
「急に無表情になったよな」
「うるさい」
JOKERの位置が分かっても共有しないで欲しい。
順に引いてるけどみんな揃わないな。
次はアへナが俺のを引くのか。
「なんだよアへナ。さっさと引けよ」
アへナが全然引かない。
カードに触れては俺の表情を見てくる。
「これがババ?」
「まだ一巡目だから早く引けよ」
「一巡目なんか関係ない。勝負は常に全力で!」
アへナがJOKERを引いてくれた。
こいつもポーカーフェイス下手だな。
動揺がすごい顔に出てる。
俺はJOKERがないことが分かっているので鉄真から適当に素早く引く。
全員の手札が減っていき、最後に俺とアへナが残った。
現在のJOKERは俺。
俺はカードを裏返しに置きシャッフルする。
「ほれ、早く引けよアへナ」
「自分のポーカーフェイスに自信がないからって運に任せるの?」
「いいから早く引けよ」
アへナは悔しそうにカードを見てるが、こいつってそこまで運に自信がないのか?
決断したアへナがカードを引いた。
アへナがカードを見て裏返しで揃ったカードのところに置こうとする。
その手を俺は掴んでとめる。
「どうしたの?揃ったから捨てさしてよ」
「お前よく堂々とイカサマができるな」
俺の手に残ったカードを見せるとアへナが目をそらしていく。
「お前が引いたのJOKERだろ」
「失敗か」
「なんで成功すると思ったんだよ」
どう足掻いてもバレる作戦だろ。
手を離すとアへナはカードを置いてシャッフルを始めた。
「お前もそれやるのかよ」
「なにか文句ある?」
「ないから安心しろ」
さっきの下手なイカサマ以上の事が起きたら文句も言うだろうがこの程度なら大丈夫。
こんなの考えたってなんにもならないので置いてあるカードを取る。
「チッ」
「残念」
「イカサマしたやつは黙ってて」
笑顔でアへナが言ってきたので言葉を返す。
今度は自分の手で持ってやる事にした。
自分のポーカーフェイスを信じるぜ。
「こっち?それともこっち?」
無言で表情を動かさないようにする。
アへナが左のカードに触れて止まった。
じっと見てくる。
「こっちね」
JOKERじゃないほうを取られそうになったので手に力を入れる。
このままでは取られる可能性があるためカードと手に魔力を纏う。
「いい加減にしてくれる?魔力まで纏って恥ずかしくないの?」
「お前のイカサマに比べりゃマシだろ」
「どっちも情けないんで早く終わらせてくれません?」
炎華に怒られて恥ずかしいので魔力を解く。
その瞬間にアへナに取られた。
「やったー!最下位はモノ!」
すごい笑顔で喜んでる。
自分の子供と同じくらいの年齢の子が喜んでるのは微笑ましいな。
「モノ〜?どしたの〜?喋る事もできないの〜?」
やっぱ駄目だ。腹立つな。明日こいつもボコボコにしよう。
俺が黙ってると隣でずっと煽ってくるんだけど。
「明日ボコボコにしてやるから覚悟しとけよ」
アへナに言ってやると無視された。
こいつ散々煽ってきたのに無視するのか。
「誰かモノの言葉を翻訳してくれない?最下位の人の言葉は私にはちょっと難しくて〜」
「師匠ちょっとそこの酒瓶貸してくれない?頭を叩けばこの馬鹿も人間の言葉を理解できるようになるだろ」
師匠から酒瓶を奪い取ろうとするが取れない。
それを見てアへナが更に煽ってくる。
「モノさんって年齢の割に精神年齢が低くないですか?」
炎華にそう言われ少し思い返してみた。
俺の煽り耐性ってここまで低かったっけ?
友達と遊ぶとかしたことがなかったから楽しいのかな。
「俺は適応能力が高いからお前らに精神年齢を合わせてるんだよ」
そういう事にしておこう。
精神年齢を上げようと思ったらいつでも上げれるから。
俺がそんな事を考えてる間に炎華が師匠に泊めてと頼んでいた。
炎華が師匠に言ったせいで二人の師匠が全員を泊めようとしている。
俺は家から出るために動き出した。
が、鉄真に腕をつかまれた。
「モノも泊まろうぜ」
「嫌だ」
「なんで?」
「朝から修行することになるかもだろ?」
「別にいいだろ」
みんなが頷いてる。
こいつらの修行に対する意欲はなんなんだよ!
心の中でツッコんでる間に部屋に連行された。
男と女は別の部屋で寝ることになった。
あいつらに興味はないのでどっちでもいいけど。
泊まりが確定して諦めた。
そして床に寝転がった。
「枕投げしない?」
「枕がないのに?」
寝ようと思ったがうるさい。
テンションが上がるのも分かるが静かにしてほしい。
気にせず寝よう。
目を瞑った瞬間に雷斗が俺の上に倒れ込んできた。
「あ、モノごめん」
「大丈夫だから寝ろ」
そう言ってもう一度目を瞑った。
こいつらは少し反省したのか寝転がった。
それから少しの間、話し声がしたが気づいたら聞こえなくなっていた。




