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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.12 分断――放浪

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04





 キース・バートン氏がこの場所を選んだ理由は分からない。しかしついこの前までは自分の責任下にあった場所――つまりAEの直営店――ではある。なにかあるのかもしれない。


 ふたりして入ると、やや古臭いカフェの中にゲーム筐体が沢山置かれている、ややヘンテコな中は変わっていない。意外と客は多く、めいめい自分が好きなゲームをプレイしていた。バートン氏はゲームをしたいのだろうか。しかしそれだけならわざわざこのような店に来る理由にはならない。


「こういう店を運営しているのは、ゲームだけじゃない体験をしてもらいたいからなんだ。いや、だったと過去形で言うべきなのかもしれないが」


 実際には赤字部門だった、と彼は語った。しかしただ無機質ではない、温かいエンターテインメントを提供する企業として、こういった事業もしていたのだ、と彼はやや自慢気である。


「そうなのですか」


 それは中々小気味いい考え方だと思う。AEはビッグ・トラストの中でも一番人情味のある企業だと評価されている所以。しかしこれからはどうか。


「しかし新しい経営陣は、赤字部門は切り捨てるかもしれない」

「企業イメージを保つのは大事なことでは? 後任の方もそれが分からないひとではないでしょう」

「私にはもう、どうとする権限もないという意味で言った」


 しかし彼は辞めたことを後悔はしていないとも言う。彼の心の裡を読む(リーディング)ことはできないが、もう後ろは振り向かないという決意は見て取れた。


「しかしこの世界はどう変わっていくのだろうね」

「それは私たちが引き起こした事件を指して言っているのですか?」

「もちろんそうだ。そして私が辞めたのもいささかの変化を起こすだろう。秩序は少しずつ崩れていっているのかもしれない。それを安全地帯で眺めていたいから辞めたのでもあるんだがね」


 バートン氏は悪びれもしない。その意味で、彼はどこまでも個人主義者であり――責任ある立場にいたのが少々信じられない。しかしそれがAEの自由な気風を作っていたのも分析はできる。


「さあ、なんのゲームで遊ぼうか」

「私にはゲームを遊ぶ(プレイ)という概念はないのですが」

「なるほど、それがAIであるという証明か。完全自律思考型と言っても同じなのか」


 AEの発売(リリース)するゲームはすべてAIをテスターとして使っているという。傘下の会社(デベロッパー)他社(サードパーティー)もそのAEが実施する試験を合格(パス)しなければAE公式プラットフォームではリリースできない。それはバートン氏が作ったシステムらしい。


「大昔にあった日本のゲームメーカーのやり方を真似てみたんだがね」


 ともあれ、AIにとってゲームはどこまでも解析(アナライズ)するものでしかないのを、彼は素直かつ迅速に理解したのだった。


「しかし、きみのようなAIが試験したゲームというのも一度見て見たいものだな」

「大して変わらないと思いますが」

「そうかな?」


 誘拐した時は何も思わなかったが、キース・バートン氏とこうやってのんびり話していると、彼は中々の好人物であるのが分かった。ひとの上に立つ者というのは、善人ではないとしても見るべきところはあるということか。竹芝亮氏にも同様のものを感知した。とすればCSAのエイドリアン・ジョンソン=リー氏は――どうなのだろうか?


「まあ、ここは私に楽しませてくれ」

「私とゲームをして楽しくなるでしょうか」

「なるに決まっている。言っただろう。私はきみに惚れているんだ」


 そう言って彼が選んだのは「ブラッディ・フィスト」という2D格闘ゲームだった。一人用のストーリーモードもあるが、一番の目玉はやはり対戦機能である。もちろん、わざわざゲーミングカフェを訪れなくともネットワーク上では自由に対戦相手を選べる。しかしわざわざ足を運んで筐体の左右に付きながら遊ぶことに先程言ったところの妙味があるのだろう。


 プレイヤーキャラを自由に選べるゲームでもあるが、ここはあえてランダム選択にした。そして対戦が始まり――もちろん私は負けなかった。


「……やはり処理能力では人間はAIに勝てないものなんだな。おかしな話だ、人間の作ったAIが人間を凌駕するとは」

「人間が人間以上の出力を発揮する道具を作ったのはなにもAIに限りません。自動車などは人間の足では到底敵わない速度を出すのですから。人間は自分では飛べない代わりに飛行機を作りました。人間の文明とはそういうものです」

「なるほどね」


 バートン氏は腑に落ちたように頷いた。


「ところでこの『ブラッディ・フィスト』も私がプログラマー時代に製作(デベロップ)したものなんだが……」

「おいおい、会社を辞めてこんなところで余生を送っているのか。無責任な元社長さん」

「ダニエルか。そう言えばお前はここの責任者だったな」


 やって来たのは「オールドスタイル」の店長、ダニエル・藤田氏だった。


「しかもこのお嬢さんは出禁にした筈なんだがな。どういうつもりだ」

「出禁とか、そんな冷たいことをしなくていいだろう。――私はデートを楽しんでいるんだ」


 バートン氏によれば、藤田氏はかつての同僚で、幾つものヒットタイトルを共同で生み出していったらしい。


「本当はダニエルのほうが有能だった。運命の歯車がちょっと違えば、こいつがCEOになっていた未来もあった筈だ」

「それは違うな。俺は企業での出世は求めなかった。向いていないのもあるし、興味もなかった。ゲーム制作の技術(アート)と経営の技術はまた別物だからな」


 藤田氏はむしろ誇らしげに言った。


「しかしAIとゲームをして、お前は楽しいのか?」

「完全自律思考型AIは、私は推進派のひとりだった。AIが道具を超えて、人間の友人になれると信じていた――だが社内では反対派の声のほうが大きかった」

「じゃあ辞めたあとは自分で自律思考型を作るのか?」

「――いずれはそうなるだろうと思うが――」


 バートン氏は自嘲的に続ける。


「いや、実際にはAIに惚れるなんておかしいって思っている。まして犯罪者のAIに。そして私はその被害者でもあったのだ――」


 確かに人間とAIの恋愛というのは非生産的だし、馬鹿馬鹿しいものなのかもしれないと私も判断する。だがその上で私は――不覚にも――そんなバートン氏を可愛らしいとも認識していたのだった。

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